The Watch & Jewelry Today 5月15日号に掲載したものです。
まず最初に、今回のコラムは結果的に弊社商品の宣伝のような内容を含んでしまうことを、皆様にお詫び申し上げたいと思います。私はいま、単なる商品紹介ではなく、この四半世紀にわたりブライダルジュエリー業界で経験してきた現実と、その中で辿り着いたひとつの答えを、正直に書き残したいと思っています。
1990年代後半、宝飾業界にはブライダルジュエリーブームが訪れた。現在でも高い知名度を持つ多くのブランドは、この時代に誕生している。私自身もその流れに背中を押され、数多くのブライダルジュエリーの開発に取り組んだ。しかし、弊社のような小さな工房にとって、大手商社や大規模メーカーが展開する「デザイン性」「広告力」「大量生産力」を武器にした商品群と真正面から競争することは容易ではなかった。
そこで私達は、熟練職人達の技術を頼りに“他社では量産が難しいもの”へと活路を見出した。複雑な加工、異素材の融合、そして独自性の高い表現。大量生産ではなく「技術でしか成立しないブライダルジュエリー」を追い求め続けたのである。

発売当初は、多くの販売店様に取り扱っていただき、注文も順調に増えていった。しかしブームが拡大するにつれ、工房も販売店も急増し、市場は激しい競争状態となった。市場規模そのものが大きく伸びたわけではないため、多くの企業の売上はやがて頭打ちとなり、徐々に減少へ転じていった。
注文減少は、職人達のモチベーションにも大きな影響を与えた。高齢化が進んでいたこともあり、引退や工賃交渉の不成立が増え、長年支えてくれた熟練職人達が現場を去っていった。販売店側もまた、価格競争や集客競争に疲弊し「ブライダルジュエリーを本気で頑張れる店」が減少していった。そこへ、コロナ禍がやってきた。
現在のブライダルジュエリー市場は、卓越したマーケティング力で勝ち残った企業、少ない売上でも成立するアトリエ型個人店、Web通販主体のブランド、さらには大手同士の消耗戦など、多極化が進んでいる。どの立場であっても、もはやブライダルジュエリーのビジネスは、決して簡単ではない事は明らかである。
そして私は、この四半世紀を振り返った時、自分自身の失敗についても深く反省している。販売店様の実力差や特色を十分に見極められなかったこと。複雑な商品展開を増やし過ぎたこと。継続的なフォロー体制を構築しきれなかったこと。さらには、職人達が高齢化していく中で「未来の製造体制」を守り切れなかったこと。結果として、多くの皆様にご迷惑をおかけした。
だからこそ今、私は「売ること」以上に「長く続けられる仕組み」を重視するようになった。
その中で、深刻なのは金やプラチナ価格の異常な高騰である。世界情勢の不安定化、資源価格の上昇、円安などが重なり、貴金属価格は長期的に見ても上昇傾向を続けている。つまり、従来型のブライダルリングは、今後さらに販売価格が上がっていく可能性が高いということでもある。
もちろん、プラチナやゴールドには長い歴史と価値がある。しかし一方で「結婚指輪を欲しいけれど高すぎて難しい」と感じる若い世代が増えているのも現実だ。さらに、現代の若い世代は肌が敏感な方が非常に多い。金属アレルギーへの不安は、以前とは比較にならないほど高まっている。だからこそ今、“アレルギーフリー”という考え方は、時代に求められる大きな要素になり始めていると私は感じている。
そして私は、ここで若い世代にひとつだけ伝えたいことがある。 私達は、もう「結婚指輪を諦める若者」を増やしたくないのである。
価格が高いから。 金属アレルギーが不安だから。 自分の指のサイズが特殊だから。 他人と同じものしか選べないから。
そんな理由で、人生の大切な節目を諦めてほしくない。
HR-Dジュラルミンマリッジリングは、サイズ1号から30号まで対応している。最近の若い女性に多い非常に細い指にも、大柄な男性の指にも対応できるようにした。つまり私達は、「サイズがないから無理です」という言葉を、できる限り減らしたかったのである。
結婚指輪は、本来、限られた人だけの贅沢品ではない。愛し合う二人が「これから家族になる」という覚悟を形にするものであり、その想いに、価格や既成概念だけで壁を作りたくない。だからこそ私達は、“誰かを諦めさせないブライダルジュエリー”を目指したいと思っている。
日本ジュエリー協会の定義の中で「ジュエリーとは、希少性が高く、資産価値があり、長く使用できるもの」と書かれている。そして、その中にはシルバーもジュエリー素材として含まれていた。私は「愛用する方にとって価値があり、職人の匠の技によって美しく仕立てられた金属」もまた、ジュエリーなのではないかと思っている。
