ラパポートはダイヤモンド業界の「ピープル・オブ・ザ・イヤー」を発表。これは業界に影響を与える幅広い課題といくつかの解決策を反映している。
市場が低迷しつつあるという兆候が現れ始めたのは、まだ2022年後半だった。ディーラーや小売業者は2021年の記録的な売上と比較して、ホリデーシーズンの売上が低迷していると報告した。マスターカードは、2022年11月1日から12月24日までのジュエリー販売が前年比5.4%減少したと推定した。
2023年初頭、1月の小売店の在庫補充仕入れは例年よりも鈍化しており、製造業者はそれに応じてダイヤモンドの生産を制限した。時が経つにつれて、この業界が危機に瀕していることが明らかになった。またラボグロウンダイヤモンドは業界の一部の人々が予想していたよりも早く人気を博した。2023年、米国の消費者心理は停滞し、期待されていた中国市場の回復は起こらなかった。
ダイヤモンド業界はこの景気後退に対処するための措置を講じた。また同時に、デビアスのボツワナとの新しい取引やロシアのダイヤモンドの制裁など、他の出来事がダイヤモンド業界の不確実性を更に高めた。
ピープル・オブ・ザ・イヤー
ラパポートが発表したこの「ピープル・オブ・ザ・イヤー」はこれらの現実を反映している。一部は、業界の深刻な問題の解決に直接関与していた。たとえば、インドのダイヤモンド原石の凍結を促進したり、小売戦略を状況に適応させる方法を見つけたりしている。そのうちの1つは天然ダイヤモンド部門の状況を悪化させた。
ラパポートによると、このリストは必ずしも個人が業界に対して積極的に貢献したということではなく、ダイヤモンド業界へ与えた影響力や存在感を反映している。また今回は1人だけではなく複数人が選出されている。
ジーナ・ドロソス – シグネット ジュエラーズ CEO
シグネット ジュエラーズのCEOとなって6年目となるジーナ・ドロソスは、ダイヤモンド小売業界の思想的リーダーであると同時に、スマートな戦略家だ。彼女は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによるデートの減少が今年の婚約低迷の主な理由の1つであると主張した最初のひとりだ。
ドロソスは、ケイジュエラーズ、ゼールズ、ジャレッドを含むグループの店舗ブランドを、衰退しつつあるモールチェーンからモダンな小売ロケーションに変えることに成功した。しかし最近は困難に直面していた。10月28日に終了した同社の第3四半期の売上高は前年同期比10%減の46.7億ドルとなった。しかしドロソスはシグネットはブライダル需要の「複数年にわたる」回復の恩恵を受ける十分な立場にあると信じている。
ドロソスはシグネットの決算後の投資家との電話会議をダイヤモンドとジュエリーの市場に関する洞察を聞くのに有意義な1時間に変えることに成功した。今年、彼女は同社が45の「リレーションシップ・マイルストーン」を使用してエンゲージメント率を予測し、それに応じて在庫を調整した方法を説明した。
フェリエル・ゼロキ – ワールド ダイヤモンド カウンシル(WDC)会長
ワールド ダイヤモンド カウンシル(WDC)の会長とデビアスの企業担当上級副社長の両方を務めるのは決して簡単なことではない。フェリエル・ゼロキとWDCは、文書と監査を利用してロシアのダイヤモンドに対するG7による制裁実施の提案を監督した。この計画はG7ダイヤモンド・プロトコルとして知られるようになった。デビアスの主なライバルであるロシアの鉱山会社であるアルロサの市場アクセスを減らすことにデビアスが商業的利益を持っていることを考えると、これら2つの役割を遂行するのは非常に厄介だと推測できる。この議定書は、他の計画と同様に、零細鉱山企業への潜在的な影響についての批判にも直面した。
政府や業界がロシア産ダイヤモンドを市場から締め出すためにこの議定書やその要素を利用するかどうかはまだわからない。しかし、ゼロキは今年業界で最も重要な人物の1人だ。
ヴィプル・シャー – 宝石宝飾輸出促進評議会(GJEPC)会長
