書評:諏訪恭一著「宝石の価値」@栄光ホールディングス小谷年司

ふつう商人は取り扱い商品の枠のなかで、 自分が売りたく思っているものを努力して売っている。動機はいろいろで、 自分が気に入っているとか、利益率が高いとか、他の店でも人気とか。一番楽なのは店頭に並べておけば勝手に売れて行く商品があればの話だが、なかなかそうは行かない。

コンビニでは、そんなものばかりを並べている訳で、商品の選択は店主がするのではなくて、顧客買上げのデータが決めてます。全く売り手の主体性に欠けてます。それが成り立つのは、 生活に必要なものやサービスを提供しているからです。

宝飾品には生活に必要なものは一切ありません。ブライダルもデビアス社が長年莫大な費用をかけて植え付けた習性ですが、一般的な小さなダイアモンドの婚約指輪は、白魚のような華奢な指のお嬢さんにはぴったりでも、長く主婦に似合うとは思えません。結婚指輪も、どこかにしまっている人が殆どです。レンタルのブライダルも出てくるやも。

それでも人は何故宝石に魅かれて買おうとするのか、宝石屋さんは、当然自分のまわりの現実的な事情も考慮に入れながら、いつも考える必要があります。性能が良い、安い、便利という世界から離れてみてはじめて、お店の独自性が成り立ちます。商品の基準をどこに持っていくのかとか、その商品で何を顧客に訴えるのかとか。

長年の友人、諏訪恭一さんの新著 「宝石の価値」は、宝石を売る側にとっても、買う側にとっても、素晴らしいヒントを与えてくれます。宝石商としての長い経験が素直に記されてます。宝石屋さんの書かれた本は、単なる知識か、売り手、または買い手のどちらかの立場に立ったものが殆どです。諏訪さんはこれまで、優れたプロの知識による学術的かつ実用的な専門書も多く書かれています。この本では、売り手、買い手(消費者)のファンダメンタルな共通認識が、宝石業の健全な発展に必要不可欠と考えられるようです。 それにこれは、諏訪さんの一種の自伝となっていて、生来のユーモアと静かな頑固さが共存する楽しい読み物です。 確実に知っていることしか言わず、ハッタリの全くない文章に人柄がにじみでています。一人でも多くの業界人にまず目を通して欲しいと思います。

栄光ホールディングス 代表取締役会長 小谷年司

栄光ホールディングス株式会社
栄光ホールディングス株式会社は50を超える時計・宝飾品のライセンスブランドと、総代理店を務めるオリジナルブランドを取り扱い、これらの仕入と卸売業務を行っています。

長年にわたり時計宝飾眼鏡の業界紙「The Watch & Jewelry Today」に、小谷さんのご厚意によりコラムを掲載中。古き良き時代から現在までの業界の栄枯盛衰を小谷さんの視点と抜群のセンスで解説。業界必読のコラムとして人気が高い。https://www.e-tkb.com/

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