色石分野における過去5年間の重要な10大研究開発 [National Jeweler]

ダイヤモンドに限らず色石の分野でも、新しい供給源、新しい処理方法が絶えず進化しており、世界中で行われている宝石学の研究は取引やビジネスにおいて重要性が増してきている。

しかし、ジュエリー業界の全ての人が、全ての新しい研究開発や技術を追うのは難しいだろう。ナショナル・ジュエラーでは世界中の宝石研究者と相談し、過去5年間の研究開発で特に重要だと思われる10の項目をリストとしてまとめた。

1. 機械学習によるリサーチの進歩

スイスを拠点とする宝石研究機関SSEFでは、2016年に画期的なシステムであるGemTOFの使用を開始した。この機器は、レーザーアブレーション(集束レーザービームによって宝石の表面からごく少量の物質を除去するプロセス)によって宝石の化学分析を行う。

他のレーザーアブレーションシステムと同様に、採取したいくつかの小さなピットから化学情報を抽出するものだが、GemTOFは他のシステムとは異なり存在するすべての要素を同時にキャプチャできるという。

このテストによって大量の微量元素データが生成され、宝石の起源を特定するために使用できる関連パターンを見つけるための統計的手法を使用できるようになる。

膨大な量の多次元データの分析を補助するため、SSEFは約2年前に非線形機械学習アルゴリズムの使用を開始した。これにより異なる起源の宝石に見られる微量元素など、データセット内の関連する元素の類似性を特定するのに役立つという。

同じくスイスのグベリン ジェムラボ(Gübelin Gem Lab)も、機械​​学習による宝石の分析を進めている。

グベリン ジェムラボは2020年に、スイスの研究開発センターCSEMと提携して、宝石の真正性と起源の特定プロセスを自動化するプラットフォームを開発すると発表している。

グベリン ジェムラボとCSEMは協力して、既存のデータセット、つまり、ラボが1970年代以降にテストした数万のクライアントジェムストーンのカタログと、27,000を超えるジェムを含むグベリンのリファレンスストーンコレクションを使用して、標準的な宝石の特性を評価するための機械学習ベースアルゴリズムの開発に取り組む。

2. 「エメラルドパターニティテスト(親子テスト)」とブロックチェーンによるトレーサビリティ向上

2017年に開始されたグベリンの起源証明イニシアチブは、色石業界のトレーサビリティと透明性の向上を前進させた。

重要な進歩の1つは、「エメラルドパターニティテスト(親子テスト)」だ。これは、DNAベースのナノ粒子を採掘現場のエメラルド原石に直接加えることを含んでいる。

ナノ粒子は肉眼では見えず、石の旅のすべてのステップ(切断、洗浄、研磨、輸送、ジュエリーへのセッティング)に耐えることができ、そのエメラルドがいつ、どこで、どの会社によって採掘されたかに関する情報を提供する恒久的なタグとして機能する。

グベリンはまた、鉱山から市場までのサプライチェーンを通じて宝石を追跡することを目的とした、ブロックチェーンを導入した。

パイロットプログラムのために鉱業会社であるFura Gemsと提携し、2018年にこの開発を最初に発表。同社はブロックチェーンのテスト用にコロンビアのコスケスエメラルド鉱山の宝石を提供している。翌年、グベリンはブロックチェーンを開業し、グベリン傘下となるグベリン ジェムラボ(Gübelin Gem Lab)を子会社として設立した。

SSEFは、インドネシアのチレボン難破船で見つかった歴史的な真珠の放射性炭素年代測定を実行した。
3. 宝石の年代測定

SSEFは、チューリッヒ工科大学のイオンビーム物理学研究所と共同で、真珠、サンゴ、象牙などの生物起源の宝石の放射性炭素年代測定を研究し、2017年初頭に真珠をはじめとする業界全体に年代測定サービスの提供を開始した。

放射性炭素分析を実行するために、同ラボは真珠、珊瑚、または象牙から微量(約0.02カラット)を抽出する準非破壊法を開発した。

SSEFによると、主な目的は、宝石の歴史的起源に関する科学的情報を取引現場に提供するだという。

SSEFでは、色石の表面近くに適切な介在物が存在する場合、それらの宝石の年代を測定することもできる。これは、さまざまな地質学的年代中に宝石が形成されているので、起源の特定を助けるものになると考えている。

4. 種の特定技術が一歩前進する

SSEFは、真珠、最近では象牙や珊瑚など、生物起源の宝石のDNAフィンガープリントと種の特定に関する研究を主導してきた。

チューリッヒ大学の法医学研究所と共同で行われた研究の結果、わずか0.0115カラットの真珠、象牙、または貴重なサンゴから回収された微量のDNAを使用して、特許取得済の種の特定方法を確立した。

