教育から宝飾市場を活性化させる研究所
今年に入り、ラボグロウンダイヤモンド(LGD)の話題が尽きない。
日本市場では明確な土台が無いまま、ラボグロウンダイヤモンド=合成石(Synthetic)と推奨するに留まり、「天然ダイヤモンドの代替品」という考えから立ち止まっている状態が続いている。
米国のブライダル市場では、今年に入りラボグロウンダイヤモンドのシェアが7割を超えた。天然ダイヤモンドの代替品から抜け出し、「新しいジュエリー市場をつくる素材」へ移行したといえるが、天然ダイヤモンドの供給量は決して落ちてはいない。
そこで、ラボグロウンダイヤモンドの鑑定機関としてトップレベルの国際宝石研究所IGI(International Gemological Institute)上海のリージョナル・マネージング・ダイレクター、沈 勇恩氏に、世界で急拡大するLGD市場の現在と、IGIについて話を聞いた。
▶IGIとは(以下、沈 勇恩氏の回答)

IGIは、1975年に、ベルギー・アントワープで設立。現在は、アメリカ、インド、タイ、中国、香港など世界30カ国以上でラボを展開し、50年以上の歴史を誇っています。
近年では、アジア市場を中心にLGD業界のトレンド及び教育トレーニングプログラムを展開し、市場規模をはじめ、鑑定基準、地域別トレンド、イノベーションなどに積極的に取り組んでいるほか、AIデザインの実用化にも力を入れています。
鑑定品目は、天然ダイヤモンド、LGD、パール、カラーストーンなど全品目の鑑定を可能としている。LGDにおいては鑑定書を発行し、世界の約80%のシェアを誇る最も権威ある鑑定機関の一つです。
▶LGD市場の発展とトレンド
現在、LGDの最大の消費市場はアメリカです。新しいものを好みますし、何よりもLGDを楽しんでいるので購買行動が活発になります。中国市場の消費者志向は開放的ですが、購買チャネルが多様化(リアル店舗、オンライン、ライブコマースなど)しています。特にLGDはライブ販売と卸売を通じて販売されており、今後、徐々にブランド化されると見られています。日本市場は、ご存じかと思いますが、比較的保守的であり、依然としてリアル店舗での購入が中心ですが、最近ではLGDの登場(導入)が増加傾向にあります。韓国は、有名ブランドを好む傾向が強く、高級品の販売が上昇トレンドでしょう。

▶アジア市場の潜在力と課題
中国ではサプライチェーンの優位性が顕著で、迅速な対応、高品質、大量生産能力を備えており、新ブランドの育成に最も適しています。
日本市場は独立性が強く、ブランド力は高い。品質とイメージを最重要視しており、東南アジア圏から良好な評価を得ていることがメリットです。
東南アジアは❝ホワイトボード市場❞とされ、経済成長が早く需要が拡大していますが、地元ブランドが未成熟であるのが難点となっています。
現在の最大の課題は、正しい情報が広がっていないことです。伝統的なジュエリーリテイラー(有名百貨店)などにLGD製品ラインが導入され、市場における可視性(認知度)が高まることが必要でしょう。
▶鑑定基準と業界の立場
①統一評価基準の堅持
IGIは、LGDに対しても天然ダイヤモンドと同じ4C基準(カラット、カラー、クラリティ、カット)を適用し続ける方針です。他の機関がLGDの評価方法を変更しましたが、IGIは両社の物質構造が同一であるため、透明性と消費者信頼を確保するために同一基準を採用すべきと主張します。
②消費者への教育の責任
初期段階では、業界内にてLGDを「本物のダイヤモンド」として認めるか否かで議論が巻き起こりましたが、IGIとしては、消費者へ購入商品の属性(天然かLGDか)を明確に伝えることによって、情報格差を縮小させ(誤解を生まない)、消費者の選択肢を保障することへの責任があることを強く主張します。
▶教育プログラムと今後の展開
現在の教育プログラムは、中国、香港、日本、韓国、シンガポールなどで展開しており、ジュエリーの基礎知識から、貴金属、宝石鑑定などを含むトレーニングコースを実施しています。講座形式も様々で、1時間のワークショップから3週間のカラーストーン評価コースまで幅広く用意しています。
講座の理念は、インタラクティブ性と実践体験の重視です。知識はAIやネットワークで得られますが、学習者と講師との対話や経験共有こそが真の価値であると考えています。新設された「国際実用ジュエリー講座」は、3日間のプログラムで、ジュエリー制作の基礎、貴金属と宝石知識を体系的に習得する、初心者でも業界全体の理解を深めるのに役立つ内容になっています。
日本市場においては、昨年の8月に、日本ラボラトリーグロウンダイヤモンド協会(代表理事:伊藤拓也)とのパートナーシップによって、日本で初めての「IGI Diamond Professional Training」(2日間)を開催し、さらに今年の8月には第2回目のトレーニングも成功しました。
今は、ベトナムへのトレーニングネットワーク拡大を計画していますが、日本市場への進出も計画中で、東京にオフィスを構え、小規模ラボを導入するなどして日本市場のカバー強化を検討しています。
▶世界初のAIジュエリー
設計トレーニング

AIデザインと3Dプリンターを組み合わせた世界初のジュエリートレーニングコースを導入し、アイデア生成から実物製造までのフルプロセスを学ぶ。生徒はAIを用いて指輪、ネックレス、時計などのデザイン図とモデル着用動画などを生成でき、そのスタイルは超現実主義(例:ジュエリーが空から降ってくるなど)として多様となっていますが、全てのデザインは3Dプリンターによってリアルに出力が可能であり、デザインの実現可能性を検証することができます。
▶技術と機器
現在使用している 3D プリンターは学習段階に適した小型製品が中心でサイズが限られていますが、より大型の工業用機器を用いれば、実物に近いサイズで印刷が可能です。AI 生成コンテンツは SNS でのプロモーションに活用でき、ブランドの伝播効率を向上させるなど、近未来のジュエリーデザイナーの育成にも役立ちます。と、以上の回答が得られた。

まとめ
IGIは、世界トップレベルの鑑別機関であるが、ただ鑑定書を発行するだけではなく、鑑定基準を最高レベルで維持しながら、市場トレンドに合わせた教育を導入し、ジュエリー業界を成長させるための教育プログラムを提供しているところに魅力がある。今後、IGIが日本へ進出する時には、W&Jの紙面にて第一報を伝えられることに期待したい。
*これは、The Watch & Jewelry Today 9月1日号に掲載したものです。



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