第2回IGIダイヤモンド・プロフェッショナルトレーニング in Tokyo 開催レポート – 変化する市場を支える「教育」の役割

2026年8月6日・7日の2日間、東京都内で「IGIダイヤモンド・プロフェッショナルトレーニング」が開催された。一般社団法人日本ラボラトリーグロウンダイヤモンド協会(代表理事 伊藤拓也)と、IGI(International Gemological Institute)による教育プログラムで、昨年の日本初開催に続き、今回が2回目となる。

ラボラトリーグロウンダイヤモンドの流通拡大や技術の進歩、消費者が得られる情報量の増加など、ダイヤモンド市場を取り巻く環境は大きく変化している。そうした中、販売や仕入れ、商品企画などに携わる事業者には、従来以上に幅広く正確な知識が求められている。

今回のトレーニングでは、ラボラトリーグロウンダイヤモンドだけを対象とするのではなく、天然ダイヤモンドを含めたダイヤモンド全般について、基礎知識からグレーディング、成長環境や特徴までを体系的に学ぶプログラムが実施された。

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鑑定だけではない、IGIのもう一つの柱「教育」

IGIは1975年に設立された国際的な宝石学機関で、ダイヤモンド、カラーストーン、ジュエリーなどのグレーディングや鑑別を世界各地で行っている。

日本では鑑定・グレーディング機関として認識されることが多いが、IGIはSchool of Gemologyを通じた宝石学教育にも長く取り組んでいる。教育対象は宝石鑑定士だけに限らず、ダイヤモンドグレーダー、販売員、バイヤー、ジュエリーデザイナーなど、宝飾ビジネスに関わる幅広い人材に及ぶ。

その背景にあるのは、宝石業界では鑑定書や検査結果を提供するだけでは市場全体の信頼性を高めることができないという考え方だ。

最終的に消費者と接するのは小売店や販売員であり、そこで誤った説明が行われれば、いくらグレーディングの精度が高くても、適切な情報開示にはつながらない。鑑定と教育の双方を通じて知識の水準を底上げすることが、宝石業界の透明性を高めるうえで重要となる。

なぜ今、教育に力を入れるのか

宝石業界における教育の重要性が増している背景には、技術と市場の双方が急速に変化していることがある。

従来、ダイヤモンド販売に必要な知識の中心は4Cや天然ダイヤモンドの特徴、ジュエリーの商品知識などであった。しかし現在では、それに加えてラボラトリーグロウンダイヤモンドの製造技術、識別、処理、流通、情報開示など、新たな領域についても理解する必要がある。ラボラトリーグロウンダイヤモンドだけを見ても、HPHT法とCVD法という異なる成長方法が存在し、製造技術や品質は継続的に変化している。

一方、IGIの教育はラボラトリーグロウンダイヤモンドのみに偏ったものではない。天然ダイヤモンドについても、その形成、宝石学的特徴、グレーディング、市場での位置付けなどを学ぶ。

現在求められているのは、天然とラボラトリーグロウンのどちらかを支持するための知識ではなく、双方について事実に基づいて説明できる知識だ。

教育経験を持つ専門講師による指導

今回のトレーニングでは、IGIの教育部門から専門トレーナーが来日し、2日間の講義と実習を担当した。

IGIの教育部門では、宝石学の専門知識を持つだけでなく、実際に人へ教えるための教育経験を持つ人材が講師を務めている。

今回来日したScott Tang氏はLVMHグループやケリンググループのトレーナーとしてブシュロンやブルガリなどの社内トレーニングも担当しており、専門知識を一方的に伝えるだけではなく、受講者の理解度に応じて内容を整理して伝える能力を備えている。

宝石学教育では、この「教える能力」は重要だ。例えばカラーやクラリティの評価基準は、文章やスライドだけを読めば理解できるものではない。どのポイントを見るべきか、判断に迷った場合にどこを再確認するのかといった実務的な感覚は、経験を持つ講師から直接指導を受けることで理解しやすくなる。

また、参加者には販売、仕入れ、商品開発などさまざまな立場の実務者が含まれるため、単に鑑定士向けの専門用語を並べるだけでは十分ではない。技術的な内容を実際のビジネスや販売現場と結び付けて説明できることも、プロフェッショナル向け教育では重要となる。

講義と実習を組み合わせた2日間

今回の日本でのトレーニングでは、ダイヤモンドの基本構造、4C、グレーディングの基礎に加え、天然ダイヤモンドとラボラトリーグロウンダイヤモンドの成長プロセスや特徴について講義が行われた。

ラボラトリーグロウンダイヤモンドについては、HPHT法やCVD法といった代表的な製造方法、それぞれの成長環境、天然ダイヤモンドとの違いなどについて宝石学的な観点から解説された。

また、座学だけでなく、実際のルースダイヤモンドを使用したグレーディング実習も行われた。受講者は10倍ルーペやピンセットなどを使用しながら石を観察し、カラーやクラリティなどの評価方法を実践した。

ダイヤモンドのグレーディングは、基準を文章として理解することと、実際に石を見て判断することの間に少なからず距離がある。実物を観察し、自ら判断する工程を経験することは、知識を販売や仕入れなどの実務につなげるうえで重要となる。