SSEFによると、リサーチによって確立されたその手法は、国際貿易条約によって保護されている絶滅危惧種の野生動物相と植物相の種をそうでない種から分離することにより、これらの生物起源の宝石の詐欺や違法取引に対処するのに有効だという。

2019年にSSEFが象牙からDNAフィンガープリントサービスを提供し始めたとき、それは同時に宝石を種に関連した地理的起源にまで遡ることを可能にし、歴史的なジュエリーの出所に関する重要な情報につながった。

SSEFは現在、より小さなサンプルからより低コストで多くのDNA配列をスクリーニングできる新しい技術のDNA研究に注力していると述べている。

5. パパラチアのような不安定なファンシーサファイアのテスト

2016年後半、マダガスカルの新しいコランダム鉱床は、業界でパパラチアと呼ばれる微妙なピンキッシュオレンジを含む、さまざまな色のサファイアの生産を開始した。しかし、これらの石のいくつかは、時間の経過とともに明確な色の変化を示し、日光にさらされてから数週間でピンキッシュオレンジから単なるピンクに変化する。

SSEFは物質の色の安定性をテストし、UV光にすばやくさらした後に元の色が復元できることを発見した。これは、これらの石の安定した色が、クロムの存在に関連するピンクの色合いであることを意味している。

不安定な色相は黄色で、これは色を生成する可能性のある結晶構造の欠陥である不安定なカラーセンターが原因である。上記のカラーセンターが活性化されたときにオレンジからピンキッシュオレンジの色合へ変化したとSSEFは2018年にその調査結果を報告している。

SSEFによると、マダガスカルの宝石の一部は「非常に顕著な色の変化」を示しており、消費者への具体的な開示が必要になると述べる。

SSEFは、クライアントの同意を得て、パパラチアおよびパパラチアのようなサファイアの退色テストを実施し、レポートのコメントセクションで色の安定性を開示すると述べた。同社はまた、この宝石を「パパラチア」と呼ぶのではなく、色が不安定なため「ファンシーサファイア」と呼ぶことを選択した。

その調査報告結果により、ヨーロッパ、米国、アジアの7つのラボの代表者で構成されるラボマニュアル調和委員会は、「パパラチア」という用語を不安定な色の宝石には適用できないことに同意した。

マダガスカルの新しい鉱床からのいくつかのパパラチアのようなサファイアは色が変わり、SSEFは宝石とその安定性をテストするようになった。

この地域をさらに研究するために、American Gemological Laboratoriesは、不安定な色、特にピンク、パパラチアのような、オレンジ、黄色を示すコランダムに関するデータの収集に時間を費やした。

同ラボによる2019年初頭の結果では、非加熱サファイアと比較的低温で加熱されたサファイアの両方でこのような色の変化が起こる可能性があると述べている。しかし最終的な調査では、高温での加熱の兆候がはっきりしている5つのサファイアでのテストでも色の変化を示したと述べた。

「不安定なカラーセンターが、比較的低温、また現在では比較的高温で加熱されたサファイアに存在する可能性があるという最近の研究は、ピンクからパパラチア、オレンジ、イエロー、そして無色からほぼ無色まで、非加熱または加熱に関係なく、色の安定性をテストする必要がある。」とAmerican Gemological Laboratoriesは2019年のジャーナルオブジェモロジーの記事で述べている。

6. 圧力処理されたサファイアに関する研究の最新情報

高温中圧で加熱処理されたサファイアには安定性の問題があるとの主張が2018年と2019年に発生し、その結果、世界中の12のラボと組織の間で共同研究プロジェクトと広範な議論が行われた。

この共同研究は、素材をテストしそれがどのように特徴付けられたかを判断し、安定性の主張を確認し、処理に特定の開示が必要かどうかを判断することを目的としている。

2019年初頭に発表されたこの調査結果は、次のようなものだった。
-高温でのみ加熱されたサファイアと比較した場合、この処理によって透明度が大幅に向上することはない。
-ほとんどの場合、処理を検出するための明らかな微視的特徴はなく、それを検出するための特定のUV反​​応や微量元素もなかった。
-この研究では、圧力で加熱されたサファイアのもろさに関しての主張を立証することはできていない。
-共同研究では、処理が個別の開示を保証しないことを発見したが、プロセスをよりよく理解するためにさらなる研究が必要であると述べた。

