
古法金ブームの象徴となった老鋪黄金と、中国市場の特殊性
老鋪黄金は2009年創業の中国ゴールドジュエリーブランドで、自らを「古法黄金」概念をいち早く広めたブランドと位置づけている。中国古来の手工芸的な意匠・加工を前面に出し、2024年6月には香港証券取引所に上場した。公式説明でも、中国黄金協会認定の「古法黄金」先駆ブランドであり、足金(純金)をベースにしたダイヤモンド製品などを打ち出してきたとされる。単なる地金販売ではなく、文化性、非遺的工芸、ラグジュアリー性を重ねた高価格帯ブランドとして成長してきた点が最大の特徴だ。
中国の金ジュエリー市場は、他国と比べても特殊性が強い。第一に、金が装身具であると同時に、資産保全や贈答、婚礼、家族内承継の意味を持つこと。第二に、消費者がグラム単価に敏感な一方、近年は古法金や硬足金、デザイン性の高い定価商品への支持も広がっていること。世界黄金協会は、近年の中国では金飾需要の「重量」は弱含んでいる一方で、消費者の予算総額はむしろ上昇していると指摘している。つまり、買う量は減っても、より高付加価値の商品にお金を払う市場へと変質している。
数量は鈍化、価値は拡大 中国の金需要構造が変わった
もっとも、中国全体の市場環境は楽観一色ではない。中国黄金協会によれば、2025年の中国の金消費量は950.096トンで前年比3.57%減、このうち金ジュエリーは363.836トンで同31.61%減となった。一方で金地金・金貨は504.238トンと35.14%増加し、初めてジュエリー需要を上回った。高騰した金価格を背景に、装飾需要より投資需要が強まった構図が鮮明だ。ロイターも同様に、中国では2025年にジュエリー需要が大きく減少しつつ、投資需要が伸びたと報じている。
世界黄金協会の集計でも、中国本土の2025年ジュエリー需要は360.1トンで前年比25%減だった一方、世界全体ではジュエリー需要額が過去最高を更新した。価格高騰で「重さ」は売れにくくなっても、ブランド性やデザイン性を持つ商品の販売金額は維持・拡大し得るということである。老鋪黄金のようなブランドが市場の注目を集める背景はここにある。
老鋪黄金の強さは「一口価」にある
老鋪黄金の価格設定は一般的な金店のような「グラム単価+工賃」ではなく、ラグジュアリーブランド型の「一口価」、すなわち製品ごとの定価販売が軸になっている。金価格が上昇局面にある間は、この方式は極めて強い。原材料高をそのまま価格転嫁しやすく、しかも消費者には「地金」ではなく「ブランド商品」として認識させやすいからだ。
実際、2026年2月末の価格改定では、20.8グラム前後のネックレスが約4.73万元から6.01万元へ引き上げられたと報じられた。1人民元=23円で換算すると、約108万7900円から約138万2300円への上昇だ。1グラム当たりでは約5万2303円から約6万6457円相当となり、同日の上海黄金交易所Au99.99の現物価格水準を大きく上回る。つまり、老鋪黄金は「金そのもの」ではなく、「工芸・ブランド・希少性」を価格の中心に置いている。市場がこれを受け入れる限り、高い粗利を確保しやすいモデルだ。
なお、上海黄金交易所の2026年4月1日の延時行情ではAu99.99は1047.96元/グラムであり、円換算では約2万4103円/グラムとなっている。ブランド製品の売価との開きの大きさは、老鋪黄金のプレミアム戦略の強さを示す一方、その持続性が常に問われることも意味する。
問題は値上がりではなく、下落局面
金価格が上がる局面では「一口価」モデルは追い風になるが、価格が下がる局面では事情が変わる。消費者はすぐに「金が下がったのになぜ売価は下がらないのか」と考える。そのため老鋪黄金の成長持続性は金価格の変動に大きく左右される可能性がある。また価格感応度の高い顧客が2026年度第1四半期売上の約40%を占める可能性がある。
加えて、老鋪黄金は報道ベースでは、同業他社が用いる金のリースや先物等によるヘッジを採用していないとされる。この場合、金価下落時には高値で仕入れた原料在庫がそのまま粗利を圧迫する。報道では、2025年11月の高値圏で仕入れた原料を用いた商品が春節期に販売され、利益率に逆風が生じた可能性を指摘している。要するに、「価格決定力」があるブランドであっても、在庫を持つ以上、地金相場から完全には自由になれない。
金価格変動リスクはどう管理すべきか
金ジュエリーブランドにとっての相場リスク管理は、地味だが経営の核心だ。基本は四つある。
第一は、調達と販売の時間差を短くすることだ。在庫回転を上げ、高値在庫の滞留を防ぐ。第二は、価格改定ルールを明確にし、定価商品であっても一定の頻度で見直すことだ。第三は、金リースや先物、オプションなどを使った部分ヘッジである。上海黄金交易所でも黄金租借の参考レートが公表されており、中国市場では金リースが一般的な管理手段の一つとして制度化されている。第四は、商品ポートフォリオの最適化である。重量級の高額商品だけでなく、軽量・高工賃・高意匠の商品を組み合わせることで、地金感応度を下げることができる。
2025年末に上海黄金交易所Au99.99の終値は974.90元/グラムだったが、2026年4月1日時点のAu99.99は1047.96元/グラムまで上昇している。足元でも変動幅は大きく、ボラティリティ管理の重要性はむしろ増している。ブランド力だけで金相場をねじ伏せるのは難しい。ラグジュアリー化が進むほど、在庫評価、ヘッジ方針、値上げ・値下げ判断の整合性が問われる。
老鋪黄金は、中国の金ジュエリー市場が「地金商売」から「ブランド商売」へ移る可能性を体現した成功例だと言える。しかし中国市場は依然として、投資需要、婚礼需要、文化消費、そしてグラム単価意識が複雑に共存する市場でもある。だからこそ、古法金の物語性だけでは足りない。これからの勝敗を分けるのは、華やかな店頭演出より、むしろ見えにくい相場リスク管理の巧拙かもしれない。




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