
2024年、金(ゴールド)は中央銀行の売買や資本の大移動を背景に、世界第2の準備資産の座に上り詰めた。金がユーロを追い越し、その存在感を強めているという事実は、金融界だけでなくジュエリー業界にも小さくないインパクトをもたらしつつある。
金はなぜ「第2の通貨」になったのか
長らくドルとユーロが支配してきた国際金融の舞台に“金”が返り咲いた背景には、各国中央銀行の明確な戦略転換がある。米ドルに依存しない備え、中国・ロシアなどによる経済圏の多極化、さらに地政学リスクの激化──。さまざまな要素が絡み合い、「通貨への信認」という見えざるバランスが揺れ動く今、価値保存の王者・金への回帰が起きている。
ECB(欧州中央銀行)が公表した2024年の準備資産配分では、ドルの独走(46%)を背景に、金が20%に達しユーロの16%を逆転した。ポーランド、インド、トルコの中央銀行は特筆すべき買い手で、中国・ロシアもその流れに続いている。世界の中央銀行保有の金総量は3万6,000トンと、1960年代以来の規模だ。

ジュエリー業界が「金準備潮流」に直面する現実
このグローバル規模の金需要拡大は、ジュエリー業界にとって決して歓迎一色のニュースだけではない。第一に、中央銀行の巨額買いがマーケットから金原材料を吸い上げており、実需として金地金を仕入れるメーカーや職人の調達コストが劇的に高騰している。事実、今年に入っても金価格は1トロイオンスあたり3,500ドルを突破し、市場最高値を繰り返し更新中である。
実店舗や百貨店での金製品販売は堅調でありつつ、調達コスト上昇が製造・小売双方の利益率をじわじわ圧迫する。
ジュエリーならではの2つの特異点
この「金争奪時代」において、ジュエリー業界は2つの大きな独自性に進む可能性がある。
ひとつめは、金そのものを「見せる」デザインへのシフトだ。価格高騰の中、“薄く・小さく・でも目立つ”ジュエリーがリバイバルしている。素材価値の演出と、ファッション性の絶妙なバランスを模索するブランドも増えてきた。日本の審美感覚と職人技が、逆境下の新たな可能性を開く。
もうひとつは、金積立や小口投資サービスなど、「身に着けて楽しみつつ、将来の換金性も維持したい」という消費者心理にマッチした商品・サービス拡充だ。リスク分散志向が表れた特徴的な現象と言える。
地政学リスクと未来の「金」の価値
金が再び準備資産の中心となった現在、国際資本の大きな流れがジュエリー業界の原材料調達、価格設定、商品企画、さらには消費者行動に至るまでを左右している。もし国際的な供給に突発的な制約が発生した場合、日本市場において純金製品の入手が難しくなるシナリオも考えられる。
金相場の先は読めないが、「金=最後の資産防衛手段」という位置づけが再び現実味を帯びていることは間違いない。その波紋はジュエリー業界のみならず、ライフスタイルや消費価値にも及んでいく。
結局、中央銀行が金を買えば買うほど、金はジュエリーにも投資にも「語れる物語」と「確かな裏付け」の両方をもたらす素材であり続ける。価格だけでなく、その“物語性”と“稀少性”をどう活かし、顧客に届けていくか──ジュエリーブランドに求められる想像力と戦略の新時代が始まるかもしれない。
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