注目を浴びるラボグロウンダイヤモンド – ブランドと製品の方向性

コペンハーゲンを本拠地とするジュエリーブランド「パンドラ(PANDORA)」は最近新たな動画広告を公開。動画内ではモデルや俳優、インフルエンサーなど多数の人が出演し、ラブ・ハピネスというフレーズが繰り返される音楽をバックグラウンドに「薬指、すべての指、どこにでも、ダイヤモンド、ダイヤモンド、ダイヤモンド、ダイヤモンド」と語りかける。

広告内では「愛と幸福だけでは決して十分ではない」と述べられるが、その根底には「1つのダイヤモンドだけでは(十分)ではない」というメッセージがある。「(ダイヤモンドは)女の子のベストフレンド?」 とパメラ・アンダーソンが問いかけると、「ダイヤモンドはすべての人のもの」「(ダイヤモンドは)全ての理由のためのもの」と答えが返される。ヴォーグ誌のクリエイティブ・ディレクターであるグレース・コディントンが「Diamonds for all(ダイヤモンドは全てのため)」と結論を述べ、「パンドラ・ラボグロウンダイヤモンド」のロゴが表示される。

パンドラの過去2年間にわたるラボグロウンダイヤモンド市場への積極的な進出は、これから起こることの兆しと考えられる。

ジュエリー業界コンサルタントやジュエリー業界の幹部たちは、ラボグロウンダイヤモンド業界は、ファッションジュエリーとブランド開発によって市場成長を刺激する新たな段階に入りつつあると指摘する。

「以前は(ラボグロウンダイヤモンド製品は)ブライダルに重点が置かれていたのに対し、現在ではより多くのファッション製品が導入されています。」と、ジュエリー業界の顧問会社エッジ・リテール・アカデミーの事業開発ディレクター、シェリー・スミスは指摘する。

過去3年間、ブライダルジュエリー市場はラボグロウンダイヤモンドにとって恩恵をもたらし、ジュエリー小売店による急速な採用によって売上を押し上げてきたが、ファッションジュエリーは現在爆発的に増加しようとしている、とラボグロウンダイヤモンド卸売業者、Artra Created Diamondsの創設者であるアーミッシュ・シャーは予測を述べる。

業界リサーチコンサルティング会社、MVIマーケティングのCEO、マーティ・ハーウィッツはこれに同意する。「現在、ラボグロウンダイヤモンドで最も成功している小売業者は、ブライダルに固執するのではなく高級ファッションジュエリー分野にも参入しています。」と同氏は説明する。「ラボグロウンダイヤモンドの高級ファッションジュエリーは現在多くはなく、これは単にブライダルストーリーではなく、ジュエリーコレクションを提供できるチャンスになっています。」と述べる。

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汚名の消失

シャーは、ファッションジュエリー分野はラボグロウンダイヤモンドが自然に行き着く先だと指摘する。またハーウィッツは「ラボグロウンダイヤモンドのブライダルジュエリー売上の急増には驚きましたが、現在では市場は本来あるべき場所に移りつつあるようです。その主な理由は、ほとんどの小売業者がラボグロウンダイヤモンドの販売を試しているため消費者の意識と関心が高まり続けているためです。」と述べる。

スミスは、ラボグロウンダイヤモンドを取り扱わない天然ダイヤモンド主義者がまだいると指摘する一方、シャーはラボグロウンダイヤモンドがタブーを振り払ったと主張している。「3~5年前にラボグロウンダイヤモンドを取り巻いていた汚名や議論はもう存在しません。」とシャーは述べる。「実際これはトレンドになりつつあり、世界経済と米国の消費者の状態を見る限り、経済がこのカテゴリーをこれまで以上に支持していることが分かります。」と説明した。

パンドラのラボグロウンダイヤモンドを着用するパメラ・アンダーソン(Pandora)

中流の統合

ダイヤモンド業界の分析企業としてよく知られるエダン・ゴラン・ダイヤモンドリサーチのオーナーであるエダン・ゴランは、ラボグロウンダイヤモンドは消費者に大幅に安い価格帯を提供しており、1ctのラボグロウンダイヤモンドは天然ダイヤモンドより推定で76%、2ctの場合は推定83%も安い価格で販売されていると指摘する。

ゴランのデータによると、1~1.49ctのラボグロウンダイヤモンドの卸売価格は2023年に60%下落し、2~2.99ctは65%下落しており、このことが業界にいくつかの課題をもたらしていることが示されている。

ラボグロウンダイヤモンドは2021年と2022年に記録的な売上を上げた後、他のカテゴリーと同様に2023年には成長が鈍化したとスミスは指摘する。

そのような状況の中、技術の向上によりラボグロウンダイヤモンドの供給が増加したため卸売価格は下落し、市場は初期の成長を利用しようとする中流のダイヤモンド企業で過密状態になった。その結果現在多くの企業が厳しい状況にあり、製品から十分な利益を得ることが難しいためラボグロウンダイヤモンドにはディーラー市場の余地がない、とハーウィッツは説明する。