受講後も使用できる専門ツールを配布

今回のトレーニングでは、講義用教材に加えて、実習で使用する各種ツールも受講者に配布された。その中には、ダイヤモンド観察の基本となるIGIロゴ入りの10倍ルーペ、ルースストーンを扱うためのピンセット、カラーグレーディングに使用するツール、インクルージョンの位置や特徴を記録するためのプロット用ペン、専用ノートなどが含まれる。

これらは単なる記念品ではなく、実際のグレーディング教育に使用する実務ツールだ。特に10倍ルーペは、ダイヤモンドのクラリティ評価における基本的な観察器具であり、ピンセットと合わせて正しい持ち方や観察方法を身に付けることもトレーニングの一部となる。

また、カラー評価やインクルージョンのプロットなどは、単に「見る」だけではなく、一定の方法に従って情報を整理し記録する必要がある。専用ツールを使用しながら一連のプロセスを経験することで、グレーディングがどのような手順で行われているのかについても理解が深まる。

受講者には詳細なテキストも配布されており、トレーニング終了後も内容を振り返ることができる。2日間の講義だけで完結するのではなく、その後の自主学習や日常業務で継続的に利用できる環境を用意している点も、本プログラムの特徴の一つだ。

「何を売るか」以上に重要になる「どう説明するか」

現在、天然ダイヤモンドとラボラトリーグロウンダイヤモンドをめぐっては、価格、市場シェア、呼称、マーケティングなどさまざまな議論が存在する。しかし、小売現場で最終的に重要となるのは、販売者が特定の商品カテゴリーを支持することではなく、消費者が判断するために必要な情報を正確に提供できるかという点である。

天然ダイヤモンドには天然ダイヤモンド特有の背景や価値があり、ラボラトリーグロウンダイヤモンドには別の特徴や選ばれる理由がある。消費者の価値観も一様ではない。希少性や自然由来の背景を重視する人もいれば、サイズ、デザイン、価格とのバランスを重視する人もいる。

こうした市場では、自社商品のメリットだけを説明する販売手法には限界がある。それぞれの特徴を理解した上で違いを説明し、消費者自身が選択できる状態をつくることが、結果として販売者への信頼につながる。

教育は業界の「共通言語」をつくる

宝石学教育の意義は、個々の販売員の知識量を増やすだけではない。

業界内に一定水準の共通知識が広がることによって、誤った説明や過度なマーケティング表現を減らし、事業者間のコミュニケーションにも共通の基準を持たせることができる。

特に新しいカテゴリーや技術が登場した市場では、知識不足が不必要な対立や誤解を生みやすい。

天然ダイヤモンドとラボラトリーグロウンダイヤモンドについても、科学的な違い、市場での位置付け、消費者ニーズを整理して理解することができれば、「どちらが本物か」「どちらが優れているか」といった単純な対立から離れ、より具体的な議論が可能になる。

教育は、こうした業界の共通言語を形成する役割も持っている。

消費者の知識向上が販売現場を変える

教育が必要とされるもう一つの理由が、消費者側の変化だ。

現在は、店舗を訪れる前に検索エンジン、SNS、動画などを通じて商品を調べることが一般的になった。消費者によっては、ダイヤモンドの4Cだけでなく、HPHT、CVD、蛍光性、鑑定機関の違いなどについて事前に調べたうえで来店する場合もある。その結果、販売者が単に商品情報を伝えるだけでは十分ではなくなりつつある。

情報そのものはインターネットで入手できる。販売員に求められる価値は、その情報を整理し、顧客の質問に応じて正確に説明し、商品選択につなげることへと変化している。

知識が豊富であること自体が目的なのではない。重要なのは、その知識を消費者に理解できる言葉へ変換し、必要な情報を過不足なく提供することである。

教育が市場の信頼を支える

ジュエリーは専門性の高い商材であり、売り手と買い手の間には必然的に一定の情報格差が存在する。だからこそ、販売側の教育水準は市場への信頼と直結する。

正しい知識を持つ販売者が増えれば、消費者が誤った情報をもとに商品を選択するリスクは減る。また、天然ダイヤモンドとラボラトリーグロウンダイヤモンドそれぞれについて適切な説明が行われることは、双方の市場にとってプラスとなる。

さらに、業界教育の充実は、販売現場だけでなく仕入れや商品開発にも影響する。商品を扱う事業者自身が品質や特徴を適切に理解することで、価格だけに依存しない商品選定や企画もしやすくなる。

専門教育は短期的に販売数量を増やすための施策ではない。しかし、販売現場の説明力を高め、情報の透明性を向上させ、消費者が納得して商品を選べる環境を整えるという意味では、長期的な市場の健全性を支える基盤となる。

今回のIGIダイヤモンド・プロフェッショナルトレーニングが2年連続で日本開催となったことも、こうした継続教育の必要性を示す一例と言える。

技術や市場が変化し続ける以上、ジュエリー業界における専門知識も固定されたものではない。教育を通じて知識を継続的に更新する仕組みを持つことは、今後のダイヤモンド市場において、企業や販売員の競争力だけでなく、業界全体への信頼を維持する上でも重要性を増していくだろう。

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