
LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンの2026年第1四半期決算は、高級品市場の現在地を端的に映し出した。グループ全体の売上高は191億2,100万ユーロで前年同期比6%減。ジュエリーを含む「Watches & Jewelry」部門も24億4,300万ユーロと同2%減となった。表面上は減収だが、範囲の影響を除いたオーガニック成長率では同部門は7%増であり、LVMH全事業の中でも最も強い伸びを示した。
今回の決算で注目すべきは、LVMHのジュエリー事業が「逆風下で選ばれるカテゴリー」であることを改めて示した点にある。LVMH自身は、中東情勢の悪化が第1四半期のオーガニック成長率を約1ポイント押し下げたと説明している。加えて、欧州と日本では旅行客消費の鈍化が重荷となった。それでも米国は年初好調、アジア(日本除く)も2025年後半からの改善基調を維持しており、地域ごとの濃淡はあっても、需要そのものが全面的に崩れているわけではない。
特に興味深いのは、LVMHの中でティファニーとブルガリが相対的な強さを発揮したことだ。LVMHによれば、ティファニーは第1四半期に「excellent performance」を記録し、店舗改装の進展に加え、HardWearの非常に強い伸びが牽引役となった。ブルガリも力強い成長を示し、ハイジュエリーおよびプレステージウォッチの新コレクション「Eclettica」を打ち出したほか、SerpentiとTubogasが好調であった。さらにショーメではBee de Chaumetコレクションの拡充が寄与した。単なる値上げ耐性ではなく、アイコン商品群の強さとブランド体験の設計力が、いまの高級宝飾を支えていることがわかる。
ティファニーの動きは、とりわけ示唆に富む。LVMHと業界メディアの説明を総合すると、同社は高級ジュエリーの伸長に加え、HardWear、Knot、Sixteen Stoneといった象徴性の高い定番ラインを軸に勢いを維持している。加えて、ニューヨーク旗艦店「The Landmark」を含む店舗刷新が成果を上げ、ナタリー・ポートマンを起用した新たなブランドキャンペーンや、グシュタード・北京でのハイジュエリー訴求も追い風となった。いわば「商品」「空間」「物語」の三層を同時に磨き込むことで、単なる価格競争から一段上の土俵を確保しているのだ。
減収の背景は需要崩壊ではなく、為替と地政学と観光消費の揺らぎ
LVMHのグループ全体売上は前年同期比で6%減少したが、これは主に為替影響が大きい。LVMHの開示では、為替変動の影響はマイナス7%であった。つまり、報告ベースの減収と実需の弱さは同一視できない。ジュエリー部門が報告ベースで2%減でも、オーガニックでは7%増という事実は、この点を端的に示している。
もっとも、安心材料ばかりではない。LVMHは中東で一部店舗を一時閉鎖し、特定商業施設では需要が最大70%落ち込んだと説明している。ドバイのような観光・購買ハブでの失速は、高級品市場全体にとって無視できない。Reutersも、LVMH株が決算後に下落し、年初来では大きく値を下げていると報じた。市場は「高級品需要は底打ちした」と楽観するより、「回復はまだら模様で、地政学イベントが一気に消費心理を冷やす」と見ている。
その一方で、宝飾カテゴリーはラグジュアリー市場の中で比較的粘り強い。実際、競合グループのケリングでも、今年新設されたジュエリー部門(時計含む)の第1四半期売上高は2億6,900万ユーロと前年同期比14%増で過去最高を記録した。LVMHだけの特殊要因ではなく、ラグジュアリー市場のなかでジュエリーが相対的に強い分野になっていることがうかがえる。バッグやアパレルに比べ、宝飾品は資産性、記念性、世代継承性といった意味価値を帯びやすい。景気の揺らぎや消費者心理の変化があっても、その価値の受け皿になりやすい。
「高いから売れない」ではなく、「理由が薄いと売れない」時代へ
今回のLVMH決算は明確な示唆を持つ。第一に、価格そのものよりも、価格を正当化するブランド文脈の有無が一段と重要になっていることである。ティファニーのHardWear、ブルガリのSerpenti、ショーメのBee de Chaumetのように、明確な意匠資産を持つ商品群は強い。第二に、店舗改装や空間演出は依然として有効である。ECが一般化しても、高額商材では「どこで、どのように見せるか」が購買転換率を大きく左右する。第三に、訪日客需要は重要である一方、それに依存しすぎる構造は外部環境の変化に脆い。LVMHが欧州・日本で「ローカル需要が観光需要減を一部補った」と説明した点は、日本の宝飾小売にとっても示唆的だ。
結局のところ、今回のLVMHの数字は「ジュエリーが弱い」のではなく、「ラグジュアリー市場全体が不安定化する中で、ジュエリーがなお相対的優位を保っている」ことを示している。報告ベースでは減収でも、オーガニックでは最も伸びた。これは偶然ではない。高級宝飾が持つ、希少性、象徴性、記憶性、贈答性、そして資産に近い感覚が、他カテゴリーより強く評価されているからである。景気が曇る局面ほど、単なる贅沢品ではなく「意味の濃い商品」が選ばれる。




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