
中国大手ジュエリーブランドである周大福(Chow Tai Fook)が、初の試みとしてペット専用ジュエリーを発表した。これは同社がペット業界へ本格的に進出し、ペット消費分野に参入することを示している。
「人とペットの共生」をテーマに、専用ジュエリーを展開
周大福は、ペットと飼い主のためにデザインされたジュエリーシリーズをリリースした。同シリーズは、ペットへの愛情とジュエリーの美学を融合させたものであり、同社の新たな分野へのチャレンジだと言える。
デザインに関しては、猫や犬(コーギー、フレンチブルドッグ、トイプードル、ペルシャ猫など)をインスピレーションの核とし、立体的な造形でペット特有の愛らしさや気品を生き生きと表現。日常のエレメント(骨型、缶詰、魚型トイなど)が取り入れられ、商品としての生活感や遊び心も演出されている。
飼い主とペットの“ペアコーデ”も意識されており、ペット用(チャームやリードに着脱可能なアイテム)と飼い主用(ブレスレット、ペンダント)がセットで展開される。ペアで身に着けることで「双方向の寄り添い」という特別な儀式感を演出できる。DIYにも対応しており、飼い主が自らブレスレットやペット用首輪と組み合わせることも可能だ。
工芸面では、周大福独自の特許技術“硬金工芸”を採用。純度を保ちながら耐摩耗性を高め、ペットが身に着けても安全かつ、ペットの動きが映えるディテールとなった。以前、同社はMCMとのコラボで流行モチーフのジュエリーを出していたが、今回は“ペット消費”市場を本格的に意識した初の自社プロジェクトとなる。

ペット産業への各業界大手の参入相次ぐ
2024年の中国都市部ペット消費市場は、3,002億元(約6兆円超)に到達し、前年比7.5%の成長を記録した。内訳は、犬一匹あたりの年間消費が約2,961元、猫が約2,020元と増加傾向を見せる。マーケットの約53%をペットフード、28%をペット医療、用品やサービス分野が合わせて19.2%を占める。特にサービスやグッズ分野の成長率が目立ち、今後も新規参入企業の活躍が期待される。
消費者層は、90年代生まれが41.2%で最も多く、2000年代生まれも25.6%に達しており、若年層シフトが急速に進む。ペット消費が“第二のベビー・マザー市場”とまで称される背景である。
このトレンドを受け、中国ではペットビジネスが加速している。食品業界の“三只松鼠”や“巴比食品”はペットフード分野へ進出、百貨・サービス業の“名創優品”や新興ティーブランド“霸王茶姬”はペット体験ゾーンや交流スペースを企画、医薬品業界やアプライアンスメーカーまでもが続々とペットニーズに応える新規事業を展開している。

日本市場の展望
日本のペット産業も、2022年時点で約1.7兆円規模。今後も飼育頭数や、ペットサービス(医療、健康、トリミング、旅行、保険等)、嗜好性グッズを含め、他業界からの参入余地は十分あるだろう。ジュエリー市場は2022年で約1兆円規模とされており、今後は“人とペットの共生”時代に即した高付加価値商品の開発・マーケティング分野に可能性が見出せるかもしれない。
日本でも「ペットの家族化」は共通のトレンドであり、ペットの健康や生活の質(QOL)向上への関心は高い。ペットとの絆を記念するメモリアル商品や、愛情を表現するギフトとしてのジュエリー需要は、まだ開拓の余地が大きいブルーオーシャンと言えるだろう。
周大福の事例は、ジュエリーが持つ「想いを形にする」という本質的な価値を、ペットという新たな対象に向けることで、新しい顧客層と需要を創出できる可能性を示している。記念日や誕生日といった従来のジュエリー需要とペットへの愛情を結びつける商品開発は、市場が成熟しつつある日本のジュエリー業界にとって、新たな成長の突破口となりうるのではないか。
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