「金価格10,000ドルも視野」- JPモルガン

米金融大手JPモルガン・チェースの最高経営責任者ジェイミー・ダイモンが、「金価格は1オンスあたり5,000ドルから10,000ドルに達する可能性がある」と語ったことが、世界の地金市場のみならずジュエリー業界にも波紋を広げている。長年、金に懐疑的な立場を取ってきたダイモンがこのような発言をするのは極めて異例であり、地政学的リスクや通貨価値の不安定化が進む現状を映すものだといえる。

ダイモンは米ワシントンD.C.で行われたフォーチュン誌の「モスト・パワフル・ウーマン・サミット」で、「これほど金をポートフォリオに組み入れることが半ば合理的と思える時代は自分の人生でもほとんどなかった」と述べた。その一方で、自身は現物の金を保有していないとし、「保管や保有コストが年間4%ほどかかる」と付け加えた。つまり、投資対象として金の存在感を認めつつも、資産としての効率性には依然慎重な姿勢を崩していない。

この発言が注目を集めたのは、金価格が記録的な高値を更新し続けているタイミングと重なったためである。今週、金は1オンス=4,000ドルの節目を突破し、さらに4,300ドル台まで上昇。10月中旬の時点で1オンス=4,371ドルを記録し、過去最高値を更新した。その後やや落ち着きを見せているものの、依然として4,200ドル前後という高水準を維持している。

日本円換算で見ると、金価格は驚くほどの水準に達している。金は1オンス(トロイオンス)=約31.1グラムであり、4,244ドルという価格をグラム単価に直すと約136ドル、為替を1ドル=150円で換算すれば1グラムあたり約20,500円となる。仮に5,000ドルに達すれば約24,000円、10,000ドルに至れば約48,000円となり、国内の金地金相場としては前例のない高値圏に突入することになる。

ジュエリー業界にとって、これは単なる国際金融ニュースではない。まず、原材料としての金価格上昇は、指輪やネックレスなどの製品価格に直結する。金の含有率が高い製品では、製造コストの上昇が利益率を圧迫しかねない。加えて、既存在庫を抱えるメーカーや小売業者にとっては、在庫評価の見直しや仕入れ時期の再検討といった経営判断が迫られる局面でもある。一方で、「地金の希少性と価値の上昇」をマーケティングストーリーとして再構築する動きも考えられる。金を「資産」としてだけでなく、「身につける価値が増す素材」と位置づけることで、消費者心理を刺激する戦略が有効になる可能性がある。

為替動向も見逃せない要素だ。現在の試算は1ドル=150円を前提としているが、もし円安がさらに進めば、同じドル建て価格でも円換算での金価格は一段と上昇する。これにより輸入コストが増し、国内市場では製品価格の上昇圧力が一層強まる。反対に円高へ振れた場合には調達コストが下がる可能性もあるが、世界的なインフレ圧力を考えれば、現時点でその可能性は高くないと見る向きが多い。

ダイモンの発言は、単なる価格予想の域を超え、金を取り巻く経済構造そのものに警鐘を鳴らしているようにも聞こえる。インフレの長期化、国際的な信用不安、そしてドル基軸体制への揺らぎ。これらの要素が複合的に作用する中で、「金」という実物資産の存在感は改めて浮上している。ジュエリー業界としては、原材料としての金を単にコスト要因として扱うのではなく、時代の象徴的な素材としてどのように表現し、付加価値を生み出すかが問われる局面に入ったと言えるだろう。

ジェイミー・ダイモンの発言は、金という素材が「価格」ではなく「信頼」を映す鏡であることを再認識させるものである。価格変動の荒波を単なるリスクとして恐れるのではなく、金の価値を物語として再構築し、消費者に“意味ある贅沢”を提示するチャンスと捉えるべき時期に来ている。

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