EUはロシア産のダイヤモンドに対する制限を検討している。業界メンバーや政治家は、世界的に足並みを揃えた努力だけがロシアに対して影響を与えられると主張している。
メディア報道やラパポートニュースへの情報によると、EU(欧州連合)はロシア産ダイヤモンド原石の輸入に上限を設けることを検討しているという。EUはロシアのウクライナ侵攻から1年になる今年の2月24日を目前にして10回目の制裁パッケージについて議論している。ベルギーに輸入されるロシア・アルロサのダイヤモンド原石は過去9回の制裁ラウンドの対象を外れていたが、今またこの議論が再燃しているという。
しかし議論の多くの側面は、この措置の影響が最小限であると主張している。なぜならロシア産ダイヤモンドのアントワープへの輸入は米国消費者の意向や原石バイヤーの支払いの問題のために既に落ち込んでおり、輸入上限が無意味になっているからだという。また批評家は、国際的な包括アプローチがない限りロシアは依然として他の経路を通じて市場にダイヤモンドを売り込むことができると指摘する。
EUに対する圧力
EUが実際にどのような制裁を導入しようとしているかは正確には不明だ。ベルギーの新聞”De Morgen”によると、選択肢の1つはロシアのダイヤモンドの輸入量をウクライナ侵攻前の30%に制限することだという。もう1つの選択肢は、商品の由来をマーケットに開示するトレーサビリティだ。
ベルギーのアレクサンダー・ドゥ=クロー首相はこれについて前進する姿勢を見せ、同国は「パートナー」と協力して西側市場全体でロシアのダイヤモンドへのアクセスをブロックしていると述べたという。
EU側に対してはロシアのダイヤモンド原石に対して何か対応するように圧力が高まっている。今月初めにルカラ・ダイアモンドのエイラ・トーマス最高経営責任者(CEO)は、フィナンシャル・タイムズとのインタビューの中で制裁を要求している。以前には、ベルギーは制裁には反対しないが、それはドバイなどのライバル国をを有利にするだけだと述べていたベルギー首相ですら、先週には公然とロシアダイヤモンドを「ブラッドダイヤモンド」(血のダイヤモンド)と呼んだ。
無意味な動きか
EU内部の関係者の推定によると、ベルギーへの非工業用ロシア産ダイヤモンドの輸入は、2022年7月以来約80%減少しているという。
「EUがロシアダイヤモンドの取引を戦争前の30%を上限として議論しているとしても、取引は既に大幅に減少しているのでなんの影響もないでしょう。」と欧州議会のベルギーのメンバーであり、完全な制裁の支持者であるキャスリーン・ヴァン・ブレンプトはラパポートに語った。
この既に起きている取引の減少は、米国によるロシア産ダイヤモンドの部分的な禁止と、小売業者と消費者によるロシアダイヤモンドのボイコットによるものだ。
「ほとんどの消費者は、ロシアのダイヤモンドを身に着けるとわかれば、そのような買物をしたいとは思わないでしょう。」と、アントワープ在住の社会民主党の政治家は述べる。
国際的なアプローチ
この制裁を反対している人々は、世界の包括的な協力のないEUの制裁は、単にロシア産ダイヤモンドを他の取引地に移動させるだけになると指摘している。
AWDC(アントワープワールドダイヤモンドセンター)は具体的な提案についてのコメントを拒否したが、EU単独での制裁はベルギーの産業に打撃を与えるだけで、ロシアには何の影響も及ぼさないという見解を長い間貫いている。ロシア政府が33%の株式を所有しているアルロサからのダイヤモンド原石は、量は減少しているもののインドに流れ続けている。
アントワープを拠点とする原石トレーダーは、ロシアからベルギーへの輸入がすでに少ないため、新たな制裁は「表面的な価値」しか持たないだろうと匿名で語った。「そのわずかな商品は、すぐにドバイ経由でムンバイに、または直接ムンバイに流れるでしょう。それでは制裁の目的は全く果たせません。」と彼は続けた。
できない理由を作らない
G7諸国(米国、英国、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本)は、ロシアダイヤモンドの取引に関する「拘束力のあるルール」の導入について議論している、とヴァン・ブレンプトは述べた。しかし同氏は、これまでの統一されたアプローチの欠如は、ある種の制裁を開始させるための障害とはならないと主張している。
「もちろん、制裁を課すとあらゆる種類の抜け穴が使われます。」と彼女は認める。「そこに問題がありますが、それに対処し抜け穴に取り組み始める必要があります。」と付け加えた。
キンバリープロセス(KP)の最初の立ち上げも、一部のアフリカ諸国では管理がほとんど行われておらず困難だった、とヴァン・ブレンプトは考察する。「だから、我々はステップアップし、これを機能させるためのプロセスを徐々に整える必要があります。」
ルピー決済
この制裁に関するEUの議論は、インドがルピーでロシアとの国際貿易を決済するための仕組みを整え、逆の方向に進んでいると思われる中で進行している。
SWIFT国際決済システムからロシアが除外されたことによりドルでの国際貿易決済が困難になったため、業者はユーロなど他の通貨で取引をしていたが、この取引方法も障害に遭遇している。
1月4日、インドの宝石・宝石輸出促進評議会(GJEPC)は、外国の銀行に代わって「ボストロ」口座を開設する政府の承認を受けた12のインドの銀行、または外国金融機関の現地支店のリストを配布した。これらの口座は、インド銀行が外国銀行のためのルピーを保有しており、国際貿易を促進する方法となっている。
GJEPCのヴィプル・シャー会長は、通貨のボラティリティのためこのシステムを使用してアルロサのダイヤモンド原石を売買した人はまだいないと説明した。「ロシア人はルピーへの投資を快く思っていない。」と彼は説明したが、理論的には取引が可能であり、インドがロシア原石を購入することは容易になる。
原石不足は起こるか
一部のロシア産ダイヤモンドがまだ市場に流れており、またパンデミックによるロックダウンの中で中国市場の需要が低迷していたため、業界の多くの人が予測していた2022年の大量のダイヤモンド不足は起きなかった。しかしベルギーとロシアの取引が制裁を課される可能性があるなか、この不足の可能性は今後もあるのだろうか?
「ロシアの商品はインドのカッティングセンターに直接行くので、不足は起こりません。」とアントワープのトレーダーは匿名で述べた。「2022年にアルロサのダイヤモンド原石が大量に売れたという噂があります、ですから2023年もアルロサは引き続きダイヤモンド原石を売り続けるでしょう。」と彼は付け加えた。
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