
2025年10月、銀価格が史上最高値を更新した。
一方で、金価格も1オンスあたり4,000ドル台を突破し、共に「安全資産」としての地位を再び印象づけている。
しかし、その本質は異なる。銀は「変動の資産」、金は「信認の資産」だと言える。
1. 銀価格が急騰 ― 工業需要と投機マネーの交錯
銀のスポット価格は10月中旬、1オンス=52.25ドル(約7,840円/1gあたり約252円)を突破し、1980年以来の史上最高値を更新した(1トロイオンス(31.1035g)換算、為替は1ドル=150円計算)。年初来上昇率は約78%に達し、同期間の金(約56%上昇)を凌駕した。
背景にあるのは、「投資」と「実需」双方の過熱だ。
銀は金と異なり、太陽光パネル・半導体・電気自動車・医療機器など、工業需要が価格に大きく影響する。脱炭素政策と電動化トレンドが銀需要を押し上げた一方、ロンドンの保管在庫は過去数年で急減し、貸借料率が100%を超えるとの報道も出ている。
また、銀は他金属(銅・鉛・亜鉛など)の副産物として産出されるため、価格上昇が直ちに供給拡大へ結びつかない構造的な制約がある。この「供給の硬直性」が、投機資金の流入を誘発し、さらなる急騰を招いた。
ただし、ゴールドマン・サックスなどは「この流動性不足は一時的」と分析している。価格が高止まりすれば、米国やメキシコなどから銀がロンドン市場へ流入し、数カ月単位でバランスが回復する可能性があると見られている。
2. 金 ― 信認と制度が支える“王者の資産”
金価格も堅調だ。10月13日時点で1オンス=4,113ドル(約617,000円/1gあたり約19,900円)を突破し、
史上最高水準に近づいている。バンク・オブ・アメリカは、2026年に1オンス=5,000ドル(約750,000円/1gあたり約24,100円)へ上昇する可能性を示唆した。
金の最大の強みは、中央銀行による制度的な裏付けである。各国の外貨準備において金は20%前後を占め、
特に中国・トルコ・ロシアなどの新興国は、ドル依存脱却の手段として金を積極的に買い増している。
さらに金市場は、銀に比べて取引量・流動性が圧倒的に大きく、短期的な価格操作が難しい。地政学リスクやインフレ、米ドルの下落局面では金が真価を発揮し、安全資産としての地位を維持し続ける。いわば、金は「国家と市場の信認が交わる資産」である。
3. 銀の資産性 ― “準・安全資産”の魅力と限界
銀は長い歴史を持つ貴金属貨幣であるが、現代においては“準・安全資産”に位置づけられる。ETF(上場投資信託)を通じて広く取引され、個人投資家が金よりも安価に参入できることから「レバレッジ型金」として扱われる。
たとえば、銀1オンス(31.1g)は52ドル=約7,840円だが、金1オンスは4,100ドル=約61万5,000円と価格差は約80倍に達する。そのため、同額を投資すれば銀は金よりも圧倒的に多くの数量を保有でき、価格変動による利益幅も大きくなる。
しかしこの高い価格弾力性は裏を返せばリスクでもある。工業需要の減退や金融緩和終了などの局面では、
銀価格は金よりも急激に下落する傾向を示す。市場規模が小さいため、投機資金の流入・流出による影響が大きく、安定性という点では明らかに金に劣る。
4. 今後の価格動向 ― “二極化する貴金属市場”
● 銀:ボラティリティを伴う強気トレンド
バンク・オブ・アメリカは、2026年の銀価格を1オンス=65ドル(約9,750円/1gあたり約313円)へ引き上げる予測を出している。主因は再生可能エネルギー産業での需要増だ。特に太陽光パネルの銀使用量は年率5〜7%で増加しており、中期的には需給逼迫が続く見込みである。
ただし、景気後退局面では一時的に1オンス=40ドル(約6,000円/1gあたり約193円)程度への調整もあり得る。
したがって、銀は短期投資向きの高リスク資産と見るのが妥当だ。
● 金:制度的支えによる堅調上昇
金については、各国中央銀行の購入が継続する限り、下値リスクは限定的である。アナリストの多くは今後2年間で
1オンス=4,800〜5,200ドル(約720,000〜780,000円/1gあたり約23,100〜25,000円)のレンジを予想している。特に米ドル安や中東・欧州の地政学リスクが続く場合、金価格はさらに押し上げられる公算が高い。
5. 素材戦略を再定義
こうした貴金属市場の二極化は、ジュエリー業界に明確な影響を及ぼす。
- 銀価格の高騰により、シルバーアクセサリー分野では原価上昇圧力が高まっている。特にスターリングシルバー(92.5%純度)を扱うブランドでは、数%の価格変動が利益率を大きく左右する。
- 一方で、金製ジュエリーは「資産価値」を理由に需要が底堅く、投資・贈答・ブライダルなど複合需要を維持している。
- 今後は、「銀×金」「銀×プラチナ」など、素材を組み合わせて意匠と投資性を両立する製品構成が鍵になる。
- 消費者に対しても、「素材価格の変動」「資産性の違い」を明確に説明するブランドが信頼を得る時代になる。
日本市場では、金価格上昇を背景にK18・K24製品が増える一方、銀は「ファッション性」「ブランド性」で価値を訴求する方向に進むだろう。素材単価が消費者の価値判断に直結する今、“価格を超えた文脈”を持つデザインが求められている。
6. 光の資産の時代へ
金と銀は、共に人類史において「光」を象徴してきた。しかし今、その光の意味は変わりつつある。金は国際的信認の象徴として揺るがぬ地位を保ち、銀は新産業社会のエネルギーと結びつく。
ジュエリー業界にとって重要なのは、価格の波を恐れることではなく、その背後にある価値構造を読み解くことだ。「素材を物語に変える力」こそが、次の時代の競争軸となる。
コメント
面白いですね!金が「王者の資産」と銀が「準・安全資産」なんて分け方、ちょっとおこったかもしれませんが、価格の動きはその通りですよね。特に銀、太陽光パネルで需要が増えるなんて、意外なスポットライトを浴びてるじゃないですか?「レバレッジ型金」と呼ばれるのも面白いです。でも、景気悪化で急落するリスクもあるから、投資には慎重が必要ですね。金は中央銀行の後押しで安全資産なんですが、それにしても価格が高騰するのは痛いです。ジュエリー業界としては、この価格変動に対応しながらも、素材の価値を伝えることが重要になるんでしょうね。「価格を超えた文脈」を持つデザイン、それが勝負ですか!