これにより統合や一部の清算が行われた。昨年最も話題になったのは、ワシントンDCに本拠を置くラボグロウンダイヤモンドの大手企業、WD Lab Grown Diamondsが2023年10月に破産申請をしたことだ。ハーウィッツは今年さらに経営再建が進むと予想している。彼らは皆どのようにして垂直統合し、さらには下流に進出し、失ったマージンを取り戻すかを模索している、とハーウィッツは分析した。

ラボグロウンダイヤモンド分野へのインドの投資

現在、世界中で約72社のラボグロウンダイヤモンド生産者が操業しているがその大部分はインドにあり、それらは主にCVDで、ダイヤモンドを生産する50,000以上のチャンバーがインドにあるとハーウィッツは報告している。

インドは過去2年間で生産能力と技術能力を大幅に向上させたと彼は付け加えた。伝統的なHPHT法を採用しているメーカーの多い中国から、CVD法の生産が多いインドに供給が移っている。

昨年6月にワシントンD.C.を訪問したインドのナレンドラ・モディ首相が米国大統領夫人であるジル・バイデンに7.50ctのラボグロウンダイヤモンドを贈ったことに象徴されるように、インドはラボグロウンダイヤモンド業界での自国の立場を強化することに取り組んでいる。

インドのラボグロウンダイヤモンド貿易は2019年から2022年にかけて着実に増加したが、世界的な業界の減速により昨年は減少した(グラフ参照)。宝石・ジュエリー輸出促進協議会(GJEPC)のデータによると、2023年のラボグロウンダイヤモンド原石の輸入は25%減の2.38億ドルとなり、ポリッシュラボグロウンダイヤモンドの輸出は20%減の13.7億ドルとなった。

インドでは以前よりもサイズが大きく高品質のダイヤモンドが生産されるようになっており、その量は増加している。現在、インドは1 ~ 15ctのCVDラボグロウンダイヤモンドの主な供給源となっている、とシャーは述べる。

メレサイズの課題

一般的にラボグロウンダイヤモンド生産者は大きなダイヤモンドの生産に集中するようになっており、それが小さいサイズのダイヤモンド供給に課題をもたらしている。

カットと研磨の効率に関する大きな課題について、デビアスのラボグロウンダイヤモンドブランド、ライトボックスジュエリーのコマーシャルディレクター、ニック・スマートはこう説明する。「ダイヤモンドのサイズが小さくなるにつれて、相対的にカットと研磨のコストの割合が大きくなります。」

言い換えれば、特にCVD法の場合サイズが大きくなるほどコスト効率が良くなると言うことだ。そのため通常、小さいサイズのラボグロウンダイヤモンド分野は中国のHPHTラボグロウンダイヤモンド生産者に残されている。HPHTは通常(特に小さいサイズのラボグロウンダイヤモンドの)生産コストが低く抑えられるが、品質の低いものも多くある。

「生産者がより大きなダイヤモンドの製造に力を入れているため、適切な品質のメレサイズラボグロウンダイヤモンドを調達するのは困難になっています。」とスマートは語る。

ラボグロウンダイヤモンド業界がファッションジュエリーの販売を倍増させるにつれ、メレサイズの不足はより明らかになっている。ファッションジュエリーは典型的なブライダル商品に比べ、小さなダイヤモンドの使用が多い傾向にある。またブランドやジュエリー小売業者も、特に中国と米国の間の政治的緊張により、また中国での加工管理の問題を理由に、中国からHPHTダイヤモンドを調達することに躊躇する傾向が進んでいる。

一方、ライトボックスジュエリーは、メレサイズの商品に関心を持つ人のために、高品質で追跡可能で再生可能エネルギーを使用したCVDダイヤモンドを提供するためのソリューションの可能性を検討しているとスマートは述べた。

オレゴン州ポートランドのライトボックス工場(Lightbox)

ブランディングにおける価値

ラボグロウンダイヤモンドでは商品管理の重要性がさらに高まり、サプライチェーンが透明な企業とそうでない企業との間には差別化が生じるだろうとハーウィッツは予測する。

ブランディングがより普及するにつれ、それは顕著になる。これまでのラボグロウンダイヤモンド製品の開発は、それが消費者に受け入れられるようにすること、それが何であるかを理解してもらうこと、そしてそれを購入する可能性のある人々のタイプを理解することが目的であった、とスマートは説明する。

「ラボグロウンダイヤモンド分野ではまだ数々の強力なブランドが出現していないが、それは次のステップとして妥当だと思われます。」と彼は指摘する。「『当社はラボグロウンダイヤモンド企業であり、それが当社のアイデンティティの中核部分であることを本当に誇りに思います』と言う人は非常に少ないでしょう。」と付け加えた。

しかし、ラボグロウンダイヤモンドの長所の中には、その素材の背後にある科学と革新、ハイテク製品であることに伴う「クールさ」、そしてデザイン面での創造的な自由があるとスマートは説明する。またハーウィッツは、半導体での使用など技術用途もあり、それによって需要が高まり、価格の安定に役立つ可能性があると付け加えた。

