
デンマークのジュエリー大手、パンドラ(Pandora)が発表した2026年第1四半期決算は、現在のグローバルジュエリー市場の構造変化を象徴する内容となった。売上高は前年同期比で減少した一方、オーガニック成長率ではプラスを維持し、利益率も市場予想を上回った。今回の決算で注目すべきは、Pandoraが自社を「シルバーチャームブランド」から、「マルチマテリアル型ジュエリーブランド」へ再定義し始めている点だ。
2026年第1四半期の売上高は71億900万デンマーククローネ(約1,120億円)で、前年同期比では約3%減となった。しかし為替や店舗閉鎖などを除くオーガニック成長率では2%増を維持。EBIT(営業利益)は14億8,700万クローネで、市場予想を上回った。
特に市場関係者の関心を集めたのは、北米市場の失速だ。Pandoraは北米既存店売上が2%減少した背景について、「中間所得層および低所得層の消費マインド悪化」を明確に挙げた。新CEOのベルタ・デ・パブロス=バルビエ氏は決算説明会で、“K字型経済”がさらに深刻化していると説明している。高所得者層は依然として消費を継続する一方、Pandoraの主顧客層である中間層は、インフレ、金利上昇、燃料費高騰などの影響を強く受けているという。
これは現在のジュエリー市場全体にも共通する傾向だ。高級宝飾市場では依然として富裕層消費が比較的堅調である一方、アクセシブルラグジュアリー領域では消費者の選別が急速に進んでいる。Pandoraはまさにその中心に位置するブランドであり、その苦戦は市場全体の温度感を映し出している。
一方で興味深いのは、その逆風下でもPandoraが「守り」に入っていないことだ。同社は今回、ラボグロウンダイヤモンド戦略をさらに前進させた。特に象徴的だったのが、“第5のC”として「Carbon Footprint(炭素排出量)」を導入すると発表した点である。従来ダイヤモンド品質の指標は「4C(Carat、Cut、Color、Clarity)」だったが、Pandoraはそこに環境負荷を加えることで、ラボグロウンダイヤモンドの価値軸そのものを変えようとしている。
これは単なるESG的メッセージではない。天然ダイヤモンドとの“希少性競争”ではなく、「環境負荷の可視化」という別軸へ市場を誘導する試みと見るべきである。Pandoraは米国およびインドの再生可能エネルギー使用工場からラボグロウンダイヤモンドを調達しており、外部監査機関によるカーボンフットプリント測定も開始する。
ただし現時点でラボグロウンダイヤモンド事業は、まだPandora全体における規模は小さい。第1四半期売上は7,500万デンマーククローネ程度で、全社売上比では約1%前後とされる。しかも同カテゴリーの既存店売上は前年同期比15%減とのデータもあり、必ずしも順風満帆ではない。
それでもPandoraがこの領域への投資を続ける理由は明確だ。同社はラボグロウンダイヤモンドを単独事業としてではなく、「マルチマテリアル化」の一環として位置づけている。実際、同社は銀価格高騰への対策としてプラチナプレーティング製品への転換も進めており、2027年までに対象銀製品の50%以上をプラチナプレート化する計画を打ち出している。
これは原材料価格変動へのヘッジであると同時に、「素材そのものをブランド戦略化する」動きとも言える。従来のPandoraは「チャーム」という商品フォーマット依存が強かった。しかし現在は、素材、デザイン、コラボレーション、ストーリー性を複合的に組み合わせる方向へ舵を切っている。
その象徴が新プロジェクト「Pandora Wonders」である。これは著名クリエイターと組み、限定カプセルコレクションを展開する取り組みで、第1弾では“有機的パール”をテーマとした新デザインが登場する予定だ。またNetflixシリーズ『ブリジャートン家』とのコラボレーションも継続し、従来型広告よりSNSやアーンドメディアを重視するマーケティングへ移行している。
今回の決算では、アジア太平洋地域が12%成長と比較的好調だった点も見逃せない。Pandoraはアジアで新たな成長モデルが機能し始めていると説明しており、LinkedIn上では同社関係者が「日本市場が主要貢献国の一つだった」とも言及している。
Pandoraはかつて、“大量生産型シルバーチャームブランド”というイメージが強かった。しかし現在の同社は、価格帯や素材、価値訴求、サステナビリティ、IPコラボレーションを横断的に再構築しようとしている。その意味で今回の決算は、単なる四半期業績ではなく、Pandoraという企業の「変身過程」を示した決算だったと言えるだろう。


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