
世界の原石取引を統括する国際枠組みの新体制
国際的な天然ダイヤモンド原石取引の監督・管理を担うキンバリー・プロセス認証制度(KP)の2026年議長に、インドが正式に選出された。これは2025年12月5日のコンセンサス投票によるものであり、過去1年以上にわたって議長国決定が難航していた状況をようやく打開したものだ。
キンバリー・プロセスは2003年に国連の枠組みで発足した多国間制度で、政府、ダイヤモンド産業、民間セクターが連携して紛争ダイヤモンドの取引を防止する仕組みだ。参加国・地域は現在約60に及び、この枠組みで扱われる原石の取引量は世界全体の99%超をカバーしているとされている。
インドは2025年末から副議長に就いており、例年どおり翌年の議長に自動的に就任する運びとなる。ただし2025年は当初タイが副議長を務める予定だったが、同国が途中で就任を辞退した経緯があったため、副議長ポストの空白状態が続いていたことが議長決定の遅れにつながった。
今回は最終的に合意形成が進み、コンセンサス投票によりインドが選ばれた。これはインドにとって3度目のキンバリー・プロセス議長就任となる。インドの選出について、インド宝飾品輸出促進協議会(GJEPC)会長キリット・バンサリ氏は、「国際社会が透明性と公平性を重視するインド政府のアプローチを信頼した結果だ」と述べている。
インドは天然ダイヤモンドの研磨・加工の世界最大拠点として知られる国であり、世界の原石供給および加工・流通の中心的な役割を担っている。インドは世界のダイヤモンド原石の多くの割合を研磨する拠点であり、その実務的な影響力は極めて大きい。
ただし、近年のダイヤモンド市場は単に原石取引だけでなく、人権・環境問題を含めたサステナビリティの観点からの監督強化が求められるようになっている。キンバリー・プロセスが発足当初から抱えてきた課題として、「紛争ダイヤモンド」の定義や適用範囲、監視・検証の実効性、さらには不正取引や脱法的な輸出入ルートへの対処が挙げられてきた。こうした状況下で、世界最大のダイヤモンド加工ハブであるインドが議長国となる意義は大きいと考えられている。
実際、キンバリー・プロセスの参加国の中には、ロシア関連の問題や、他地域の政治的対立を背景に議長職候補としての評価に反対する声もあったため、今回の合意形成のプロセスは一段と慎重に進められた。コンセンサスが不可欠な制度設計の中で、参加各国が合意してインドを選出した事実は、国際社会が透明性と責任のあるダイヤモンド取引体制を維持したいという意思の表れとも受け取れる。
インドは2026年議長国として、次のような重点課題に取り組むことが想定されている。まず、紛争ダイヤモンドの定義の見直しや、人権・環境配慮を含む包括的な認証制度強化が求められている。世界的な消費者や企業の倫理的調達への関心が高まる中、キンバリー・プロセスもこうした期待に応える必要がある。
また、デジタル技術を活用した原石トレーサビリティの強化や、検証機能の統一化など、制度の実効性を高める取り組みも重要となる。世界の主要鉱山・取引拠点が多様化する中で、単なる書類審査に依存しないモニタリング手法の開発が今後の焦点の一つだ。
そして、インドは自国が有する研磨・加工インフラやデータ、流通ネットワークを活用し、参加国間の情報共有やコンプライアンス強化を促進すると見られる。これは、世界の原石市場の透明性向上や、紛争に関わらない「クリーンな供給網」の構築に資する可能性がある。


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