7. バーチャルインクルージョンデータベース

インクルージョンの写真撮影自体は決して新しいものではないが、タイ・バンコクを拠点とするロータスジェモロジーによる2019年のハイペリオンデータベースの立ち上げは、そのような画像へのアクセスを可能にし、そして恐らくより重要な事柄を検索可能にするための明確な一歩となった。

ジェモロジストであるビリーヒューズが、自身のキャリアの早い段階で始めた、この観察したものを追跡するためのパーソナルリファレンスは、すべての人が使用できるバーチャルデータベースへと変化した。この無料のリファレンスは、過去数年で約1,500枚の写真を含むようになっている。

これにより、ユーザーは写真を閲覧でき、その写真に関する多くの情報も知ることができる。検索機能とキーワード機能により、さまざまな起源、処理、または特定の内包物タイプを持つ宝石間の違いなど、貴重な比較も可能にしている。

ロータスがデータベースを最新の状態に保つことで、市場の状態を追跡したい人々にとっての貴重でタイムリーな参照データともなっている。

ジョンコイヴライトは、ミャンマーのモゴック渓谷で1.16ctの結晶が発見された後、2019年に新しい鉱物種として確認された。偏光で観察する、左の写真のほぼ無色から右の写真のバイオレットのように変化する強い多色性を示す。
8. ベリル属の新しい鉱物が発見される

GIA(米国宝石学会)の研究者とカリフォルニア工科大学の科学者は、2019年9月に新しい鉱物種を確認したと発表した。

宝石学者のNay Myoは、ミャンマーのモゴック渓谷で1.16カラットの結晶を発見した。

この鉱物は新しい鉱物種として国際鉱物学会に承認され、ベリルやペツォッタイトのようなベリル属の他の鉱物に似た六角形の結晶構造を持っているとGIAは述べた。

化学分析によりベリル属に属することが確認されたが、標準的な宝石学的検査では次のことが確認された。複屈折量は小さすぎたため正確に測定できていない。SGは3.01、硬度は7.5であり、貝殻状断口およびガラス状の光沢を示し、長波または短波のUVのいずれにも反応を示さなかった。また、偏光で観察すると、深いバイオレットからほぼ無色となる強い多色性を示す。

この新しい鉱物は、GIAの研究者であるジョン・コイヴラにちなんでjohnkoivulaite(ジョンコイヴライト)と命名された。

9. オイリング、フィリングについての注意喚起

業界のほとんどの人々は、宝石の亀裂の外観を改善し、透明度を向上させるために、エメラルドに油や樹脂が充填されているものが多くあることを認識しており、これは一般的でよく知られた処理プロセスだ。

しかし、ロータスジェモロジーは、過去5年以上で、エメラルドだけでなく他のジェムストーンに同様の処理が増加していることに気付いたと報告している。

この問題は、これらオイルや樹脂の充填そのものではなく、この処理が宝石の外観に大きな影響を与えるにもかかわらず、多くの場合、情報を開示していないことだとロータスは述べている。

ロータスは、この処理が他の宝石にも存在することを周知させることで、業界の人間が騙されないよう、またそれに注意するようにしたいと考えている。ロータスはこのトピックに関するいくつかの記事を書き、オイル充填や樹脂充填がどれほど大きな違いを生むかを示す高解像度の画像を提供している。

左 : オイルフィリングされた大きなタンザナイト。右 : オイルを取り除いた後のタンザナイト。(Chanon Yimkeativong / Lotus Gemology)
10. マダガスカルピンクサファイア

色や透明度を改善するためにコランダムを熱処理することは、1世紀以上前から行われている。

高温で加熱するとほとんどの内包物が損傷するので熱処理を検出しやすいが、比較的低温で加熱すると内包物はわずかに変化するだけに留まり、処理を検出するためには高度な機器によるテストが必要となる。

重要な産地であるマダガスカルのピンクサファイアは定期的に低温熱処理を受けているため、GIAはマダガスカル南西部の小さな町イラカカの14例を調査し、処理の検出に使用できる基準を開発した。

GIAの2020年冬号のGems&Gemologyで報告されている通り、この調査から得られた重要な調査結果は次のとおり。
-マダガスカルの多くのピンク色のサファイアに見られる微妙な青い色合いは、800°C(1472°F)での熱処理によって軽減または除去することが可能。
–FTIR分光法は、処理を検出するために不可欠。
-素材のモナズ石結晶の含有物は、低温で加熱した後、オレンジブラウンからほぼ無色に変化した。
-ラマン分光法は、低温加熱中のモナズ石内包物のアニーリング(熱処理)を検出できる。

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