中国市場におけるダイヤモンド減速の原因は何か

中国の不動産危機が長引く中、2023年の半ばに地方の不動産会社はマンション購入のインセンティブとしてゴールド(金の延べ棒)をプレゼントし始めた。

不動産と異なり金はその価値が安定していると考えられているという理論だ。それら地方の不動産企業はまた、販売促進のために、新しい車、携帯電話、無料の内装、駐車場などを提示し始めた。中には地下鉄の10年間無料権、小さいリゾートマンションをプレゼントなどというものもある。

しかし、不動産の供給が需要を上回り続けたためこれらの努力はほとんど実を結ばなかった。国際通貨基金(IMF)の2024年2月の報告によると、住宅着工件数はパンデミック前の水準と比べて60%以上減少したという。

これらの不動産の低迷と他のいくつかの要因が重なり、消費者信頼感とダイヤモンド市場に顕著な影響を与えていると、3月初めに上海で開催された世界ダイヤモンド取引所連盟(WFDB)の会議の参加者が認めた。

「人々は不動産に多額の資金を投じており、一部の人々は株式にも投資しているため、これほど高い水準での景気低迷を見ると大きな影響を及ぼします。」と、インドを拠点とするダイヤモンドメーカーKGKグループの上海支社、KGK上海のゼネラルマネジャー、アビシェク・ゴレチャは語った。

「中国市場の天然ダイヤモンド」と題したディスカッションの中でパネリストたちは、不動産危機、米国との貿易摩擦、パンデミックとともに、消費支出に影響が残っていると指摘した。

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パンデミックの影響

中国経済はパンデミック以前からすでに圧力にさらされていたが、新型コロナウイルス感染症とそれに伴う長期のロックダウンにより、家計に対する不安が人々の中に生じたとKGKのゴレチャは指摘した。

同国がロックダウンを完全に終了したのは昨年1月だったが、その慎重な感情は依然として残っている。「直近の旧正月の祝日は、厳密に言えば新型コロナウイルス感染症終了以降初めての祝日だった」と、上海を拠点とするジュエリー小売企業、キンバーライト・ダイヤモンドの社長であるケラン・ボ・ドンは述べた。

中国は、政府の景気刺激策が支出を刺激した米国のような新型コロナウイルス感染症拡大後の急増を経験していない。中国の世帯はパンデミック中にそのような経済的支援を受けていなかった、と上海の復丹大学経済学部長のジャン・ジュン教授はWFDB幹部に説明した。「だからこそ、家庭の貯蓄傾向が非常に高いのです」と彼は述べる。「彼らは、教育、医療、住宅のために将来もっと支出が増えるかもしれないと感じているため、特にパンデミック後は予防的貯蓄が依然として増加しています。」と述べた。

国内総生産(GDP)に占める家計消費の割合は世界平均を大きく下回っていると同氏は強調した。

資産価値の低下

中国の消費者は経済が停滞すると警戒し、過去数年間の不動産で顕著であったように、下降傾向の市場で資産を購入することを避ける傾向がある。それが彼らがダイヤモンドの購入を敬遠してきたもう一つの理由だと会議のパネリストたちは指摘した。

「ダイヤモンド業界にとっての課題は、消費者がダイヤモンドの価格が下がっていると感じていることだ」と中国香港ダイヤモンド連盟の創設会長であり、ダイヤモンドとジュエリーの卸売及び小売企業リー・ヘン・ダイヤモンド・グループのCEO、ローレンス・マーは説明する。 「彼らはダイヤモンドの価格が下落しているのを見ているので、バカだと思われたくないためダイヤモンドを買おうとしないのだ。」と述べた。

対照的に、金製品、特に純金の需要はブームとなっており、中国の消費者ゴールドジュエリーには優れた投資価値があると信じているとマーは強調した。

ゴールドジュエリーの復活

ゴールドジュエリーは伝統的な中国文化に深く根ざしているが、近年では若い消費者の間でゴールドの人気が再燃している。

「5~10年前、若者はゴールドジュエリーを購入しませんでした。それは古い世代のものだと考えられていたからです。」と、中華圏最大のジュエリー企業である周大福のマネージングディレクター、ケント・ウォンは語った。「しかし、マーケティング、ソーシャルメディア、文化のせいで彼らの好みは変わりました。一方でゴールドジュエリーも消費者の購買を促進するために中国文化を利用してストーリーテリングを改善しました。」と説明した。

同時に、近年の技術と革新によりゴールドジュエリーの機能性が向上し、より多用途でよりカラフルで優れたデザインが可能になった。ゴールドジュエリーのファッション性が高まっているとマーは付け加えた。

ゴールド売上の向上

ジュエラーは、ゴールドの人気が再燃していることを利用しており、ゴールドジュエリーの販売によってダイヤモンドの低迷を補っている。

周生生は、2023年の中国本土の既存店売上高が12%増加したが、これはゴールド製品が21%増加し、時計が9%増加したためだと報告した。これらの増加は、ダイヤモンドが足を引っ張ったジュエリーのマイナス23%を相殺している。