ライトボックスジュエリーはブランドを刷新しており、今年後半に新たな展開を予定しているという。この取り組みによってライトボックスジュエリーは「当社の活動に内在する創造性と革新性を擁護する、よりスタイルを重視したラボグロウンダイヤモンドブランドへと移行します。」とスマートは述べた。

価格を超えて

ライトボックスジュエリーが2018年に発表されたとき、同ブランドの特殊な価格設定モデルである800ドル/ctの直線価格モデルに注目が集まっていた。それ以来技術力と製造能力は大幅に向上ししており、提供できる製品の品質とコスト競争力が向上したが、同時に顧客の期待も変化したとライトボックスチームは述べる。

800ドル/ctの価格設定はもはや市場の方向性を反映しておらず、ライトボックスは新しいブランド戦略に合わせて新しい価格帯をテストしている。

デビアスの親会社であるアングロ・アメリカンは2月下旬の2023年度年次決算で、「ラボグロウンダイヤモンドの卸売価格が急激に下落しており、一部の大手ラボグロウンダイヤモンド生産会社では経営難に陥っている。」と指摘した。「デビアスのライトボックスブランドが製品の大幅な値下げをテストすることで、小売価格のさらなる大幅な値下げにつながることが予想されます。」とも述べている。

小売価格に関しては卸売価格よりも緩やかなペースで下落しており、1~3ctのサイズでは約35%下落しているとゴランは報告している。

しかし、消費者はラボグロウンダイヤモンドのルースではなく高級ジュエリーとしてのデザインやブランドを購入するため、卸売価格の下落によって小売業者が値下げを余儀なくされるべきではないとハーヴィッツは強調する。また、その(ジュエリーの)価値は原材料ではなく、創造物にある、とシャーは付け加えた。

ダイヤモンドの『民主化』

このような理由で、シャーは価格低下を超越できるラボグロウンダイヤモンドのブランド開発に適した時期が来たと信じている。

彼は消費行動の4つの層を設定し、ブランディングの機会を定義した。その最初の層の中には、既にラボグロウンダイヤモンドコレクションをリリースしているプラダ、グッチ、LVMHに属するフレッドなどの高級ブランドも含まれている。2番目のグループはパンドラやスワロフスキーなどの大手小売業者で、3つ目のグループは価格に敏感な消費者をターゲットにしたジェネリック製品だとシャーは述べた。

最後のグループとして、リーバイスやアルマーニなどのアパレル業界の中間市場向けのブティックブランドがあるが、急成長するラボグロウンダイヤモンドファッションジュエリー市場には、埋めるべきギャップがあると彼は考えている。シャーはその市場を獲得するために、Altr Created Diamondsによるブランド“J’evar”を展開中だと説明した。

一方、パンドラは「ダイヤモンドの民主化」という自社の立場を活用し、この業界の他の部分へ注力している。

昨年 8 月、パメラ・アンダーソン、グレース・コディントンや友人たちがプロモーションする3つのコレクションの発表会でパンドラのクリエイティブディレクターのフランチェスコ・テルツォは「私たちは、クラシックなダイヤモンドのセッティングや奇抜なダイヤモンドのセッティングで、より多くの人にラボグロウンダイヤモンドのパワーと美しさを毎日体験してもらいたいと思っています。」と述べた。

現在ラボグロウンダイヤモンドジュエリーがパンドラの総収益に占める割合はわずか1%だが、2021年の導入以来、着実な成長軌道を歩んでいる(グラフ参照)。パンドラのラボグロウンダイヤモンドジュエリーの売上は2023年に24%増加して1.65億デンマーククローネ(3,900万ドル)になった。経営陣は2026年までに10億デンマーククローネ(1.46億ドル)にするという目標を掲げている。

パンドラのラボグロウンダイヤモンド売上推移と目標

パンドラは事業を展開しているすべての主要都市でラボグロウンダイヤモンドの宣伝に数百万ドルを費やしている、とハーウィッツは言う。そして、2024年に大きな変化が起こる一方で、より広範なセグメントに対する消費者の意識がさらに高まることは間違いないと指摘した。

「パンドラはダイヤモンドジュエリーの世界最大の広告主であり、誰もが彼らのやり方を真似すべきです。」と彼は強調する。「人々がやって来るのをただ待っているような他のジュエリー業界とは異なり、彼らは自分たちのストーリーを伝えるために数百万ドルを投資しています。」と述べた。

それによりパンドラのラボグロウンダイヤモンド製品へのアプローチは2024年の初めに業界のモデルとして機能する可能性があり、天然ダイヤモンド製品と同じように消費者の目に価値を創造することを奨励することになるとシャーは強調する。最終的に、ラボグロウンダイヤモンドについて「もう(市場が)後戻りすることはありません。」と彼は付け加え、「私たちは(天然とラボグロウン)両方のセグメントで価値を創造する必要があります。」と続けた。

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