
ヒューストンでジュエリーショップを経営する24歳のスレーター・ジョーンズは、右眼に2カラットの天然ダイヤモンドを埋め込んでいる。街を歩けば人々の視線を感じるが、彼自身は「とても快適で、時々自分でも忘れてしまう」と語る。彼にとってそれは奇抜な装飾ではなく、人生の象徴だという。
少年院で失われた視力と希望
17歳のとき、ジョーンズはアラバマ州の少年矯正施設で生活していた。彼は当時を振り返り「愚かな子どもだった」と語る。右眼の視力が低下し始めたが、診察を受けるまでに時間がかかり、最終的にトキソプラズマ症による網膜感染と診断された。緊急手術によって網膜の約75%が損傷し、その後10人の医師にかかり、5度の手術を受けたが回復は叶わなかった。医師は眼を摘出し、義眼を装着するしかないと告げた。彼の人生はここから一変する。
ジュエリーとの出会い
義眼を手にした頃、ジョーンズは金銭的に困窮し、友人宅で暮らしていた。そんな中で彼はYouTubeを見ながら独学でジュエリー製作を始める。近所の小さなジュエリー店に飛び込み、自作の作品を見せながら「学ばせてほしい」と頼み込んだが、最初は断られた。それでも彼は諦めず、コーヒーとドーナツを差し入れし、「見るだけでいいから」と懇願した。以来、店に通い詰め、寝泊まりするようにして技術を学び取った。
やがてヒューストンへ移り、独立を果たす直前に恩師が彼に一つの宝石を手渡した。「このダイヤモンドは、いつか誰かにプロポーズするときに使うといい」と。その石こそが後に、彼の人生を象徴する“右眼のダイヤモンド”となる。
義眼に宿る輝き
数年後、友人が「お前はジュエラーで、ダイヤモンドを持っていて、義眼をつけている。組み合わせたら面白い」と冗談を言った。ジョーンズはその言葉を本気にし、義眼技師ジョン・イムに相談した。当初、イムは「これほど大きな石を義眼に使うのは無理だ」と懸念したが、試行錯誤の末、ダイヤモンドを埋め込んだ特製義眼が完成した。厚みは通常の義眼の約2倍。制作には時間を要したが、ジョーンズは「ただカッコいいことをしたかった」と笑う。

世界が注目した“ダイヤモンド・アイ”
完成した義眼が公開されると、瞬く間にSNSで拡散された。友人が投稿した写真は数百万回以上閲覧され、子どもたちから「写真を撮りたい」と声をかけられるようになった。英紙『デイリー・メール』は「リアルなボンド悪役」と評したが、ジョーンズ本人は「何を言われても気にしない。むしろ自分の人生の証だ」と語る。
ジュエリーの定義の変革
この出来事は、単なる奇抜な行動として片づけられるものではない。ジュエリーが“装飾”を超え、“物語”と一体化する象徴的な事例である。ジョーンズにとってダイヤモンドは単なる宝石ではなく、自らの再生と創造の証であり、見る者に“生きる強さ”を伝えるメッセージでもある。
義眼という身体の一部に宝石を組み込むという行為は、ファッションやアートの域を越え、ジュエリーの意味そのものを再定義している。ジュエリーが「身につけるもの」から「自分そのもの」へと変化する時代に、彼の“ダイヤモンド・アイ”はその最前線に立っている。



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