
ジュエリー業界における重要な原材料として、ダイヤモンドとゴールドの市場状況は大きく異なるものとなっている。
英国「フィナンシャル・タイムズ」の最新の報道によれば、世界最大の天然ダイヤモンド供給業者であるデビアスは、約20億ドル(約3000億円)に相当するダイヤモンドの在庫を抱えており、これは2008年の金融危機以来の最高水準だ。
この膨大な在庫を処理するために、デビアスは2024年にダイヤモンド鉱山の生産を削減し、複数回の価格引き下げ戦略を実施した。最新のものは2024年末に行われ、原石価格を10%から15%引き下げるというものであり、これは近年で初めてのことであり、歴史上最大の値下げの一つでもある。
デビアスのCEOであるアル・クックはメディアインタビューで、「2024年は原石の売上において非常に厳しい年である」と述べた。昨年初めには、ダイヤモンドの在庫について楽観的な見解を持っていた同氏も、「ダイヤモンドの価格は最終的に上昇し、在庫は市場の高まる消費需要を満たすだろう」と期待していた。しかし、こうした消費需要は明らかに現れていない。
一方で、ゴールドの市場パフォーマンスは正反対だ。
2024年、国際金価格は「上昇を続ける」状況が続き、年間で40回の新高値を記録している。1月24日時点で、現物金価格は1オンスあたり2773ドル(約41万8000円)を突破した。
ワールド・ゴールド・カウンシルの報告によると、2024年7月時点で中国のジュエリー小売業者の約77%がゴールド投資商品およびゴールドジュエリーからの売上を得ているが、これは2022年と比較すると7%の増加だ。同時期に、ダイヤモンドの売上比率は16%から9%に低下しており、両者の消費市場の違いは顕著になっている。
天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドの継続する闘い
デビアスは1888年に設立された世界最大のダイヤモンド鉱山会社であり、また最大のダイヤモンド小売業者でもある。ダイヤモンドの採掘、加工、販売において、同社はかつては世界市場を独占していた。
1950年代、デビアスは「A diamond is forever」(ダイヤモンドは永遠に)という広告スローガンを用いて、美しく硬いダイヤモンドを愛の象徴とし、その後70年以上の間、天然ダイヤモンドの市場価値を強調してきた。
しかし現代の消費者、とりわけZ世代は天然ダイヤモンドのマーケティング手法に対して批判的な視点を持ち始めている。2024年11月末時点で、アメリカにおける天然ダイヤモンドジュエリーの売上は4.7%増加したのに対し、ラボグロウンダイヤモンドの売上は46%増加している。
コンサルティング会社のマッキンゼーによる最新のレポート「The diamond industry is at an inflection point」(ダイヤモンド産業は転換点にある)では、ラボグロウンダイヤモンドと天然ダイヤモンドの価格差はさらに拡大し、能率的な生産サプライチェーンや環境に優しい生産プロセスを持つラボグロウンダイヤモンドが若い消費者の第一選択肢になると指摘している。天然ダイヤモンドは一般市場から離れ、高級品市場に限定されるかもしれないとの指摘もある。
ダイヤモンド取引関連の主なデータから、天然ダイヤモンド市場は低迷期を迎えていることがうかがえる。米国銀行グローバルリサーチのデータによれば、過去2年間で世界のダイヤモンド卸価格は約40%下落した。世界第二位のダイヤモンド消費国である中国のダイヤモンド輸入額は3年連続で前年比30%以上下落している。2023年、上海ダイヤモンド取引所での取引額は2021年の半分に満たない状況だった。
市場のフィードバックは業績データにも反映されており、2024年上半期、デビアスのダイヤモンド販売量は前年同期比で28%減の11.94百万カラット、営業収益は26%減の22.47億ドル、EBITDAは16%減の3億ドルに低下している。親会社のアングロ・アメリカンはダイヤモンド事業を売却またはIPOを通じて分割する計画を発表した。
中国の経済メディアである「节点财经」は、若い世代の消費者において、デビアスによって創造された恋愛の象徴はまだ効力を持っているが、消費者はダイヤモンドを購入する際により理性的になっていると分析している。ソーシャルメディアでの公開コメントやライブによる直感的な表現がラボグロウンダイヤモンドに予算を向けさせる要因となっている。
