新年を迎え最初のコラムです。本年もよろしくお願い致します。昨年はおかげさまで本当に忙しく働かせて頂きました。お世話になった皆様、本当にありがとうございました。
私の現場は地方がほとんどですが、その現場で「ジュエリーが売れている」という感覚は、残念ですが感じられませんでした。しかし、業界全体としてジュエリーは間違いなく売れています。正確には「ジュエリーを買う“新しい”お客様が続々と誕生していると表現すべきかもしれません。つまり、これまでの流通とはまったく違う新たな流通プロセスが誕生していると考えなければなりません。これは、20年ほど前からの流れで、メーカーや卸業者さんが小売りに力を入れ始めたというような単純な話ではありません。中間マージンが消えた分安く販売等という薄っぺらい価値観は既に崩壊しているのは明白です。「いらない商品はいくら安くてもいらない」のです。そしていらないジュエリーが自宅にあふれていた人々も高齢化や新たな気付きの中で消滅しつつあります。IJTの現状でも言えますが「小売店さんが仕入れないから直売する」というアナログな思想の中で、令和のいま、消費者の皆様にジュエリーが売れるわけがないのです。
激務が続いた昨年、全国の現場で感じたのは「ジュエリーを買えるお客様達が高付加価値の商材を必死に探している」という「欲求」の強さでした。長年現場を回っていますが、個人的には驚愕でした。昨年くらいから、市場も、社会にも、そして何より“人々”にもさらなる変化が起きているようです。もはや、変化というよりも進化と言うべきかもしれませんね。これに気付かないままビジネスを進めるのはリスクを通り越して自虐としか思えません。
地方の現場、とりわけ小売さんには、これまで以上に明確なマーケティング戦略が求められていると思います。自然災害が増える中での急速な人口減少、可処分所得の二極化、デジタル接触点の高度化といった構造変化の中で、「良い商品を置いていれば売れる」という時代は完全に終わっているのです。
地方において高単価商品の販売を成立させるために最も重要なのは、価格の正当性を“論理と物語の両面”で説明できているかどうかだと思います。都市部と異なり、地方では口コミ・信頼・長期関係が購買行動に強く影響しています。そのため、なぜこの価格なのか、なぜ自店で扱うのか、なぜ今、必要なのかを明確に言語化できない商品は、確実に淘汰されるのです。自分で多くのお客様の販売に関わる中で強く感じるのは、単なる希少性や素材自慢では不十分であり「顧客の人生や価値観にどう寄与するのか」という意味とその文脈設計が不可欠であるということです。マーケティングの主戦場は「広告」から「理解」へと変化しつつあります。2026年の地方小売において、広告出稿そのものは主戦場になりにくいのではないでしょうか。重要なのは、顧客が商品を“理解するまでの導線”をどう設計するかでしょう。店頭での説明力(スタッフの知識と“ことば”の活用能力)、SNSやWebにおける長文・解説型コンテンツ、購入前後のフォロー(使い方、背景説明、メンテナンス) といった接点の質が、売上を左右すると断言できます。高単価商品ほど「即決」ではなく「納得決断」で選ばれるため、マーケティングは短期の集客施策よりも、理解を積み重ねる編集作業みたいなものです。小売店さんの展示会に長年通い続けるメーカーの担当者が、その小売店さんの常連顧客から絶大な信頼と人気を得るプロセスに似ています。このような現象の元祖となるのが小売店さんの名物店長、名物社員、名物社長等々。
地方小売の最大の強みは、事業者自身がブランドになり得る点でしょう。 2026年においては、店主の思想や美意識、商品選定の基準、失敗や試行錯誤の履歴といった要素そのものが、信頼資産として機能するはずです。特に高単価領域では「誰から買うか」が「何を買うか」と同等、あるいはそれ以上に重要になります。無機質なECとの差別化は、ここにしか存在しないからです。「狭く、深く、長く」お客様達と付き合う明快な経営方針に勝るものはないはずです。地方・高単価型小売におけるマーケティングの理想形は、顧客数の最大化ではない。 むしろ、少人数でも継続的に購入してくれる顧客や、商品背景を理解し、他者に語ってくれる顧客、そして何より数年単位で関係が続く顧客をどれだけ育てられるかが成否を分ける事でしょう。私が経営する群馬県高崎市の小売店では、新春セールではなく、お客様達に声掛けして、昔ながらの「餅つき大会」を開催しました。杵と臼の登場でした。子ども達もたくさん参加してくれて、店内で「かるた大会」も行いました。夏のバーベキューの時もそうでしたが、子ども達の絵日記に登場するような仕掛けをこれからも増やしたいと思います。そのためには、CRMや会員制度、限定情報の発信などは「囲い込み」ではなく「関係性の深化」を目的としてさらなる研究を進めるつもりです。
2026年、私が考える地方高単価小売は“思想産業”だと思っています。単なる物販業ではなく「価値観・美意識・選択基準」を提供する思想産業へと変化しているはずです。
マーケティングは、売るための技術ではなく「なぜ自分たちはこの商いをしているのか」を社会に翻訳する行為だと考えます。この問いに真正面から向き合えるジュエリー小売店さんだけが、地方においても持続的に選ばれ続けると思っています。



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