マリー・アントワネットの秘蔵ジュエリー、ロンドンV&Aで初公開へ

フランス最後の王妃マリー・アントワネット。その波乱の生涯を彩った伝説的な宝飾品の数々が、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)で公開されることになった。宝飾史に燦然と輝く歴史的ピースが一堂に会する、またとない機会となる。

本展のハイライトの一つは、2018年にオークションで3600万ドル(当時約40億円)という驚異的な価格で落札された天然真珠とダイヤモンドのペンダントだ。また、王妃が処刑される前にフランスから密かに持ち出されたとされる、ダブルリボンのボウ・ブローチも展示される。これらは王妃個人のコレクションであり、その来歴自体が宝飾品としての価値を一層高めている。

しかし、最も注目すべきは、かの有名な「首飾り事件」との関連が囁かれる「サザーランド・リヴィエール・ネックレス」だろう。このネックレスには、極めて希少なタイプIIaのゴルコンダ産ダイヤモンドを含む、20石の大粒なオールド・ブリリアントカット・ダイヤモンドが連なっている。

歴史を紐解けば、事件の中心となったネックレスは、もともとルイ15世が寵姫デュ・バリー夫人のためにパリの宝石商ベーマー&バッサンジュに作らせたものだった。しかし王の急死により未完成のままとなり、後にルイ16世の妃であるマリー・アントワネットに献上されたが、彼女は「あまりに華美すぎる」としてこれを拒否した。その後、このネックレスを騙し取ろうとする詐欺事件が発生。王妃自身は無関係であったにもかかわらず、民衆の怒りの矛先は彼女に向けられ、フランス革命への気運を高める一因となった。

事件後、ベーマー&バッサンジュのネックレスは解体され、個々のダイヤモンドは売却されたとされる。しかし、その最高品質のダイヤモンドの一部が、時を経てサザーランド・ネックレスに姿を変えたと広く信じられているのだ。今回の展示では、事件の発端となったネックレスの精巧なレプリカも並び、歴史の謎に迫る。

サザーランド・ネックレスのダイヤモンドは長年にわたり英国貴族が所有していたが、2022年、相続税の代わりとして政府に物納され、V&Aの所蔵となった。その来歴もまた、このジュエリーの物語性を深めている。

展覧会「マリー・アントワネット・スタイル」は、ロンドンのサウス・ケンジントンにあるV&Aにて、9月20日から2026年3月22日まで開催される。英国でマリー・アントワネットのみに焦点を当てた初の展覧会であり、ヴェルサイユ宮殿などから貸し出された門外不出の品々を含む約250点が展示される。

宮廷衣装の豪華な断片や王妃自身の絹のスリッパなど、極めて稀少な私物と共に、歴史的逸話と最高峰の宝飾品が融合する本展は、現代のジュエリー関係者にとって、デザイン、クラフツマンシップ、そして石そのものの価値を再認識させる貴重な機会となるだろう。

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