
SCS-007、2026年9月1日付で終了
米国の第三者認証機関SCS Global Servicesと非営利の規格策定組織SCS Standards and Assuranceは、ダイヤモンドや宝石を対象としたサステナビリティ認証規格「SCS-007 Sustainably Produced Gemstones」の運用を2026年9月1日付で終了した。
SCSは終了理由について、任意認証制度を大規模に維持するために必要な市場環境が形成されなかったこと、鉱山業界で認証の採用が進まなかったこと、さらに複雑化するサプライチェーン全体について商品単位のチェーン・オブ・カストディを裏付ける明確な規制上の枠組みが存在しないことを挙げている。今後、SCS Global Servicesは同規格に基づく監査を行わず、SCS Standardsも規格の維持・更新を行わない。
ただし、現在SCS-007認証を取得している企業の認証が9月1日をもって一斉に無効になるわけではない。既存企業はそれぞれの認証有効期限まで認証を使用することができ、すでに発行された個別ダイヤモンドの証明書についてもオンライン上で確認できる状態が維持される。
SCS Standardsはまた、SCS-007で構築したチェーン・オブ・カストディの仕組みを活用したい既存の業界認証制度との連携については、今後も可能性を残しているとしている。
天然・ラボグロウンを共通の枠組みで評価する試み
SCSがダイヤモンド分野のサステナビリティ規格開発を開始したのは2019年だ。2020年には試験的な運用が始まり、その後制度が整備された。
SCS-007の特徴は、天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドを完全に別個のカテゴリーとして扱うのではなく、共通するサステナビリティ上の評価項目を設定しようとした点にあった。最終的にはダイヤモンドだけでなく、エメラルド、ルビー、サファイアも対象としていた。
規格は「ガバナンス」「トレーサビリティ」「環境管理」「社会的責任」「気候責任」という5つの柱によって構成され、法令遵守やサプライチェーンのデューデリジェンス、労働者の権利、水やエネルギー使用、温室効果ガス排出、原産地追跡などを第三者監査によって確認する仕組みであった。
特にダイヤモンドについては、原産地から流通過程までを追跡するチェーン・オブ・カストディと、製造段階における環境・社会面の評価を組み合わせた点が特徴的だった。認証取得後も年次監査を求めるなど、単なる自己宣言とは異なる制度設計が行われていた。
2024年3月にはSCS-007-1の正式版が公表され、それまでの試験運用を踏まえて評価項目やトレーサビリティ要件なども更新されていた。
普及したのは主としてラボグロウンダイヤモンド
制度設計上は天然、ラボグロウン双方を対象としていたが、実際の普及状況には大きな偏りがあった。
天然ダイヤモンドの採掘企業の多くは天然石とラボグロウンを同じ基準で評価することに消極的で、認証への関心を示したのは主としてラボグロウンダイヤモンド関連企業だったという。SCS自身も今回の終了発表で「認証は鉱山セクターに採用されなかった」と明記している。
一方、ラボグロウンダイヤモンド分野では一定の採用実績があった。SCSは2024年3月時点で、8社のラボグロウンダイヤモンド生産企業、12社の関連事業者、14カ国65の小売企業が制度に参加し、認証ダイヤモンドの販売数は10万石以上、取扱店舗は500店以上に達していたとしていた。
終了直前のSCSの公開サプライヤーデータベースにも、インド、米国、ベルギー、英国、ドイツ、日本などの生産者、研磨業者、卸売企業が掲載されていた。問題は、それを継続的な認証インフラとして支えるだけの規模と経済性まで市場が成長しなかったことにある。
高度なトレーサビリティと認証コストのジレンマ
SCS-007の終了を考える上で重要なのが、認証の厳格性と運用コストの関係だ。
JCKの取材に対し、米国ジュエラーBrilliant Earthの責任ある調達担当幹部は、同社もSCS制度を利用していたものの、生産者やカット・研磨事業者にとってコスト負担が大きく、特にダイヤモンドの原産地を特定するための仕組みが複雑だったと指摘している。SCS側も途中で認証費用を引き下げたが、普及を十分に拡大するには至らなかったという。
この問題はSCSだけに固有のものではない。サステナビリティを第三者が厳密に検証しようとすれば、生産拠点の監査、電力使用量、温室効果ガス排出、人権・労働環境、原材料調達、流通履歴など大量の情報を取得しなければならない。その結果、信頼性を高めるほど監査コストと事務負担が増大するという構造的な問題が生じる。
特にラボグロウンダイヤモンドでは近年卸売価格の下落が続いており、この価格環境も認証制度への関心低下につながった可能性がある。商品単価が低下する一方で認証コストが一定以上存在すれば、製造企業が1石当たりに負担できる認証コストは相対的に重くなる。
「ラボグロウン=環境に優しい」という単純化への警鐘
