サスティナブル消費という新しい消費スタイルはジュエリー業界にも大きく影響を及ぼしており、ダイヤモンドやゴールドなどのジュエリーに使用される素材の調達に関して基準を設けているメーカーやブランドも珍しくない。しかし、「リサイクルゴールド」が実際に何を意味しているのかを理解している人は多くはない。
リサイクルゴールドはサスティナブルをコンセプトとするジュエリーブランドの素材調達選択肢の一つとなっている。しかし、リサイクルゴールドの定義、決定、そして認定については明確に示されていない。一部のブランドやECなど、またはメディアでリサイクルゴールドについて言及される(根拠のない)地球環境へのプラス効果の説明は、グリーンウォッシングになる可能性があると、海外の時計ジュエリー業界は警鐘を鳴らす。
定義の問題
米国の大手貴金属精製企業、United Precious Metal Refiningのセールス及びマーケティング統括であるDavid Siminskiは、いわゆる「リサイクルゴールド」によって商売をしている一人だ。しかし彼自身、その用語には明確な定義がないことを認める。「リサイクルという言葉が問題だ。それは人によって意味が異なり、10人に尋ねれば10人が異なる意味を答えるだろう。」と彼は説明する。
またDavidは、リサイクルゴールドを定義する企業や組織のガイドラインが異なっていることを指摘する。United Precious Metal Refiningではジュエリー企業、質屋、その他中古取扱企業からのスプラップからゴールドのほとんどを取得しており、現在のほとんどの定義に合致しているという。しかし彼は、ゴールドバーやクルーガーランド金貨などの投資対象品の扱いに関しては様々な定義があると言う。
市場の需要
だが問題はそれだけではない。推定では現在の金属供給の30~40%がリサイクルゴールドとされているが、現在の需要を満たすには十分な量ではないとDavidは言う。採掘する代わりにリサイクルゴールドを使用することは金の採掘を減らすために有効なように見える。しかし金の採掘が依然として続けられているのは、世界規模での金の全体的な需要が供給を上回っているためだ。「リサイクルゴールドの定義に制限をかけるほど、ジュエリー業界での需要を満たすことは困難になる。」とDavidは説明する。つまりリサイクルゴールドの使用は地球全体の金の採掘を軽減していないということだ。「リサイクルゴールドのジュエリーの購入は採掘による環境負荷を軽減すると主張するジュエリーブランドは、そのマーケティングが事実に基づいていない。」とジュエリー活動組織のVALERIOは主張する。
金はリサイクルされてきている
また、紙やプラスチックのリサイクルと金のリサイクルは根本的に意味が異なる。金は何世紀にもわたって常にリサイクルされ続けてきた。紙やプラスチックのように、捨てられた金が海岸に散らばっているということはない。(意図的に)金を捨てる人は誰もいないだろう。ジュエリー製造業者ですら、可能な限り全ての金を回収して再精製して使用する。その意味では「リサイクルゴールド」は以前から常にジュエリーのサプライチェーンの一部だ。そのためブランドは既存のプロセスを大幅に変更しなくてもリサイクルゴールドを使用していると主張できる可能性がある。エコを主張する為の手段としての「リサイクルゴールドジュエリー」の広告は、ジュエラーやブランドがサスティナビリティを向上させるためにビジネスとして特別に取り組んでいない限り、それはグリーンウォッシュにすぎない。
その金はどこから来ているのか
加えて、全てのリサイクルゴールドの元が「良い金」とも限らない。「『リサイクル』は多くの場合ポジテイブな修飾子だ。しかし、金の場合は必ずしもそうとは限らない」と、Jewelers Vigilance CommitteeのCEOのTiffany Stevensは言う。「その金が何からリサイクルされたのか、誰と取引しているのかを知る必要がある。」と彼女は説明する。、
すべてのリサイクルゴールドが祖母の宝石箱から出てきているわけではない。その一部は、麻薬の売人、組織犯罪、そしてマネーロンダリングによるものの可能性もある。The London Bullion Market Associationはリサイクルゴールドを「特定のマネーロンダリングリスク」と呼んでおり、The Financial Action Task Forceもほぼ同じ見解を示す。
加えて、リサイクルとラベル付けされた一部の金は、実際にはリサイクルされていない可能性もあるという。ベルンに拠点を置く非政府組織であるスイスエイドは2020年に、地元の精製業者が販売する「リサイクルゴールド」の多くが実際には、時には人権侵害に関与するスーダンの民兵によって新しく採掘されたものであることを告発した。
業界の見解
2022年5月、National Jeweler主催で金の調達に関するウェビナーが開催された。このウェビナーには冒頭に紹介したUnited Precious Metal Refining(米国最大の金属一次精製企業)のDavidの他、NYのデザイナーDana Bronfman、Alliance for Responsible Mining(ファインマイニングゴールドのアライアンス)のLaura Galvisが登壇した。
「リサイクルゴールドは(昔に採掘された)古い金だと誤解する人もいる。」とLauraは説明する。「しかし、それはほんの数週間前に採掘された金である可能性がある。リサイクルゴールドの認識されている定義のいくつかは精製された金というだけで、それが元々採掘された状態はわからない。」
採掘され、いくつかの場所で再加工をされた直後に精製された金がリサイクルゴールドになる可能性があるとDavidも説明する。
Danaは「リサイクルゴールドを扱う企業の一部は、消費者の無知を利用している可能性がある。ただ、公平に述べるとすれば、売っている側もよく理解していないことが多いだろう。」と述べた。
金は銀行や電子機器などの様々な分野で利用される金属だが、ジュエリー業界で使用される金の量は全体の45%にのぼる。ジュエリー業界が金の使用を止めれば世界中の金の需要は大幅に低下し採掘による環境への負担を軽減することが可能だろう。しかし、それは現実的ではない。
3000万人がその業界に従事していることを考えると、新しく採掘される金も社会的責任があると考えられる、とLauraは指摘する。また、Davidは「ジュエリー業界では、採掘が全て否定的に捉えられる考え方があるが、全ての金は採掘して得られたものだ。」と述べた。「業界がリサイクルという曖昧な用語に翻弄されるのではなく、認定された倫理的な金を販売するという一般的な取り組みをするべきだ。その金が責任を持って倫理的に調達されていることを証明するということだ。」と彼は付け加えた。
もしブランドが他社よりも優れていると主張するなら、他社よりも多くのことをする必要がある。余分な仕事、余分な研究、そして専門家に相談する必要があるだろう。また生産方法と調達プロトコルを理解する必要がある。そしてそれは、適切に検証されるべきだろう。
National Jewelerのウェビナーはアーカイブ閲覧可能
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