
米国最大のウエディング情報プラットフォーム、The Knot Worldwideが「2026 Real Weddings Study」(2025年に結婚した米国カップルを対象)を発表、米国の婚約指輪市場でラボグロウンダイヤモンドが中心石として主流の位置を固めたとした。婚約指輪購入におけるラボグロウンダイヤモンドの比率は61%に達し、2020年比で大幅な伸長とされる。
この変化は単なる節約志向の結果ではなく、「合理性」と「価値観」の同時進行で起きている。この調査では、ラボグロウンであること自体を重要視する層が4割存在するとされ、価格以外の「選ぶ理由」が明確に形成されている。
平均1.9ct・平均4,600ドルが示す「期待値」の書き換え
婚約指輪の平均カラットは1.9ct、平均支出は4,600ドルという数字が示されている。
この組み合わせは、消費者の頭の中で「婚約指輪はこれくらいの見栄えが標準」という期待値が更新されつつあることを意味する。天然ダイヤモンドが前提だった時代、1.9ct級は「憧れ」のレンジに置かれやすかったが、ラボグロウンがそれを「現実的な選択」に変えた。結果として、婚約指輪の価値の説明軸が「希少性」単独から、「体験・象徴性・納得感(意思決定の透明性)」へ移り、販売現場の提案ロジックも組み替えを迫られる。
買い方が変わり、売り方も変わる – 共同購買と実店舗回帰の同居
興味深いのは、購買行動が二極ではなく「混合」で進んでいる点だ。受け手側がリング選びに関与した比率は79%とされ、カップルで一緒に検討する行動が常態化しつつある。一方で、購入は「実店舗」が依然として優勢で、購入の64%が対面、オンラインは約3分の1という構図だ。提案過程では平均2店舗を訪問し、平均10本を比較するという。
ここから見えるのは、ECが「情報探索」を加速させるほど、最後は対面で確証を取りにいく動きが強まるという構造だ。ラボグロウンは規格化・比較購買と相性が良い一方、リングという商材は最終的にフィッティング、輝きの体感、セッティングの見栄え確認といった「非デジタルの意思決定ポイント」を残す。したがって小売は、オンラインを敵と見なすより、オンラインで形成された比較軸を前提に「対面で意思決定を完了させる設計」へ最適化すべき局面に入った。
地金とデザインの潮流も、婚約指輪の意味を変える
ダイヤモンドだけでなく、地金選好にも変化が出ている。ホワイトメタルが依然主流とされつつも減少傾向で、イエローゴールドを選ぶ比率が39%に上昇したという。また、ダイヤモンドのシェイプもラウンド(26%)とオーバル(25%)が拮抗し、定番の中で「自分らしさ」を取りにいく選択が目立つ。
これは、婚約指輪が「唯一解の儀式」から「パーソナルなプロダクト」へ移行している兆候でもある。言い換えれば、ダイヤモンドの「物性」ではなく、選択プロセスとその説明可能性が価値の一部になっている。ラボグロウンは、その説明可能性(価格根拠、調達背景、サイズ選択の納得)を組み立てやすい。だからこそ、ラボグロウンの浸透は「商品置換」というより、婚約指輪カテゴリーの価値定義そのものを押し広げていると解釈できる。
日本市場ではどうか – 「在庫」より先に「提案OS」を更新する
本件は米国市場のデータなので、そのまま日本市場に当てはめられるわけではない。しかし参考にすべき点も多いだろう。第一に、ラボグロウン比率が上がるほど、売り場の競争軸は「カラットと価格」に寄りやすい。すると差別化は、スペック以外の設計、つまりカット・プロポーションの語り、セッティングの完成度、着用シーン提案、アフターサービス、リセール期待の扱い(期待値コントロール)へ移る。第二に、共同購買の増加は、接客の主語が「贈る人」から「二人の意思決定」へ変わることを意味する。ヒアリング項目、比較提示、見積の出し方、納期説明、鑑定書の位置付けまで、接客フロー全体が「ペア意思決定」仕様へアップデートされる必要がある。
The Knot Worldwideの発表では、本調査は2025年に結婚した米国カップル10,474組の回答に基づくとしており、ブライダル市場を読む上での参照性は高い。そしてこれらの数値群は、ラボグロウンが単に「安い代替」ではなく、「婚約指輪の平均像」を書き換える存在になったことを示している。
今後問われるのは「ラボか天然か」ではない。顧客が納得して選べるように、比較軸を整備し、意味づけを設計し、最後の意思決定を気持ちよく確定させる売り方へ進化できるかどうかだ。ラボグロウンの伸長は、宝飾小売にとって値付けのゲームを厳しくする一方、提案力のある事業者には「再成長の余地」を与える。市場の主導権は、石そのものではなく、提案の「設計図」を持つ側に移り始めている。



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