アングロ・アメリカン、デビアス簿価を約半減 天然ダイヤ市場の「前提」を書き換える減損

英資源大手アングロ・アメリカンは2025年通期決算で、傘下デビアスの簿価を41億ドルから23億ドルへ大幅に切り下げた。過去3年で3度目の評価減であり、天然ダイヤモンド市場に対する同社の長短期価格見通しを下方修正したことが直接要因とされる。減損は税引前23億ドル規模で、グループ最終損益も赤字幅が拡大した。 

ラパポートが整理した同社開示によれば、ダイヤモンド原石販売は数量ベースで増加した一方、価格指標は(需要の弱い原石を大口・割引条件で放出する“在庫リバランス”取引を除外しても)下落している。取引を含めると下落幅はさらに大きく、平均販売価格も低下した。結果として損失は拡大し、EBITDAも大幅なマイナスとなった。 

これは単なる不況による減損では説明できない。アングロ側が減損理由として挙げたのは、天然とラボグロウン間の顧客選好のシフトが想定より長引いていること、そして需要に対して天然ダイヤモンド原石供給が余剰であることだ。加えて米国関税などのマクロ不確実性、中国需要の弱さにも言及し、天然とラボグロウンの「差別化が進む時期」の見立てを短期的に前倒しする形で更新したとしている。これは、天然市場の回復シナリオを「時間が解決する」と置いていた企業ほど、前提の再点検を迫られるメッセージでもある。 

さらに注目すべきは、デビアスが従来の「供給を絞って市況を支える」スタイルから、売れ筋から外れた原石を大口条件で放出するという、より「キャッシュ重視」の動きに踏み込んだ点だろう。ラパポートは、この販売増が需要増ではなく戦略判断による面が大きく、割引放出がマージンを圧迫したと読み解く。天然の需給調整役を担ってきたプレイヤーが、自ら価格防衛のハンドルを緩めたことは、市場心理に与える影響が小さくない。 

供給サイドの力学も変わりつつある。アングロおよびデビアスは、市場悪化の一因としてアンゴラからの供給増を名指しで示唆している。低価格帯・小粒・低品質寄りの領域は、ラボグロウンの価格低下と供給増の挟み撃ちを受けやすい。結果として、天然の中でも「どの品質帯を主戦場にするか」の再設計が進む可能性がある。 

日本のジュエリー流通にとって重要なのは、ここから先が「天然の下落=一律の値下げ競争」になるかどうかだ。論点は二層化する可能性がある。ひとつは「換金性・希少性・物語性」で価値が成立するゾーン(高品質・希少形状・由来の明確性など)で、もうひとつは「見た目の満足」が主価値となるゾーンだ。後者はラボグロウンの技術進歩と価格低下の影響を受けやすく、天然側が同じルールで勝負するほど収益性が毀損しやすい。アングロが「一部小売がラボグロウンの高マージン維持により差別化を遅らせた」と示唆した点は、まさにここを突いている。価格ではなく、表示・提案・証明の設計が利益構造を決める局面に入っている。 

もう一段の含意は、デビアス売却(もしくは分割売却)の現実味が高まったことだ。アングロは売却・分離を進めており、ボツワナ政府との協議を含め「選別された関係者との協議が終盤」と説明、持分を二分割・三分割で売却する可能性にも言及した。所有構造が変われば、供給運用、マーケティング、原産地・トレーサビリティの打ち出し、そして価格政策が変化する余地がある。ジュエリー事業者は、単に「デビアスの値下げ/値上げ」を待つのではなく、調達先ポートフォリオと在庫回転設計を、所有者交代も織り込んで組み替える必要がある。 

今回の減損は、天然ダイヤが「供給調整と広告で需要を作れる」時代の終わりを告げるものではないが、少なくともそのコストと時間が増大したことを、最大級の当事者が財務数値で認めたという意味でもある。日本市場においては、天然とラボグロウンを「対立軸」で語るより、用途・価格帯・顧客心理ごとに役割を再定義し、表示と証明、そしてストーリーの設計で粗利を守る必要があるだろう。鍵は仕入れではなく「売り方」の再構築だろう。

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