アルロサCEO、市場調整局面における天然ダイヤモンドの回復力を強調

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米国関税、供給縮小、ラボグロウン価格下落が交錯する市場環境

ロシアの国営ダイヤモンド鉱山会社アルロサの最高経営責任者(CEO)であるパーヴェル・マリインチョフは、現在の天然ダイヤモンド市場について、短期的な逆風を認めつつも、中長期的には需給バランスの改善による回復余地があるとの見解を示した。これは、世界のダイヤモンド市場が米国の輸入関税、地政学的制約、供給調整、そしてラボグロウンダイヤモンド価格の急落といった複数の要因が同時進行する局面にあることを踏まえた発言だ。

米国関税とインド加工産業の適応

マリインチョフCEOは、米国が導入したダイヤモンド関連製品への輸入関税が、短期的にはインドの研磨・加工産業に圧力を与えていると認めた。一方で、インド市場は時間をかけてこの新たな貿易環境に適応する能力を有しているとの見方を示している。インドは世界最大のダイヤモンド研磨拠点であり、特に米国市場向けの供給において重要な役割を担っている。関税導入により一部取引の停滞やマージン圧縮が生じているものの、現地小売市場では需要が完全に失われたわけではなく、価格調整や取引条件の見直しを通じた対応が進められている。

天然ダイヤモンド供給量の構造的縮小

アルロサCEOは、世界の天然ダイヤモンド原石算出量が2025年には約1億カラット水準まで低下する可能性に言及した。これは、2017〜2018年に見られた年間1億4,000万〜1億5,000万カラット規模から大幅な縮小であり、新規大型鉱床の不足、既存鉱山の老朽化、採掘コストの上昇が背景にある。アルロサ自身も、収益性の低い鉱区での生産停止や供給調整を進めており、同様の動きは他の主要産出国・企業にも広がっている。こうした供給面での制約は、市場が在庫調整を終えた段階で価格安定化につながる要因と位置付けられている。

ラボグロウンダイヤモンド価格急落との対比

マリインチョフCEOは、現在の市場環境を語る中で、ラボグロウンダイヤモンド価格が急激に下落している事実にも言及した。大量生産体制の拡大と技術成熟により、ラボグロウンダイヤモンドは短期間で価格が大きく低下しており、市場では宝飾用素材としての位置付けが急速に変化している。これに対し、天然ダイヤモンドは供給量が地質的に制約されていることから、価格変動はあるものの、需給構造そのものが崩れているわけではないとの認識が示された。この点が、天然とラボグロウンの市場特性の根本的な違いであるとの見解だ。

地政学リスクと市場の分断

ロシア産ダイヤモンドを巡っては、EUおよびG7諸国による制裁措置が段階的に導入されており、国際流通の複雑化が進んでいる。アルロサは主要市場への直接アクセスに制約を受ける一方、世界全体の供給量が減少することで、市場全体の需給バランスには一定の引き締め効果が生じているとの分析も存在する。この状況は、天然ダイヤモンド市場が単一のグローバル市場として機能する時代から、地域別・ルート別に分断された構造へ移行しつつあることを示している。

天然ダイヤモンド市場の現在地

マリインチョフCEOの発言は、現在の天然ダイヤモンド市場が「成長局面」ではなく、調整と再構築のフェーズにあることを率直に示している。需要の減速、政策リスク、消費行動の変化といった逆風は存在するものの、供給制約という構造的要因が、市場の下支えとして機能しているとの認識が背景にある。短期的な価格回復を断定する発言は避けられているが、供給縮小と在庫正常化が進めば、天然ダイヤモンドは再び安定した市場環境を取り戻す可能性があると位置付けられている。

価値構造が問われる局面

アルロサCEOの見解は、天然ダイヤモンド市場が外部環境に大きく左右されながらも、供給制約という本質的な特性を背景に、独自の回復メカニズムを有していることを示している。ラボグロウンダイヤモンドの価格急落、地政学的分断、関税政策といった要素が交錯する中で、天然ダイヤモンドの価値構造が改めて試される局面に入っていると言える。

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