デビアスが売却される可能性はあるか

デビアスが売却されるかもしれないという見通しは、昨年12月に市場アナリスト兼鉱山コンサルタントであるエレズ・リブリンによって初めて提起された。

リブリンは、ほぼ1世紀にわたり同社を経営し2012年にデビアスの株式40%を51億ドルで売却したオッペンハイマー家に比べ、現在の親会社であるアングロ・アメリカンはダイヤモンドに対する情熱を持っていないと指摘した。

また同氏は、アングロ・アメリカンが2021年に南アフリカの石炭事業に対して行ったように、ダイヤモンド事業の売却を検討する可能性があると推測した。

同氏は、オッペンハイマー家による経営の時代から世界は大きく変わったが、それは主に西側企業に対する市場の新しい3つの戒め、即ち「環境」「社会」「ガバナンス」(ESG)によるものだと述べた。

さらに、ロシアのダイヤモンドに対する制裁の意図せぬ結果として、デビアスが再びダイヤモンド市場の独占権を握る可能性があり、この状況を利用してデビアスがダイヤモンドに高い価格を適用しないことの証明を余儀なくされることを指摘した。

「この困難な状況から抜け出す方法の一つは、単にデビアス(ダイヤモンド事業)を売却することだろう。」と彼は述べた。

デビアスが供給ラインに沿って、小売りに至るまで事業を展開しているという事実は、アングロ・アメリカンという世界的な鉱山企業にとっては快いことではないだろうと同氏は語った。

昨年12月の同氏の洞察は以下のようなものだ。

アングロ・アメリカンはデビアスの株式の85%を所有しており、ボツワナ政府が残りの15%を所有している。アングロ・アメリカンは世界で7番目に大きい鉱山会社で、2021年には206億ドル(2020年の2倍以上)という驚異的な利益(EBIDTA)を上げた。しかし、デビアスによるダイヤモンド部門は11億ドルしか貢献しておらず、これはアングロ・アメリカン全体の利益のわずか5%にすぎない。2021年はコロナによるダイヤモンドサプライチェーンの逼迫により、一時的とはいえダイヤモンドが高騰し例外的な好調だった年だ。

アングロ・アメリカンとデビアスという2つの巨人の将来の方向性は、ダイヤモンドによって生計を立てている世界中の何百万人もの人々に影響を与える。したがって、この2つの会社の方向性を注視するのは当然だ。

起こり得る将来のシナリオを考える前に、アングロ・アメリカンの歴史、そして世界的な動向との相互作用がどのようにしてアングロ・アメリカンを今日の地位に導いたのかを理解する必要がある。アングロ・アメリカンは1917年にアーネスト・オッペンハイマーによって設立され、主に金と銅の採掘を行っていた。そしてオッペンハイマーはは輝く炭素鉱物(ダイヤモンド)に注意を向け、息子のハリーとともに、人類史上最も強力な武器の一つであるダイヤモンドの事業を開発した。

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孫の苦悩

オッペンハイマー家とダイヤモンドとのラブストーリーはほぼ1世紀続いたが、それは永遠に続いたわけではない。世界は根本的に変化し、共産主義は崩壊し、世界的な敵は存在しなくなった。戦争は世界のルールではなく例外と見なされるようになった。

この、史上初めてグローバル化した人類社会と倫理の変革は、ダイヤモンド業界に苦境を与えた。つまり、戦争に関するスケープゴートとしてダイヤモンドは十分話題性があったということだ。こうして、「ブラッド・ダイヤモンド(紛争ダイヤモンド)」として知られる「邪悪なダイヤモンド」が誕生した。アーネスト・オッペンハイマーの孫であるニッキーにとって、2006年に公開された(日本公開は2007年)レオナルド・ディカプリオのヒット映画『ブラッド・ダイヤモンド』は、ダイヤモンドの時代を終わらせる大きな理由となったと考えられる。1998年にデビアスの会長に就任したニッキーは、ダイヤモンドに対する欲求を失い、2012年に家族が所有していたデビアスの株式40%をアングロ・アメリカンに51億ドル相当の現金取引で売却した。

