ダイヤモンドだけが「血塗られている」のか

ロシア産ダイヤモンドへの制裁によって、世界のダイヤモンド業界は「血塗られた」ダイヤモンドを確実に排除する方法を巡って議論を繰り広げている。しかし一方で、ダイヤモンドだけが「血塗られている」可能性を持っているのだろうか。

ロシアはダイヤモンド以外にも琥珀、エメラルド、アレキサンドライト、デマントイド、翡翠などを産出、輸出しており、これら鉱物の採掘に携わるロシア企業が米国とEUの制裁リストに含まれているが、これら宝石の起源に関して日本国内で関心を示す人は特に非常に少ない。

例えばルビーの場合はどうだろうか。消費者がルビーがセッティングされたジュエリーを購入すると、GIA又はその他の鑑別機関で取得された宝石の鑑別書が添付される。そこには1.0カラットの天然ルビーの記載と「ピジョンブラッド」の記載があるかもしれない。

「ピジョンブラッド」は、通常ビルマ産ルビーに適用される用語だ。米国では2008年から2016年まで「トム・ラントス・ビルマJADE禁輸法」が施行され、人権を侵害する軍事政権が支配していたビルマ (ミャンマー) からのルビーの輸入を禁止していた。ミャンマーでは現在でも人権問題を抱えた軍事政権が権力を握っていることが問題視されているが、現在ではこの禁輸法は施行されていない。

購入を検討するルビーをGIAやその他信頼のできる鑑別機関に提出すれば、そのルビーがミャンマー産であることを示す証明書が所得できる可能性がある。但し、それら鑑別機関は産地がわかっても、そのルビーがいつ採掘されたかを特定することはできない。その為、消費者はそのルビーが軍事政権と関係があるのかどうか推測することしかできないだろう。

アレキサンドライトに関してはどうだろうか。GIAのレポートには「地理的起源」というセクションが含まれている場合があり、そこではインクルージョン、宝石学的特性、分光学的分析、化学分析の調査に基づいて、専門家がこの鉱物が採掘された国または地域についての意見を記述している。しかしそれは完全な特定ではなく、該当セクションには「決定的ではない」という言葉が含まれている。その場合、ロシアのウラル地域でアレキサンドライトを採掘している、制裁対象企業ロステックによるものだということをどうやって否定できるだろうか。

また、ほとんどの宝石のレポートには、特定の宝石とそのレポートの同一性を確認することが難しいという問題がある。GIAではレポート発行時に、ダイヤモンドにはガードルにレポート番号をレーザー刻印し、0.5カラット以上のルビーやサファイアにも同様に刻印される。しかしそれ未満のサイズのルビーやサファイア、またアレキサンドライトやエメラルド、またその他の宝石はレーザー刻印の対象ではない。

またレポートに宝石の原産国が記載されていても、それらがいつ採掘されたのかまでを知ることは難しい。そのルビーが制裁期間の前か後か、または軍事政権によってビルマ人権侵害が行われていた期間中に採掘されたものかを知る術はない。また、ロシアのウラル地域で採掘されたアレキサンドライトは、ロシアが制裁を受けていなかった時期に採掘されたものなのか、それとも制裁を受けているロステックが採掘したものなのだろうか。

奇妙な偶然と言うべきか、多くの色石の鉱床は地政学的に懸念を引き起こす可能性のある場所に存在している。それにもかかわらず、色石の市場は繁栄し、需要は伸びている。

それは何故だろうか。それは、一般消費者が宝石を購入する際に倫理的な問題について検討することが極めて少ないためだ。「血塗られたダイヤモンド」の問題は恐ろしく、最新の方法で絶えず戦わなければならない。しかしなぜか、ロシア産のものが含まれる色石はダイヤモンドと同じカテゴリーの中にあっても、この戦いから免除されている。

消費者はルビーの指輪を求めてジュエリーショップに訪れるのであって、ミャンマーの軍事政権に抗議するためではない。また、他の色石の産地で眉をひそめるようなニュースがあったとしても、それらの宝石の魅力が薄れることはない。しかし、色石に対しても同様に道徳的、倫理的な透明性が必要であることは間違い無いだろう。

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