ラボグロウンダイヤモンドは天然ダイヤモンドと化学成分が同じで、肉眼では識別できないが、サイズやグレードによっては価格は80%-90%安価だ。ドイツのデータモニタリングプラットフォームStatistaによると、2023年には約270億ドル(約4兆6900億円)の価値を生み出し、2032年には約590億ドル(約10兆2500億円)に達する見込みで、成長率は118%だという。
現在中国におけるラボグロウンダイヤモンドの生産能力は世界全体の50%を占めており、そのうちの80%は「人工ダイヤモンドの都」と呼ばれる河南省エリアで生産されている。このエリアから誕生したラボグロウンダイヤモンドブランドはこのトレンドの大きな受益者となっている。二次市場の動きを見ると、ラボグロウンダイヤモンドセクターは2024年9月末からの累積最大上昇率が50%を超えていることがわかる。
一般的に、大きなカラットと高いグレードの希少なダイヤモンドだけが資産価値を維持する。一方、大衆消費市場に出回る小さなカラットのダイヤモンドは流動性が低く、価値が下落するスピードも速いため、すでに多くのダイヤモンドブランドが「ダイヤモンドの買い取りは行わない」という方針を打ち出しており、ダイヤモンドの価値は、金価格を指標とするゴールド製品と比べて大きく劣る。
ラボグロウンダイヤモンドが注目を集める中で、LVMHやケリングといった大手高級ブランドや、パンドラやスワロフスキーといったジュエリーブランドもこの潜在的な市場に注目している。LVMHは、傘下のジュエリーブランドであるフレッドや時計ブランドであるタグ・ホイヤーなどでラボグロウンダイヤモンドを採用し、パンドラとスワロフスキーも元々の商品群の中にある天然ダイヤモンドをラボグロウンダイヤモンドに置き換えた。
「节点财经」は、「ダイヤモンドの価値は、市場ポジショニング、消費者認知、業界エコシステムの抜本的な改革など、さまざまな要因によって変化しつつある。買い手の視点から見ると、ダイヤモンドはもはや高額で希少な贅沢品ではなく、さまざまな意味を持つ消費財となってる。消費者がダイヤモンドを購入する際には、製品のデザイン、ブランド理念、価格などの要素を総合的に判断するようになっている。」と分析している。
この消費者のダイヤモンド需要の疲弊は、ラボグロウンダイヤモンドの価格設定にも影響を与えている。あるアナリストは、2025年にはラボグロウンダイヤモンドの価格が2桁台後半の割合で下落する可能性があると指摘している。ただし、ラボグロウンダイヤモンドが天然ダイヤモンドに代わる存在として真に受け入れられるかどうかは、市場の動向を見守る必要がある。
ゴールドのビジネス – 高級志向とコスト重視の対照
ダイヤモンドとは対照的に、金価格の上昇はゴールドジュエリーの商品価値を再認識させる要因となった。2025年1月24日時点で多くの中国のゴールドブランドが小売ジュエリーの価格を引き上げており、周大福や六福珠宝、周生生、潮宏基などのブランドで1グラムあたり835元(約16,700円)を突破している。2024年1月1日の価格から211元(4,220円)の上昇だ。
「620元/グラムの時にでも高過ぎると思ったが、800元以上になるとは思わなかった。全く手が出せない。」とある消費者は、様々なブランドの金価格を見て回った後に感想を述べた。
「节点财经」が上海の中心部にある複数のゴールドジュエリー店を取材したところ、この消費動向が裏付けられたという。多くのブランドがグラム単位の割引キャンペーンを実施していたが、ゴールドジュエリーの購入を検討している顧客は少なく、むしろ金地金の購入について問い合わせる顧客が増加していたという。
周生生の販売員は、「ゴールドジュエリーは一般的な消費者にとって必需品ではなく、高額な金価格はむしろ様子見の姿勢を強めている」と述べた。また「今は金価格がほぼ毎日変動しており、結婚を控えているなど、どうしても必要な場合に三金、五金を購入する人がいる程度で、日常的に身につける金宝飾品の売上はそれほど多くない。」と説明した。(三金、五金とは、伝統的に中華圏で結婚の際に男性から女性に贈られる黄金の装飾品を指す。)
上場企業の財務報告書を見ても、周大福の業績に明確な下降傾向が示されている。2025年度上半期(2024年9月時点)、営業収益は394.08億香港ドルで前年比20.4%減少、純利益は25.30億香港ドルで前年同期比44.4%減少している。財務報告発表後、周大福の株価は当日約3%下落し、20億香港ドルの株式買戻し計画が発表され、市場信頼の回復を図っている。