ESGの戒め

新しい世界的な倫理は、西側企業に対して3つの新しい戒め、つまり ESG (環境、社会、ガバナンス) を作成した。これらは血生臭い革命を起こさずに古い既得権益を超越した。新しい世界秩序のもとでは、自然の需要と供給の力によって資本主義市場に働いていた「見えざる手」は以前ほど機能しなくなり、また規制当局だけでなく消費者も価格よりもESGを優先するよう求め始めた。

アングロ・アメリカンとデビアスは現在、この新しいESG倫理規定に熱心に取り組んでいる。両社の報告書には、地域社会への投資、持続可能性の重要性、二酸化炭素排出量の削減方法などが盛り込まれている。

アングロ・アメリカンのスチュアート・チェンバース会長は、株主に対する2021年の声明の中で、「私たちはエネルギーと輸送の脱炭素化に不可欠な金属や鉱物の多くを供給し、責任を持って供給するという重要な役割を担っている。」と述べた

オッペンハイマーのいないデビアス

オッペンハイマー夫妻がいなくなったアングロ・アメリカンとデビアスは、経営の焦点を利益と管理から新しいESGに移した。ダイヤモンド業界で最も注目されるべき動きは、アングロ・アメリカンによる石炭事業の売却だった。同社の会長は、これは「低炭素の未来に不可欠な製品ポートフォリオの移行」の一環であると説明した。

オッペンハイマー家のダイヤモンドに対する情熱がなくなったことによって、アングロ・アメリカンの幹部たちは、わずか10年前では考えられなかったアイデアを自由に実行できるようになった。では実際に、アングロ・アメリカンが石炭事業のようにダイヤモンド事業を売却するきっかけとなるのは何だろうか?

意図しない独占とその他の動機

リブリンは、「これらは個人的な考えであり、両社の関係者から得た情報ではない。」と前置きしながら、以下の点を指摘した。

  • 1. ロシア・ウクライナ戦争開始からすぐ、大手ブランドやジュエラーはサプライヤーに対し、「紛争に関係するロシア産のダイヤモンドを使用しない」という書面による誓約を要求した。これにより、一夜にしてそれまで30%以上を占めていたロシアのダイヤモンド鉱山、アルロサのダイヤモンドが消滅した。事実、デビアスは現在、米国市場における制裁対象外ダイヤモンドの50%以上を供給している。米国のダイヤモンド市場の独占に意図せず復帰したことは、将来の独占禁止法訴訟の大きなリスクを引き起こすことになる。デビアスの弁護士にとって、同社が状況を利用して高額な価格を設定したわけではないことを証明するのは、将来的には困難な仕事になる可能性がある。こうした困難な状況から抜け出す方法の1つは、単にデビアスを売却し、厄介な米国の法廷を他の誰かにパスすることだ。
  • 2. もう1つの重要な動機は、運用上の問題である可能性がある。デビアスの経営はサプライチェーン全体にまで及んでいる。小売業界への参入は、アングロ・アメリカンの中核となる鉱山事業にとって最も異質な活動の1つだ。ダイヤモンド部門に関与していない人間にとって、デビアス売却は非常に自然な動きであり、株価の上昇によって経営陣に補償を与えることさえできるかもしれない。
  • 3. ダイヤモンド事業がアングロ・アメリカンの株価に悪影響を与える可能性がある別の懸念がある。デビアスは現在株式を公開しているが、オッペンハイマー家は何年もの間、ダイヤモンド事業の成功を公正な株式市場価値に変えることができなかった。ダイヤモンドは規制対象商品ではないため、プロの投資家がダイヤモンドを分析するのは困難だ。
  • 4. ニッキー・オッペンハイマーの退任後、アングロ・アメリカンはデビアスの85%の株主となり、販売がより簡単になった。ボツワナ政府が株主であり、その動きによってボーナスが得られるのであれば、ボツワナ政府が売却に反対する可能性は低い。

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