宝飾展から見る、業界の課題とやるべきこと

 1月に開催された国際宝飾展IJT2024(主催:RX JAPAN)の来場者数は4日間で21,412名と発表があった。

 本来知りたいのは来場者の内訳だろう。海外では来場者のカウントはデジタル化され、誰がどのホールに何回入場したかなど詳細が分かるようになっている。しかもコロナ以前、相当昔から出展社ニーズに応えており、会場構成などに活かされている。これは国際見本市として他国との競争にも繋がる大事なデータであるはずだ。

 また、IJTの位置づけは変わりつつある。7月にBtoC向けのジュエリーフェスが昨年より開始されたことからもわかるように、国内の宝飾小売店がメインターゲットではなくなった。来場者は中国をはじめとした海外バイヤーと他業種からのバイヤーだ。出展社はインバウンドやライブ販売を獲得しに商品を揃えるほか、相変わらず中古品に群がる人が目立ち、国内宝飾小売店との商談は激減傾向にある。

 それが“宝飾市場の現実”になるのだろうが、出展社からの要望や来場者からの希望が聞こえてこないのが日本の宝飾産業であり、一丸となれない悪いところだ。その理由は、次世代を育てなかった高齢世代、先代を超えられない中間世代、視野の狭い若手世代による不完全な継承をはじめ、時代に沿わない流通、ブランドに頼る販売で育たない日本のジュエリー文化とものづくりと人材、そして積極的な活性化戦略が生まれないネガティブな思考が充満した環境など思い当たる節は出せば切りがない。それよりも注視したいのは“宝飾市場の現実”で、来場しているアジア各国のバイヤーやハンドメイド作家だけではなく、積極的に次世代へジュエリーを提案する新規参入企業と個人の動向を知ることではないだろうか。BtoC向けの展示会に批判が出たのはいいが、結局BtoBで業界を持ち直そうとする動きは見られなかった。

 生き残りが掛かった変革の時代の中で苦しいのは皆同じだが、他業種に比べれば恵まれている産業であるにも関わらず、グループ内でも共有されない情報があるなど、淘汰されることへの恐れで前に進めていない。本来はそうならないための組合や組織であるはずだが、どの組織も若返りと継承ができなかったことで力を失い、復活に動き出せているのは数少ない組織だけだ。

 そんな環境の中で、流れている情報は狭いエリアに限られた既存の売れ筋商品や企業の動向。しかも新しい情報を拒絶する傾向が強い。移り変わりを読み取る力が弱すぎ、これまで入ってこられなかった新規参入企業が増え、新しい事業などで利益を徐々に取られ始めていることにも鈍感になっている。これまで交わることのなかった中古を扱う業者とも今後はライバルになっていくことも考えられる。

 どこの産業でもリサイクルやアップサイクルなどを時代に合わせて取り入れるほか、新業態などを加えて本業の発展を伸ばしている企業が多い中で、宝飾業界からは他を否定する声ばかりが目立ち、前向きさが欠けている。もう宝飾専門店だけが宝石を売る時代ではなくなってきているだけに、専門性を活かして消費者に喜ばれる日本らしいジュエリーを発信してもらいたい。

 頑張る人や努力する人がいないわけではないが、保守的すぎる。いまは新規参入企業や個人が業界を変えていきそうな動きが多く有り、あまり業界には反映されていないことが懸念される。

 もう団体で課題に本気で向き合うのは無理だという意見も多い。誰に聞いても企業同志での強力はあり得ないと感じているそうだ。そんな悲しい歴史を背負うのなら、同じ考えを持つ者同士で新たな集合体を集うなど前向きに動いた方が楽しいに違いない。ネガティブに自然淘汰されるのを待つ者と足並みを揃えても大きな徳はない。

 ジュエリーは売れないのではない。ジュエリーを求める若者がいないのでもない。自分の売っている商品に自信を持てない、愛のない業界人が多いだけで、どんどん若者にジュエリーを売る新規企業と個人は増えている。

 そろそろ自然と大きく世代が入れ替わることだろう。何をやるにしても協力者は多い方が良い。業界を背負う世代は積極的に協力し合い、先代は次世代の育成に力を注ぎ、さらに下の世代に継承していくべきだ。これからは前向きに動く人との取り組みを仲間と共に増やしていく時代だ。

本記事は「時計美術宝飾新聞2024年3月15日号」からの転載です。

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