さらに、周大福の財務報告には、中国大陸の小売店が6968店舗あり、そのうち77%がフランチャイズ店舗であることが示されている。報告期間中に239店舗が純減しているが、2025年度下半期には店舗閉店のスピードは徐々に緩やかになると予想している。
周大福は、2018年にはすでに「新興都市出店計画」を掲げ、その名の通り、3線都市以下の地方都市に進出することで、7,000店舗という目標を達成しようとしていた。5年間で周大福は中国本土で3,800店舗以上を増やし、109%の増加となった。中国本土の全店舗のうち、50%以上が過去2~4年間に開店した店舗だ。しかし、出店を加速させた一方で、既存店売上高は減少しており、金価格の高騰と消費需要の減退により、周大福は収益を維持するために閉店を余儀なくされている。
若者市場を取り込むため、周大福は、昨年ソーシャルメディアで話題となった金豆や金瓜子など、軽量で個性的な低価格帯のゴールド製品を数多く発売している。「节点财经」の分析によると、伝統的な消費認識において、ゴールドはある程度の歴史的伝承と文化的意義を担っており、「高価であるが贅沢ではない」印象を持っていると分析している。しかし、このような消費者のイメージがあるがゆえに、中国本土のゴールドジュエリーブランドでラグジュアリーブランドと呼べるものはほとんどなく、その背後にあるブランドとしての発言力や確固たる消費者心理を確立することはこれまで非常に困難だった。
しかし、別のブランド「老铺黄金」のポジショニングは、この固定観念を覆そうとしている。ローカルメディアの報道によると、北京の高級ショッピングモールSKPに入居する老铺黄金店舗では、開店記念日に店の前にできた行列が何重にもなり、同じフロアに入居する他のインターナショナルラグジュアリーブランドをはるかに凌ぐ人気ぶりだったという。
老铺黄金は、伝統的な金細工をブランドのセールスポイントとしている。従来のゴールドジュエリーブランドとは異なり、グラム単位での販売ではなく、一律価格での販売を採用しており、平均グラム単価は1,000元を超え市場平均を大きく上回っている。また、同ブランドはは毎年ほぼ2回の値上げを行い、製品に金価格を超越したブランド価値を与えている。さらに、出店場所についても同ブランドは現在、直営店を33店舗しか展開しておらず、そのほとんどが各都市の中心部に位置している。製品デザインにおいても様々な伝統工芸の技法を取り入れ、伝統的な文様や宗教的なシンボルを多用し、ゴールドとダイヤモンドや宝石を組み合わせることで、ゴールドジュエリーにラグジュアリーブランドとしての魅力を付加している。
こうした戦略が功を奏し、同ブランドは他のゴールドジュエリーブランドとは一線を画す高い利益率を実現している。決算報告書によると、2024年上半期の売上高は前年同期比148.3%増の35億2,000万元、売上総利益は同146%増の14億5,000万元となった。一方、周大福の2024年度の売上総利益率は20.5%、老舗ゴールドジュエリーブランドである老鳳祥の売上総利益率は10%にも達していない。
注目すべきは、老铺黄金の目論見書によると会員数は3.91万人を超えており、そのうち年間購入額が30万元(600万円)以上の顧客は1%に満たないものの、総売上高の25%以上を占めていることだ。年間購入額が100万元(2000万円)を超える顧客はわずか0.1%だが売上高の15.9%を占めており、上位顧客が同ブランドにいかにロイヤルティを持っているかが窺える。
2024年1月24日の時点で、老铺黄金の株価は367.6香港ドルであり、2024年6月の発行時(40.5香港ドル)から9.07倍に上昇し、総資本額は618.9億香港ドルに達している。
老铺黄金が築き上げたラグジュアリーブランドとしての地位は、多くのゴールドジュエリーブランドの中で際立った存在感を示すとともに、金価格の影響を受けやすい宝飾品消費の低迷を脱却することに成功している。しかし、国際的な消費者から認められるゴールドジュエリーのラグジュアリーブランドになれるかどうかは、まだ市場の検証が必要だ。しかし、一つ確かなことは、老铺黄金が中国のゴールドジュエリーブランドに新たな可能性を示したことだ。これは、周大福のような既存ブランドに新たな成長に向けたヒントを与えるかもしれない。
コメント