中国の金・宝飾税制改正がもたらす構造変化

中国財政部および国家税務総局が発表し、11月1日に施行した金関連税制の改正は、中国本土および香港地域における金・宝飾市場に直接的な影響を及ぼし始めている。

本改正では、取引所を介した標準金の売却において付加価値税(VAT)が免除される一方、実物の引き出しに関しては用途に応じた税制適用が求められる体制となった。とりわけ、非投資目的で標準金を取引所から引き出す際の進項税控除率が従来の13%から6%へと引き下げられた点が大きい。この変更は、仕入れ段階における税負担が増加することを意味し、原材料価格に直接跳ね返る構造を持つ。

この変更により、特に非会員企業や中小流通業者は、取引所での免税メリットを取り込めないケースが増える。結果として、仕入れた金素材の実質調達コストが上昇し、ブランド単位での利益率圧縮、または小売価格改定の判断が迫られる可能性がある。すでに中国本土および香港に上場する主要宝飾企業の株価は下落しており、潮宏基珠宝は10%近く、周大福珠宝や老舗黄金も8%を超える下落幅を記録した。

シティバンクは今回の税制改正について、「金小売企業の調達コストを最大で約7%押し上げ得る」と分析しており、このコスト上昇が小売価格に転嫁される可能性も高い。

ダイヤモンド市場にも影響が及ぶ。これと同時に、研磨ダイヤモンド輸入に適用されていた13%のVAT優遇措置が撤廃されており、天然ダイヤモンドの国内消費に対して価格上昇圧力がかかる。近年、天然ダイヤモンドは世界的に価格調整局面にあるが、輸入コスト上昇という別軸の要因がここに加わる構造となるため、中国市場における消費行動の鈍化と、再販・回収市場の流動性低下が懸念されている。

これは日本市場においても決して無関係ではない。日本の金相場は上海黄金交易所の国際価格と一定程度連動し、実需ベースでは中国・香港の仕入れ状況が国内小売価格に反映されるためだ。もし中国国内の実物金需要が税制影響により鈍化した場合、国際金価格には一時的な下押し圧力がかかり得る。しかし、中国で実物消費が抑制され、代わって金ETFや準金投資商品に資金が流れ込む場合、国際相場はむしろ上昇方向に振れる可能性もある。実物需要と投資需要の拮抗が、今後の日本での金市場にとっても注視すべきポイントとなる。

加えて、金素材は日本国内でもここ数年来高止まりが続いており、純金・K18ジュエリーは既に消費者の価格許容度の上限に近づいている。今回の中国での税制変更が素材コスト上昇として波及した場合、日本国内では「素材価格上昇→小売価格改定→買い控え」の連鎖が再び起きる可能性がある。一方で、ラボグロウンダイヤモンドやファッション性の高い18金軽量設計ジュエリーなど、「素材コストに依存しない価値」を前面に出すブランドは相対的に優位性を持ちやすい。

総じて、中国の税制改正は単なる国内会計処理の変化ではなく、アジア全体の金・ダイヤモンド流通および価格形成メカニズムに影響する構造変化だ。日本のジュエリー業界にとっては、素材コストの動向を注視しつつ、消費者が価値を感じる「価格以外の理由」をどこまで明確にできるかが、今後の競争条件を左右することになる。

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