ロシア・ウクライナ間の戦争の勃発により、米国や欧州はロシア産のダイヤモンドへ制裁を課し続けてきている。一方で世界的なダイヤモンド生産ハブであるインドでは、ロシア産ダイヤモンド原石の供給欠如が工場稼働率に大きな影響を及ぼすなど厳しい状況を強いられてきた。ロシアは世界のダイヤモンド生産の3割を担い、特に小サイズ、比較的カラーの良いダイヤモンド原石供給の世界50%以上のシェアを持っていたため、ロシア産原石の欠如は特に今年年末以降の世界のポリッシュダイヤモンド在庫に大きな影響を与えると見られていた。
このような状況の中、2022年8月23日にブルームバーグは「制裁による混乱後、ロシア産ダイヤモンドは再び静かに流通している」と題した記事を掲載した。
記事のポイントは以下の通り。
- 制裁による数ヶ月の停滞を経て、ロシア最大のダイヤモンド鉱山アルロサは、現在では月間2.5億ドル以上のダイヤモンドを販売している。これは制裁前の水準を5千万ドルから1億ドル下回る金額。
- これはインドの銀行が米ドル以外の方法でのロシアへの支払いオプションを提供しているためで、インドへのロシア産ダイヤモンドの販売が再開されている。
- この販売自体は制裁や法律に違反してはいないが、ロシア商品を扱うことへの懸念が広く存在するので、元々秘密主義のダイヤモンド業界でさえ更に静かに取引されている。アルロサは販売データの公開を停止しており、スポークスマンはコメントに応じていない。
このような状況の中、シグネット・ジュエラーズ、ティファニーなどのブランドではロシア産ダイヤモンドの拒否を掲げている。また、ロシア産ダイヤモンドは紛争ダイヤモンドに該当するのかとの議論も引き続き存在している。しかし、実際に流通の末端に位置する小売店でロシア産のダイヤモンドの流入を完全に阻止することは極めて難しい。その理由には以下のようなものがある。
- 現状のダイヤモンド トレーサビリティは0.75ct以上の原石(ポリッシュダイヤモンドとして0.25ct前後)を対象としているものが多く、それ以下のサイズの石を個々に広範囲にカバーすることは困難。
- 業界の性質上、ダイヤモンドは多くの取引業者やメーカーの間で複雑に流通し、最終的に宝石店のディスプレイウィンドウにたどり着くので、特定の石を追跡するのには困難が伴う。
- ダイヤモンド生産の中流を維持するためには大量の小サイズのダイヤモンド原石が必要であり、この構造を短期的、中期的に変更することが難しい。
上記を総合的に判断すると、ダイヤモンド供給への圧力は徐々に緩和されて行くことが予想され、直近のインドのダイヤモンド原石輸入データからもその状況が見てとれる。
アルロサはロシア連邦政府がその33%を所有し、25%は地方自治体が所有している。同社はアングロアメリカが所有するデビアスとの世界的な競合相手であり、両社は通常、毎年ほぼ同じ量のダイヤモンドを市場に供給している。
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