
価格下落の中で進む産業構造の転換
インドのラボグロウンダイヤモンド(LGD)産業が、新たなマイルストーンを迎えた。2026年3月と4月の両方で、インドから輸出された研磨済みラボグロウンダイヤモンドの数量が、天然の研磨済みダイヤモンド輸出数量を初めて上回った。
世界最大のダイヤモンド研磨拠点として知られるインドでは、天然ダイヤモンド産業の停滞が続く一方で、ラボグロウンダイヤモンドの生産能力拡大が急速に進んでいる。輸出額ベースでは依然として天然ダイヤモンドが圧倒的な規模を維持しているものの、数量ベースでの逆転は業界構造の変化を象徴する出来事といえる。
数量は急増、輸出額は伸び悩み
インド宝石宝飾輸出振興協議会(GJEPC)のデータによると、研磨済みラボグロウンダイヤモンドの輸出は3月に約130万カラット、4月に約140万カラットで、天然ダイヤモンドはそれぞれ120万カラットと130万カラットだったという。また2024~25年度のラボグロウンダイヤモンド輸出量は約1,529万カラットに達し、前年度の約781万カラットからほぼ倍増したとされる。一方、天然の研磨済みダイヤモンド輸出は世界的な需要低迷の影響を受け、数量面でも縮小傾向が続いている。
一方で、このラボグロウンダイヤモンドの数量拡大は必ずしも収益拡大を意味していない。
ラボグロウンダイヤモンド市場では過去数年間に急激な供給能力増強が進み、特に中国とインドでの生産拡大により価格が大幅に下落した。GJEPCによれば、2025/26年度の研磨済みラボグロウンダイヤモンド輸出額は11億3,000万ドルと前年比10.55%減少した一方で、輸出数量は増加しており、価格下落が続いていることを示している。
業界関係者の間では、過去2~3年間で主要サイズのラボグロウンダイヤモンド価格が50%以上下落したとの見方も広がっている。
天然ダイヤモンド産業は20年ぶり低水準
その一方で天然ダイヤモンド産業を取り巻く環境は厳しさを増している。
インドの2024/25年度の研磨済み天然ダイヤモンド輸出額は132億9,000万ドルとなり、前年から16.8%減少した。これは約20年ぶりの低水準であり、米国市場の需要減速、中国市場の消費低迷、高金利環境による高額商品の販売不振などが背景にある。
さらに、ロシア産原石に対するG7諸国の制裁やトレーサビリティ強化への対応コストも、天然ダイヤモンドサプライチェーンに追加的な負担を与えている。
インド格付会社ICRAも、天然ダイヤモンド輸出減少の要因として世界経済の減速に加え、ラボグロウンダイヤモンドとの競争激化を指摘している。
「石」から「ジュエリー」へ価値創造の軸が移行
興味深いのは、ルース輸出の伸び悩みとは対照的に、ラボグロウンダイヤモンドを使用したジュエリー輸出が大きく伸長している点だ。
GJEPCによれば、2025/26年度のラボグロウンダイヤモンドを使用したゴールドジュエリー輸出額は14億2,500万ドルとなり、前年比31.3%増加した。
これは今まで中心であったルース供給ビジネスから、デザインやブランド価値を付加した製品ビジネスへと産業の重心が移行しつつあることを示している。
近年の米国市場では、婚約指輪向けラボグロウンダイヤモンドの普及率上昇とともに、ファッションジュエリー用途も拡大している。従来であれば天然ダイヤモンドでは実現が難しかった大粒石や複数石を用いたデザインも容易になり、新たな商品カテゴリーを形成している。
インド国内でもラボグロウンダイヤモンドジュエリー市場の拡大が見込まれており、市場調査会社Future Market Insightsは、同市場が2026年の約4億5,000万ドルから2036年には約18億ドル規模へ成長すると予測している。
世界最大の加工拠点としてのインドの変化
インドは現在も世界の研磨済みダイヤモンドの90%以上を数量ベースで加工する世界最大のダイヤモンド加工拠点だ。
そのインドで、数量ベースながらラボグロウンダイヤモンドが天然ダイヤモンドを上回ったことは、単なる統計上の出来事ではなく、世界のダイヤモンド供給構造そのものが変化していることを示す象徴的な指標だ。
現時点で天然ダイヤモンド市場がラボグロウンダイヤモンド市場に取って代わられるという状況ではない。輸出額では天然ダイヤモンドが依然として10倍以上の規模を維持しており、高級宝飾品や資産価値を重視する市場では天然ダイヤモンドの優位性が続いている。
一方で、数量ベースではラボグロウンダイヤモンドが急速に存在感を高めており、インドの輸出統計は、世界のダイヤモンド産業が「希少性」と「供給能力」という二つの異なる価値軸を持つ市場へと再編されつつある現実を映し出している。



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