ロシア産ダイヤモンドへの制裁 – ポイントと考察

EUがロシア産のダイヤモンドへの制裁を表明するずっと前から、特にジュエリー関連の国際メディアはこの状況について多くの議論を行っていた。インド側にはかつて2つの異なる意見が存在していた。制裁反対派は「制裁はインドのダイヤモンド産業に大きなダメージを与える」と主張し、制裁支持派は「この制裁によるインドへの影響は微々たるものだ」と主張していた。WFDB(世界ダイヤモンド取引所連盟)は原則的にこの制裁を支持するが、技術的にこれをどう保障するか、そして「シングル・エントリーポイント」を作る必要があるかどうかについては議論の余地があるとしている。(シングル・エントリーポイントとは、ダイヤモンド原石の取引を1箇所に集中させ管理する計画で、現在それはベルギーのアントワープを想定している)

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制裁の詳細

2023年12月18日、欧州委員会は制裁の詳細を発表した。

  1. G7は2024年1月1日から「ロシアで採掘、加工、または生産された非工業ダイヤモンド」の直接輸入を禁止する。G7による制裁政策の一部として、EU側はそれに合わせるだろう。これは、この時期からロシアが(世界的なダイヤモンド原石取引ハブの一つである)ベルギー・アントワープに直接ダイヤモンドを販売できないことを意味する。
  2. 2024年3月1日から「ロシアで採掘され、他の国で加工された」ダイヤモンドの輸入を禁止する。以前はこのような第三国で加工されたダイヤモンドは制裁から免除されていたが、今後は対処になる。これは、ロシアのダイヤモンド原石がインドで「加工・研磨」されたものも、G7メンバーの市場に入ることができないことを意味する。(注:EUの説明によると、3月から開始される制裁は1ctを超えるルースダイヤモンドに適用され、9月からはこの対象が0.5ct以上になるという。)
  3. 2024年9月1日から、この制裁はロシアで生産されたダイヤモンド、ジュエリー、ダイヤモンドを使用した時計、ラボグロウンダイヤモンドに拡大される。
  4. 上記の制裁を実行するため、G7グループ内部に「トレーサビリティに基づいた検証と認証メカニズム」を確立し、輸入業者は「ダイヤモンドがロシアで採掘、加工、生産されていないことを証明する」必要がある。しかし、現在この声明ではどのような認証が認められるかが具体的に説明されていない。

業界の反応

国際メディアの報道から、業界の人々が「時計にまで対象が拡大される」という決定に驚いていることが見受けられる。例えば、米国のジュエラーズ警戒委員会(JVC)の法律顧問のサラ・ヨードはインタビューで、禁止自体は受け入れられるが、ジュエリーや時計にセットされたダイヤモンドにサイズ制限があるかどうかは不明だと述べた。

また、ダイヤモンド流通の中流の核心国であるインドは、この業界は「多様性」に満ちているため、制裁行為がもっと柔軟であるべきだと主張している。GJEPCのヴィプル・シャー会長は声明で、同団体は「発表された制限措置実施のスケジュールに満足していない」と述べた。

上記の4番目の点、すなわち「認証メカニズム」の確立と、EUとG7が考慮している「シングル・エントリーポイント」の方法について、これがサプライチェーンのコストの上昇を引き起こし、天然ダイヤモンド産業にネガティブな影響を与えるとして、WFDBは疑問を呈している。「それが実施されれば、G7のマーケットでダイヤモンドを販売したい企業は、G7内に事務所を開設する必要が出てくるだろう。」「対照的に、他のダイヤモンド取引所は独自に検査し、登録することが許可されるべきだ。」とWFDBは主張する。

また、ラパポートも同じような考えを表明したことがあり、マーティン・ラパポート自身も公の場でこの認証メカニズムが中小企業に不利だと語っている。

ロシアの態度

ロシアはこうした制裁に対して「EUの最新制裁を難なく回避する」と強硬な姿勢で応じた。

ロシアのアントン・シルアノフ財務大臣は外遊中に「販売を他の地域に移転すればいいだけだ。これは制裁を課している国に何の利益ももたらさないと確信している」と語った。

ロシア外務省は、これが「非友好的かつ違法な制裁」であり、「ロシア経済を孤立させる試みは無惨に失敗するだろう」とさえ信じている。世界のダイヤモンド生産量の30%を占める国として、このような声明は確かに自信に満ちたものを感じさせる。

アナリストの意見

ラパポートを退職して独立したアナリストとして活躍するアヴィ・クラウィッツは、今年最初の9か月の実績から分析するとロシアからベルギーへのダイヤモンド輸出量は確かに大幅に減少(-76%)したが、インドへの輸出量は基本的に前年同期と同じだったと考えている。

したがって、禁止措置の実施後、ベルギーはロシアからのダイヤモンドの輸入をさらに減らす(あるいは中止する)可能性があるが、インドはロシアのダイヤモンドに依存し続ける可能性が高く、また最近開設されたスーラトダイヤモンド取引所がこれに何らかの役割を果たす可能性がある。

ダイヤモンドルースが最終的にヨーロッパと米国の市場に混合販売されるかどうか、また輸入業者がそれを見て見ぬふりをするかどうかは定かではない。

また、誰かがコメント欄でドバイの状況についてアヴィに質問したが、アヴィは具体的なデータは知らないと答えた。ドバイは常に中立的な立場にあり、世界中のさまざまなダイヤモンド取引市場と繋がっているが、「世界一になる」というアフメド・ビン・スライエムの野心と相まって、彼らがロシアのダイヤモンドを諦めない可能性が高いと考えられる。

天然ダイヤモンドに対する倫理的汚点

国際メディアでは、ロシア産ダイヤモンドを制裁することは「天然ダイヤモンド産業に道徳的な汚点を残す」という見解も目にする。このような見解を表明している人のほとんどはメディア関係者だ(中にはロシアの人々もいる)。 彼らは、制裁が深刻な結果をもたらすと信じている。もしロシアのダイヤモンドが(ベルギーのデ・クルー首相が述べたように)本当に「ブラッド・ダイヤモンド」と定義されるなら、それは世界の天然ダイヤモンドの30%が非倫理的であることを意味すると彼らは主張する。

「倫理」や「持続可能な発展」を繰り返し強調する天然ダイヤモンド業界にとって、この制裁は諸刃の剣だという意見も散見される。また、この傾向が進んだ場合、ヨーロッパやアメリカは、ロシア産ダイヤモンドを現在受け入れている中立国(中国、インド、アラブ首長国連邦など)が非倫理的だと唱えることになるのだろうか。

天然ダイヤモンドに対する消費者の意識は現在大きな課題に直面している。

天然ダイヤモンド産業は、もともと人為的なコントロール力が強い産業で、これは100年以上変わっていない。上流の供給制限、中流の自発的な購入停止、NDCのような組織がいわゆる価値問題に対して繰り返し強調するようなことや、デビアスが2000万ドルを投じてマーケティングをすること、西洋諸国によるロシア産ダイヤモンドに対する制裁など、これらは全て人為的なコントロールが天然ダイヤモンド産業に持続的な強さを持っていることを反映している。

ロシアのダイヤモンドに対する制裁は、政治的属性が極めて強い行為だが、具体的な実施には多くの困難が伴う。制裁の政治的意義は商業的意義より大きいため、もしこれが強引に実行されれば業界に与える影響は大きくなるだろう。一方でダイヤモンド産業の道徳的問題はマーケティングの一部であり、市場の安定と拡大の必要条件でもある。

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