今回のSCS-007終了は、ラボグロウンダイヤモンドがサステナブルではないという意味ではない。ラボグロウンダイヤモンドの環境負荷は、生産方式だけで一律に決まるものではない。CVDやHPHTによる結晶成長には相当量の電力が必要であり、その電力が再生可能エネルギーなのか、石炭火力を中心とする電力網なのかによって温室効果ガス排出量は大きく変わり得る。
したがって「採掘を行わない」という事実だけから「環境負荷が小さい」と結論付けることも、「大量の電力を使う」という一点だけから環境性能を否定することも、単純化できない。SCS-007が目指していたのは、まさにこうした個々の生産条件を第三者が検証することであった。
SCS認証を利用していた米国のジュエラーEmily Chelsea Jewelryも、認証によってラボグロウンダイヤモンドそのものを無条件に「責任ある商品」と考えていたわけではないものの、少なくとも再生可能エネルギー利用や炭素排出削減への取り組みについて第三者が確認しているという裏付けとして利用していたと説明している。
認証の終了によって失われるのは「サステナビリティ」という概念そのものではなく、それを商品単位で比較的包括的に第三者検証する一つの手段だ。
RJCもラボグロウン専用基準を導入
一方、宝飾業界における責任ある調達の規格そのものが後退しているわけではない。Responsible Jewellery Council(RJC)は2025年、「Laboratory Grown Material Standard(LGMS)」を導入した。ラボグロウンダイヤモンドだけでなく、ラボグロウンのルビー、サファイア、エメラルドなども対象とし、人権、労働環境、安全衛生、環境管理、製品情報などを規定している。2025年5月に発効し、対象となるRJC会員には段階的に認証取得が求められている。
LGMSでは、対象企業にScope 1およびScope 2の温室効果ガス排出量やエネルギー使用量の算定・記録を要求し、排出量の大きい事業者には削減計画の策定や外部専門家による検証なども求めている。ラボグロウン原石の生産者については、入手可能な場合にはScope 3排出量についても算定対象とする。
ただし、RJCのLGMSとSCS-007は完全な代替関係ではない。SCS-007は個々の宝石とサプライチェーンを結び付けた商品レベルの認証に強く重点を置いていたのに対し、RJCは企業・組織全体の責任ある事業慣行を監査する枠組みを中心としている。したがってSCS-007が終了したからといって、既存のRJC認証にその機能がそのまま移行するわけではない。
今後は企業認証、生産拠点の環境データ、再生可能エネルギー証書、LCA(ライフサイクルアセスメント)、チェーン・オブ・カストディなど、複数の仕組みを組み合わせて情報を示す動きがより重要になる可能性がある。
世界では「サステナブル」という言葉自体への規制も強化
この問題のもう一つの背景には、環境表示に対する世界的な規制強化がある。
米連邦取引委員会(FTC)はGreen Guidesにおいて、「green」「eco-friendly」など広範で無限定な環境訴求は消費者に誤解を与える可能性が高く、具体的な環境上の根拠を明示する必要があるとの考え方を示している。FTCはラボグロウンダイヤモンドについても、環境上の優位性を広告する場合には合理的な根拠を持ち、どのような点で環境上のメリットがあるのかを具体的に示すべきだとしている。
欧州ではさらに規制が進む。EUの「消費者のグリーン移行を支援する指令(Directive (EU) 2024/825)」は2026年9月27日から適用される予定で、根拠のない一般的な環境表示や、一定の要件を満たさないサステナビリティラベルなどを規制する。
世界的な方向性としては、「サステナブル」という言葉を自由に使う方向ではなく、むしろ「何を根拠にそう表現するのか」をより具体的に説明する方向へ進んでいる。
認証終了が示すのは「サステナビリティ評価」の難しさ
SCS-007の終了は、ダイヤモンドのサステナビリティを、天然・ラボグロウンを問わず、どの単位で、誰が、どの基準によって評価するのかという業界全体の課題を浮き彫りにしている。
天然ダイヤモンドには採掘による土地利用、生態系、地域社会、人権などの課題が存在する一方、ラボグロウンダイヤモンドには電力消費、電源構成、製造設備、サプライチェーンなど固有の評価要素がある。それらを単一の「環境に良い・悪い」という尺度に置き換えることは容易ではない。
同時に、サステナビリティに対する消費者や取引先からの説明責任がなくなるわけでもない。
むしろ第三者認証の一つが終了したからこそ、企業には「ラボグロウンだからサステナブル」「天然だから責任ある商品」といったカテゴリー単位の包括的な表現ではなく、使用電力、温室効果ガス排出、トレーサビリティ、人権、労働環境などについて、検証可能な情報を個別に示す姿勢がより求められることになる。
SCS-007が市場に残した最大の問いは、「どちらのダイヤモンドがよりサステナブルか」ではない。ダイヤモンド産業が今後、サステナビリティという価値をどのようなデータと検証によって消費者に説明していくのか、という問いだろう。



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