
高値更新から一転、9週ぶりの下落
この1週間の金相場は、熱狂と警戒が交錯した。20日に金スポット価格が史上最高の1オンス=4,381ドルを突破した直後、翌21日に6.3%安の急落、週末には4,113.05ドルで取引を終えた。週間で約3%下落し、9週連続上昇に終止符が打たれた。
ロンドンPMフィックスでも17日の4,224.75ドルから24日には4,104.40ドルへ下落。1ドル=150円、1オンス=31.1035g換算では1gあたり約580円の下落に相当し、円建てでは19,794円/gとなった。
テクニカル過熱と利益確定の連鎖
ブルームバーグの報道によれば、今回の急落は明確な材料がないまま起きた。背景にはヘッジファンドによる利益確定売り、中国銀行による手仕舞いが指摘されている。MKSパンプのニッキー・シールズは「金はあらゆるテクニカル指標で行き過ぎていた」と述べ、ヘレウスのマーク・ローファートも「さらに買われ過ぎ」との警鐘を鳴らしていた。これらの警告が現実となり、2013年以来の大幅下落を記録した形だ。
ニューヨーク商品取引所(Comex)では、強気のコールオプションに対する弱気のプットオプション比率が2008年以来の高水準に達しており、市場心理の過熱を裏付けている。
個人投資家の「ゴールドラッシュ」
急落の裏で、個人投資家の買い意欲が世界的に高まった。タイ・バンコクの金取引店前には長蛇の列ができ、シンガポールでは小売業者が「電話が鳴り止まない」と語る。タイの工場労働者スニサ・コドカソーンは「金は最高の投資。家族でお金をかき集めて買いに来た」と話し、手頃な金地金はすでに売り切れていたという。
これはいわば「民衆の押し目買い」だ。ブルームバーグは「急落が新たなゴールドラッシュを生んだ」と指摘しており、実需筋の動きが市場を下支えしている。
京都LBMA会議に見る市場の温度差
同週に京都で開催されたロンドン貴金属市場協会(LBMA)年次会議には、世界中から約1,000人の関係者が集まり、過去最多の参加者数を記録した。プロの間では慎重論が優勢だったが、会場は明らかな高揚感に包まれていた。
シールズは会場で「強気相場には過熱をそぎ落とす健全な調整が必要だ」と語り、JPモルガン・チェースのグレゴリー・シアラーも「利益確定は一時的であり、中央銀行や実需による押し目買いが下落を吸収する」と分析した。
長期強気トレンドは健在か
LBMAが年初に実施したアナリスト調査では、2025年の金平均価格を3,300ドル未満と予想していたが、実際の相場はすでに4,000ドルを突破している。専門家の想定を超えた強さを見せるなかでも、金の長期上昇トレンドが崩れたと見る向きは少ない。
金高騰の背景には、各国中央銀行の積極的な金購入と、米国の財政赤字拡大に伴うドル不信がある。サクソバンクのオーレ・ハンセンは「必要な調整を経たのち、上昇を支える構造要因は依然強固だ」と述べ、HSBCは2026年の平均価格見通しを3,950ドルへ上方修正している。
ジュエリー業界への影響
今回の下落は短期的に原材料コストを押し下げ、ジュエリー製造や仕入れの観点では一時的な追い風となった。ただし円安が進行しており、円建て価格は底堅い。為替と地金価格が同時に反発した場合、再びコスト上昇が急速に進む可能性がある。したがって、今後の調達戦略は「分散」「タイミング」「ヘッジ」が鍵となる。
販売面では、価格変動に迅速に対応できる可変的な価格設計が求められる。高値圏でも消費者心理は「一時的な下落は買い場」という認識に傾いており、需要の底堅さは続く見通しだ。
今後の展望:4,000ドルの攻防と年末相場の地図
今後の焦点は、4,000ドルの節目を維持できるかどうかにある。ブルーライン・フューチャーズのフィリップ・ストリーブルは「4,000ドルを明確に割り込めば、3,850ドルが次の主要サポート」と指摘している。
一方、FRBの利下げ観測が再び強まり、利回りを生まない金にとってはプラス要因が残る。米中関係の緊張緩和が進む中、安全資産としての需要が一時的に後退する可能性もあるが、中央銀行買いとETF流入が続く限り、下値は限定的との見方が強い。
金は今、熱狂の中で一度深呼吸をしている段階だ。過去2011年のように長期調整に入るか、あるいは新たな上昇局面へ転じるか、今週以降のFRB声明とETFフローが決定的な手がかりとなるだろう。



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