アントワープの競争力強化と米国向け無関税枠の活用へ

ベルギー政府が、ダイヤモンド産業に従事する外国人ポリッシャーおよびソーターの雇用を正式に認める方針を決定した。欧州域外からの技術者が、労働市場の逼迫を証明する手続きを経ずに、ワークパーミットとレジデンスパーミットを同時に申請できるようになる。アントワープ・ワールド・ダイヤモンド・センター(AWDC)は11月30日、この政策変更を歓迎する声明を発表した。
AWDCによれば、同国では研磨・選別に従事する高度技能人材の不足が続いており、国際的なダイヤモンドハブとしてのアントワープの競争力を維持するため、即時性のある雇用環境整備が必須であった。AWDC CEOのカレン・レントメースターズは「欧州域外からポリッシャーとソーターを迅速に雇用できることは、取引センターとしての競争維持に極めて重要である」と述べている。
今回の決定は、2025年9月に合意されたAWDCと米国政府との協定とも密接に関連している。同協定では、欧州連合域内で研磨された天然ダイヤモンドが、米国輸入時に関税の対象外となることが定められた。アントワープはこの無関税枠を享受できる唯一の主要ハブとなり、同地から米国へのポリッシュダイヤモンド輸出額は年間約21億ドルに達する。
レントメースターズは「ダイヤモンド原石をアントワープで研磨することで無関税で米国へ輸出できる。だがその体制を維持するには十分なポリッシャーが不可欠である」とし、人材受け入れ拡大によって企業の競争力が強化され、フローのアントワープ集中が進むと述べている。
今回の政策は、国際的な研磨拠点の配置と物流動線に直接影響を及ぼす。米国向けの天然ダイヤモンド輸出において、アントワープ経由の無関税ルートが事実上の優位性を持つことになり、国際調達戦略に影響を与える可能性がある。また、アントワープでの研磨量拡大に伴い、世界市場における研磨ダイヤモンド供給の分布が変化することで、日本国内の仕入れ価格、リードタイム、品質基準へ中長期的に波及する可能性もある。特に米国市場向け商品の比率が高いメーカーや輸出事業者にとっては、調達先・研磨工程の再最適化が検討対象となり得る。
ベルギー政府の今回の決定は、アントワープを軸としたダイヤモンドバリューチェーン再編を促し、世界の研磨産業の地政学に新たな動きをもたらす象徴的な措置といえる。


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