ロシアのダイヤモンド鉱山、アルロサは現在ではデビアスと双璧を成す巨大ダイヤモンド原石サプライヤーだ。ロシアに経済制裁が課されるにつれ、ダイヤモンドサプライチェーンにも影響が広がっている。
いくつかのカテゴリーでダイヤモンドの価格が急騰しているが、特にメレサイズと呼ばれる小さいサイズのダイヤモンドの価格が高騰しており、3月初頭から現在までに約20%も上昇している。
メレサイズダイヤモンドとはフランス語の「Melee(小粒石)」に由来する名前の通り、極小サイズのダイヤモンドを指しており、一般的には0.10ct(直径約3.00mm)未満のものを総称してメレサイズと呼ぶ。
アルロサは現在世界のダイヤモンド生産の約1/3を担っており、特にメレサイズダイヤモンドの素材に適した原石も多く産出することで知られる。そうした原石からカットされたメレサイズダイヤモンドはメインのダイヤモンドの周りを装飾するように使用されたり、パヴェデザインのようなジュエリーや、低価格帯のジュエリーなどに大量に使用されている。
一方、このカテゴリーのダイヤモンドに適したダイヤモンド原石の産出はもう一方の巨大サプライヤーであるデビアスでは相対的に少ない。また、かつてデビアスは膨大な在庫をストックしており世界全体での供給がショートした場合に在庫から供給を増やすことができたが、現在の状況はそうではない。
20年以上前にデビアスはロンドンに50億ドルほどのダイヤモンド原石在庫を保管していたが、現在では必要な量の在庫のみ保有しており、一方で鉱山は既にフル稼働している。加えて南アフリカの鉱山拡張が完了する2024年まで供給が増加する可能性はほとんどないとデビアスは語っている。また、アルロサにより欠乏する30%の供給を補うことは難しいと述べた。
アルロサは4月の原石供給をキャンセルしており、5月も供給の可能性は低い。このカテゴリーにとって、回避策が見つからない限り供給不足が続くことは避けられない。
この問題はダイヤモンド業界にとって2つの課題を引き起こしていると考えられる。
一つは、ダイヤモンドサプライチェーンで中流に位置する研磨国、主にインドの立ち位置と戦略だ。
原石の高騰に従って完成品である研磨済ダイヤモンドの価格を引き上げれば、下流の小売市場の動きが鈍化する可能性がある。逆に原石の仕入れを減らせば大量のダイヤモンドカット職人の雇用を維持することが難しくなる。ダイヤモンドサプライチェーンの中流では大きなジレンマを抱えることになりそうだ。
もう一つはトレーサビリティの問題だ。
西側諸国がロシアに制裁を課しロシア産ダイヤモンドの輸入を規制する中、インドではロシア産ダイヤモンドの輸入に特に規制を課していない。米国のティファニーやSignet Jewellers、Brilliant Earthなどはロシア産原石からカットされたダイヤモンドの購入を中止する声明を出し、サプライヤーにもその保証を求めているが、他国を含め全ての小売店がそれに追随しているわけではない。この事は、ロシア産ダイヤモンドが(産地を伏せて)流通するのではないかという懸念に結びついている。多くのダイヤモンドは原石からカット、研磨、ジュエリー加工され取引されるプロセス全体を通して混合さることが普通で、これがダイヤモンドの原産地証明を困難にしている。(ダイヤモンドの場合、一般的に輸出入書類には研磨された場所が記載される。)
この状況はダイヤモンドの取引透明性の課題を過去以上に引き起こすことになるだろう。
いずれにしても、メレサイズダイヤモンドは日本でも多くのジュエリーに使用されており、ロシア制裁に起因する価格の急騰は今後の国内ジュエリーのコストや価格に大きな影響を与えることが予想される。
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