WDC「ラボグロウンダイヤモンド“バブル崩壊”」と発言

世界ダイヤモンド評議会(World Diamond Council/以下WDC)の会長、フェリエル・ゼルーキは、先週ルアンダで開催されたアンゴラ国際鉱業会議(AIMC)2025で講演し、「ラボグロウンダイヤモンド(LGD)のバブルははじけた」と発言した。また、「LGDの供給過多と価格下落が市場の信頼を損ねている」と述べ、「消費者は再び本物の価値に戻りつつある」と主張した。

この発言は、天然ダイヤモンド業界の代表団体を率いる立場としては自然な発言とも言えるが、同時に立場による大きな偏りが存在する可能性が否定できない。WDCは天然ダイヤモンドの価値維持を目的とする組織であり、ゼルーキ自身もデビアス社の幹部として天然ダイヤの流通・価格安定に深く関わる人物だ。彼女の発言は、天然業界の防衛的メッセージを含んだ、いわば「産業側の視点」であると考えられる。

天然ダイヤモンド業界側から見ればLGDの“価格の暴落”が強調されるが、LGD業界から見れば、それは「価格の正常化」と「市場拡大の過程」と考えれられる。過去数年での生産技術の進歩により品質が安定し、流通が整備された結果、かつて贅沢品だった高品質ダイヤモンドが、より多くの人々に届く存在へと変わっている。

実際、LGDの価格下落が示すのは、衰退ではなく「普及の成熟化」だ。スマートフォンや電気自動車と同じく、テクノロジー製品は初期段階の高価格から、量産によって民主化していく。それは価値の崩壊ではなく、新しい消費層の獲得だ。若年層の購買動機も変化している中、LGDは天然と競い合う代替品ではなく、“異なる文脈のラグジュアリー”として台頭している。

ゼルーキの発言は市場を公平な視点で捉えたものではなく、あくまで市場心理を再びND側に引き戻そうとする意図を含んでいると考えらえる。WDCにとっては「ラボグロウンダイヤモンドバブルの崩壊」かもしれないが、LGD側から見れば、それは「市場の多様化」への進化だ。

重要なのは、天然とLGDの対立を煽る構図から脱却することだ。両者は同じ市場を奪い合う存在ではない。天然ダイヤはその稀少性と物語性によって、伝統的価値を体現し続ける。一方でLGDは、テクノロジーと倫理性を背景に、未来志向の選択肢として位置づけられている。市場は二極化ではなく多層化し、消費者はその中から「自分の価値観に合うダイヤモンド」を選び取る時代に入った。

この価値の多様化は避けられない。今、崩れつつあるのは「バブル」ではなく、「天然しか本物ではない」という旧来の神話だ。LGDはその神話の外側で新しいジュエリーの未来を形づくっている。

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