デビアス売却に向けた動き、アングロ・アメリカンが数週間内に分離作業を開始か

デビアスグループが大きな岐路に立たされている。親会社である英資源大手アングロ・アメリカンが、数週間内にもデビアス事業の分離・売却プロセスを正式に開始する可能性が高いと、ブルームバーグやフィナンシャル・タイムズなどの主要国際メディアが報じた。これは、鉱業大手BHPグループによる390億ポンドにも上る敵対的買収提案に対抗するための経営判断の一環と見られ、単なる事業再編以上の意味合いをはらんでいる。ダイヤモンド業界の未来を左右しかねないこの動きは、日本のジュエリー業界関係者にとっても注視すべき展開だ。

アングロ・アメリカンは、このデビアス売却検討に先立ち、積極的な事業ポートフォリオの再構築を進めてきた。既にニッケル事業の分離を完了し、先日ロンドン市場に再上場を果たしたプラチナ事業ヴァルテラ(Valterra、評価額110億ドル)の分社化も記憶に新しい。また、オーストラリアに保有する石炭鉱山は米ピーボディ社への売却プロセスが進んでいるが、今年3月に発生した鉱山での爆発事故により、交渉が一部難航しているとの情報もある。こうした一連の動きの中で、ついにダイヤモンド事業、デビアスにメスが入る可能性が高まってきた。

今回のデビアス事業分離に関して、アングロ・アメリカンは「デュアルトラック・プロセス」、すなわち売却と新規株式公開(IPO)準備を並行して進める方針と伝えられている。理想的な買収提案が得られない場合には、デビアスを単独で株式市場に上場させる選択肢も残されている。これは、デビアスの価値を最大限に引き出すための周到な戦略と言えるだろう。

しかし、この一大ニュースに対する資本市場の反応は、冷静さと複雑さが入り混じる。 一方で、デビアスが天然ダイヤモンド業界における絶対的なリーダーであり、その成熟した事業体制と1世紀以上にわたる輝かしい歴史に裏打ちされたブランド価値は、誰もが認めるところだ。その採掘からマーケティングに至るまで、業界標準を築き上げてきた功績は計り知れない。

他方で、現在のダイヤモンド市場を取り巻く環境は厳しい。天然ダイヤモンド市場全体の低迷、ラボグロウンダイヤモンドの急速な台頭という構造的変化は、デビアスにとっても大きな逆風となっている。さらに、同社が抱える20億ドルとも言われる巨額の在庫は、潜在的な買い手にとって無視できない懸念材料だ。過去2度の評価損を経て41億ドルとされた企業価値が、現在の市場環境で正当に評価されるのか、専門家の間でも意見が割れている。ラボグロウンダイヤモンドの品質向上と価格低下は、特にエントリーレベルの消費者層において、天然ダイヤモンドの需要を確実に侵食し始めており、このトレンドがデビアスの将来性にどう影響するかが注目される。

こうした状況下で、デビアス買収の候補として複数の名が浮上している。メディアの報道(一部未確認情報を含む)によれば、特に注目されるのはデビアスの「元トップ」たちだ。2023年までデビアスのCEOを務め、最近ではカラーストーン大手のジェムフィールズで非常勤取締役も務めたブルース・クレイバー。そして、2005年から2010年にかけてデビアスを率い、現在は1750億ドル以上の運用資産を誇る投資会社ナインティ・ワンの会長であるギャレス・ペニー。両氏がそれぞれ買収に向けた準備を進めているとの憶測が飛び交っている。彼らがデビアスの内情を熟知していることは間違いなく、その手腕に期待する声もある。

このほか、オーストラリアの鉱業界のベテラン、マイケル・オキーフが率いる投資グループも関心を示している模様だ。さらに興味深いのは、デビアスの「小株主」でありながら、ダイヤモンド産出における重要なパートナーであるボツワナ政府(現在15%の株式を保有)が、「株式保有比率の引き上げに関心がある」との意向を示していると伝えられる点だ。産出国の関与が深まることは、ダイヤモンドのトレーサビリティやサステナビリティといった現代的な価値観とも合致する可能性があり、注目に値する。

ダイヤモンドの巨人の将来を巡る憶測は後を絶たず、関係者の間でも様々な見方が交錯している。ジュエリーメディアの視点から見れば、デビアスが最終的に買収されるのか、あるいは独立した企業として新たな道を歩むのか、その形態は重要ではあるものの、本質ではない。デビアスが天然ダイヤモンド業界において果たしてきたリーダーシップ、そして今後も持ち続けるであろう影響力は、揺るがない事実である。先日発表された新ブランド「Origin」や業界向けビーコン「Ombré Desert Diamonds」に見られるように、デビアス自身も変革の必要性を認識し、新たな価値創造へと舵を切ろうとしている。

この歴史的な転換点が、天然ダイヤモンド業界全体にいかなる影響を及ぼすのか。そしてデビアスは、この荒波を乗り越え、再びその輝きを増すことができるのか。業界の未来を占う上で、デビアスの動向から目が離せない状況が続く。

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