同社は「中国本土では、特に高価格帯のダイヤモンド宝飾品の売上が減少傾向にあった」と説明した。

同様の展開は、周大福と六福ホールディングスの12月31日に終了した四半期の最新のレポートでも明らかだった。両社は、中国本土でのゴールドの売上高の増加と、ダイヤモンドジュエリーの低迷を報告している。

 謝瑞麟(TSL)は、6月の年次決算報告時に損失を計上する見通しだと述べた。その理由は「主に、本土市場における天然ダイヤモンドジュエリーに対する消費者の需要の大幅な減少と、同グループが純金製品の販売比率を大幅に高めたことによる利益率の減少によるものだ」と同社は3月中旬に説明した。

ダイヤモンド製品の売上は2024年も引き続き低迷すると考えられると、周生生の経営陣は今年の予測に付け加えた。

小売業の落ち込みは卸売市場にも波及している。中国香港ダイヤモンド連盟が発表したデータによると、香港から中国本土へのポリッシュダイヤモンドの輸出は、2023年に金額で42%、数量で37%減少した(グラフ参照)。

結婚式の減少

ダイヤモンドに関する多くの誤った情報が業界に影響を及ぼしており、その中には消費者にとって不快な価格下落の認識も含まれるとボ・ドンは説明した。

ラボグロウンダイヤモンドの出現は業界にも影響を与えている、と周大福のウォンは付け加えた。「消費者は何を買えばいいのか混乱している」と同氏は述べ、「彼らはこれら2つの製品の明確な区別を必要としている。」と指摘した。

さらに、多くの若い世代が独身を続けるか結婚を先延ばしにすることを選択しており、この傾向はパンデミックと景気低迷の結果さらに強まった。

中国国家統計局のデータによると、婚姻登録件数は9年連続で減少し、2022年には過去最低の683万件まで減少した。民政部のデータを引用した報道によると、2023年には約768万組のカップルが婚姻届を出したことでこの減少傾向は改善したとみられているが、それでも婚姻数は約1,350万件の婚姻届が登録された2013年のピークを大きく下回っている(グラフ参照)。結婚式の減少が「出生率の急速な低下」に拍車をかけ、それが人口の高齢化につながっているとジャンは指摘した。

市場の成熟

デビアスの2023年ダイヤモンド・インサイト・レポートによると、2022年まで結婚率は低下しているにもかかわらず、結婚した人はダイヤモンドジュエリーを購入する傾向が強かったという。

このレポートによると、結婚式や婚約でダイヤモンドのジュエリーを受け取る花嫁の割合は、2022年には47%に増加している。これは前年よりわずかに増加しており、33%だった2020年よりも大幅に高くなっている。

取得率の上昇と、2020年と比較して10%上昇した購入単価により、2022年の中国のブライダル市場は2年前と比較して6%成長したとデビアスは推定している。

ナチュラルダイヤモンドカウンシル(NDC)の中華圏マネージングディレクター、シシー・シューは、新型コロナウイルス感染症の発生以来、消費者の支出習慣は急速に変化していると強調した。

「中国の消費者はますます目が肥えており、高い品質と適切な価値を求めています。」とシューはパネルディスカッションで述べ、「これは、消費者がより知識を深め、より価値を重視するようになっている市場の成熟を反映しています。」と説明した。

消費者行動の変化、特にダイヤモンドの購入に関連する変化は、文化、経済、テクノロジーの進化と深く関わっていると彼女は強調た。

ダイヤモンドへの自信を維持する

こうした変化を引き起こすトレンドの中で、デジタルネイティブの台頭と同様に、中国の消費者にとって持続可能性と倫理的な調達がますます重要になっていることをシューは指摘した。

「若い消費者がオンラインで買い物をするのは、利便性のためだけではなく、製品に関する幅広い選択肢と豊富な情報のおかげでもあります。」と彼女は説明した。

消費者の間では、パーソナライゼーションやユニークな体験も求められているが、文化的な影響や解釈が非常に重視されている。

「中国の結婚式において、ダイヤモンドは新たな役割を担っています」と彼女は指摘した。 「ダイヤモンドの婚約指輪の伝統は依然として根強く残っていますが、現代的で型破りなデザインへの明らかな移行が見られます。」と述べた。

中国のダイヤモンド市場が急速に進化する中、鍵となるのは機敏さを保ち、消費者のニーズに応え、倫理的な実践に取り組むことであるとシューは強調した。

同様に、ウォンは業界に対し、天然ダイヤモンドに自信を持ち続け、天然ダイヤモンドに対するコミットメントの強いメッセージを消費者に必ず伝えるようにと促した。

ゴールド業界が販売ブームを刺激するためにストーリーテリングを活用したのと同じように、ダイヤモンド業界もダイヤモンドジュエリーの好感度を高めるためにやるべきことがたくさんある、とマーは付け加えた。

「ダイヤモンド業界は、ダイヤモンドジュエリーの魅力を高めるよう努めなければなりません。 経済状況に左右される消費者の購買力など、変えることができないものもあります。しかし、消費者にとって天然ダイヤモンドの魅力を高める努力はいつでもできるのです。」とマーは結論づけた。

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