素材価格だけで価値が決まるのではなく、その素材をどれだけ真剣に研究し、どれだけ美しく仕立て、人の人生に寄り添えるか。その積み重ねこそが、ジュエリーの本質ではないかと感じている。だからこそ、たとえジュラルミンであっても、私達は“ジュエリー”を作っているつもりで製造している。それが、HR-Dジュラルミンマリッジリングである。
ジュラルミンは、航空機分野などにも活用されてきた極めて優秀な軽金属であり「軽金属の皇帝」と呼ばれることもある素材だ。軽量でありながら高い強度を持ち、熱伝導性にも優れる。そして何より、独特の美しい質感を持っている。
私達は、そのジュラルミンをブライダルジュエリーとして成立させるため、長年にわたり加工技術を研究してきた。さらに独自の「ブラウニッシュジュラルミン」仕上げによって、従来のブライダルリングには無かった新たな価値観を表現している。
私は、宝飾店の顧客候補は「誰でも良い」とは思っていない。ブラウニッシュジュラルミンのマリッジリングを、インターネットの中から探し出し、その価値に辿り着ける若者達は、自分自身の価値観をしっかり持っている人々だと思う。
「なぜこれを選ぶのか」を自分の言葉で考えられる人々。価格だけではなく、素材の背景や、職人技術、ブランドの思想にまで興味を持てる人々。私は、そういう若者達こそが、本当の意味で“ジュエリーの本質”へ辿り着ける顧客候補なのではないかと感じている。
特に、大量生産品をどこかで嫌い、科学技術や先端素材に興味を持つ若者達は、必ずジュエリーの価値を理解できる感覚を持っているはずだと私は信じている。なぜなら彼らは、「ブランド名」だけではなく、“なぜその素材が使われているのか”“どんな技術で成立しているのか”“なぜ他社では真似が難しいのか”という本質を見ようとするからだ。
それは、航空機素材として進化してきたジュラルミンを、職人技術によってブライダルジュエリーへ昇華させるという、私達の思想とも重なっている。そして、そんなこだわりの高い人々を探し当てることが出来る素材こそ、ブラウニッシュジュラルミンなのではないかと信じている。
さらに私は「他人とはかぶらない結婚指輪を選びたい」と考える若い世代こそ、これからの地域小売店の未来を支える存在になるのではないかと感じている。誰かと同じではなく、自分達らしい価値観で人生を選びたい。大量消費ではなく、“意味のあるモノ”を身につけたい。そんな感覚を持つ若者達が、地域の宝石店で結婚指輪を選び、家族になっていく。その積み重ねこそが、地域密着型の宝飾店を未来へ繋いでいく力になるのではないだろうか。
HR-Dシリーズは、その流通戦略にも、大きな決断をした。全国を13ブロックに分け「各地域1社限定」という約束で展開を進めている。
今回は、東京・名古屋・大阪といった巨大都市圏では展開せず、原則として、それぞれの地域で長年信頼を積み重ねてきた創業店や本店だけに取り扱いを限定する。現在は7ブロック7社でスタートしている。
ビジュアル的にインパクトのあるブラウニッシュジュラルミンリングと、地域限定の施策は販売店様にとって極めて大きな意味を持つ。限られたお店でしか現物を見る事が出来ないという強い集客理由を持てるからだ。情報が溢れる時代だからこそ“希少性”は大きな武器になる。そして何より重要なのは、ブライダルジュエリーを通じて、“こだわりの強い”若い新規顧客を店頭へ呼び込み続けることである。
宝石店に未来があるかどうかは、20代、30代の良質なお客様とどれだけ新しい関係性を築けるかにかかっている。既存顧客だけに依存した市場は、必ず縮小していく。
この挑戦が成功するかどうか、正直、まだ私にもわからない。しかし、数え切れない成功と、それ以上の失敗を経験してきたからこそ、いま強く思う。これからの時代の宝石店に必要なのは「安売り」ではなく「わざわざ行く理由」なのだと。
そして私は、HR-Dジュラルミンマリッジリングを通じて「結婚指輪を諦めなくていい時代」を少しでも作りたいと思っている。価格で諦めさせない。個性で諦めさせない。金属アレルギーへの不安でも諦めさせない。誰かと同じではなくてもいい。自分達らしい結婚指輪を選んでいい。
そんな時代を、地域の宝石店の皆様と一緒に作っていきたいのである。
ブライダルジュエリーに関わって25年目のいま、HR-Dジュラルミッジリングが、その「理由」のひとつになれるのであれば、これほど嬉しいことはない。


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