GJEPC は、業界の代表者とオンラインフォーラムを毎月開催し、傾向や課題について話し合う。今年9月、小売売上高の低迷と供給過剰の中でポリッシュダイヤモンドの価格が下落する中、このインドの貿易団体はより広範に物理的な集会が必要な状況であると判断した。出席者は満場一致で、在庫が制御不能になるのを防ぐためにインドはダイヤモンド原石の輸入を自主的に一時停止する必要があるという結論に達した。業界はこの凍結を10月15日から12月15日までの2か月間実施し、業界へのプレッシャーを取り除き、市場を安定させることができた。
GJEPCの内部関係者らは、これは輸入一時停止を求める業界全体の呼びかけであり、同国は過去の危機でも同様の措置を講じてきたと述べた。しかし人々を結集し、プロセスを管理したのはGJEPCであり、その先頭に立ったのが会長のヴィプル・シャーだった。
モクウィーツィ・マシシ – ボツワナ大統領
モクウィーツィ・マシシ大統領による、自国の国民のためにより良いダイヤモンド取引を推進しようとした取り組みは、2023年の最も記憶に残る物語の1つだ。
ボツワナ政府とデビアスは6月30日の期限直前に暫定合意に達したが、これは両当事者間の緊張感が最高潮に達したと思われた直後に実現した。メディアでの様々な憶測が続く中、ある時点で双方は公開討論に参加しないことを約束した。また別の機会には、ボツワナ政府がデビアスへ大きいサイズのダイヤモンド原石販売をやめようとしたとの報道に反論する必要があった。
2024年にボツワナの総選挙が控えているという事実は関連性がある。大統領によるダイヤモンドの利益の分配拡大を求める最も過激な要求の一部は政治集会で行われたもので、その中には取引条件が十分改善されなければデビアスと手を切ると脅したと伝えられた内容も含まれていた。
この協定は最終的なものではないが、ボツワナ国有企業であるオカバンゴダイヤモンド会社(ODC)が同国のダイヤモンド原石のより多くの部分を提供し、10年間でそのシェアを現在の25%から最大50%まで高めることを約束している。これらの条件を確保することはボツワナとマシシ大統領にとって勝利であり、生産国とその資源から利益を得ている企業との関係の変化の表れでもあった。
ガビ・トルコフスキー – ベルギーのダイヤモンドカッター
ガブリエル “ガビ”・トルコフスキー卿(ベルギー王国より騎士の称号を与えられているため”卿”と表記)は、2023 年に達成したことではなく、それ以前に達成したことを理由にこのリストに名前が載せられた。歴史上最も有名なダイヤモンドカッターの一人として名声を得たガビ・トルコフスキー卿が今年5月に亡くなり、業界は大いに悼んだ。
ガビ・トルコフスキー卿は、「他のごく少数の人と同様、ダイヤモンドの素晴らしさを理解した先駆者であり、熟練した職人でした」とデビアス社は述べた。彼はそこで20年間働いていており、そのキャリアの中で273.85ctsのセンテナリー・ダイヤモンドをカットしたことで知られている。
有名なダイヤモンド一族の一人であるガビ・トルコフスキー卿は、石に「ロマンス」を与える能力で知られていた。
ナレンドラ・モディ – インド首相
ナレンドラ・モディ首相は、2023 年に宝飾業界と多くの接点を持った。同氏は12月にスーラトダイヤモンド取引所を開設した。同氏はまた、ラボグロウンダイヤモンドを「グリーンダイヤモンド」と呼んで人々を驚かせた。
しかし、彼の最も重要な行動は、インド独立75周年を象徴する6月の国賓訪問中に、米国大統領夫人であるジル・バイデンに7.5ctsのラボグロウンダイヤモンドを贈ったことだ。インドの商工大臣ピユシュ・ゴヤルはツイートでこの石を「環境に優しい」と誇らしげに言及した。この石の生産者であるスーラトに本拠を置くグリーンラボ社は、太陽エネルギーと風力エネルギーのみを生産に使用しているという。
米国の消費者市場におけるラボグロウンダイヤモンドの台頭と、それに伴う天然ダイヤモンドの需要への影響は、2023年のダイヤモンド業界最大のテーマの1つだった。モディ首相は、長年のマーケティング活動よりも多くの影響があることを、言葉を使わずに行ったのかもしれない。
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