天然ダイヤモンド価格、下落局面続く 供給調整でも市場回復に時間、ラボグロウンの拡大も構造変化を促す

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天然ダイヤモンド価格が2022年の高値から大幅下落

天然ダイヤモンド市場の価格低迷が長期化している。8月、Diamond Standardが算出するDiamond Standard Commodity Index(DIAMINDX)が8月10日に2,490ドルとなり、同指数の過去最低水準に達したと海外メディアは報じた。7月には2,600~2,700ドル台で推移していたが、8月上旬に下落が加速したという。2022年の高値から見ると、同指数は大幅な調整局面に入っている。

DIAMINDXは、Diamond Standardが開発した天然ダイヤモンドのコモディティ価格指数で、Bloomberg TerminalやLSEGにも掲載されている。同社は天然ダイヤモンドを標準化された投資商品として扱う事業を展開しており、同指数はその市場価格を示す指標の一つだ。

ただし、DIAMINDXは天然ダイヤモンド市場全体の卸売価格をそのまま示す指数ではない点には注意が必要だ。ダイヤモンド価格はカラット、カラー、クラリティー、カットなどによって大きく異なり、市場動向を見る際にはRapaport Price Listなど他の価格指標や実際の取引価格と合わせて判断する必要がある。

デビアスも厳しい市場環境、親会社は分離・売却を進める

天然ダイヤモンド市場の厳しさは、世界最大級のダイヤモンド企業であるデビアスの事業環境にも表れている。

親会社アングロ・アメリカンは2026年7月に発表した上半期決算で、ダイヤモンド市場について引き続き厳しい環境にあるとの認識を示し、デビアスの売却プロセスを進めていることを明らかにした。同社は事業ポートフォリオを銅、鉄鉱石、肥料原料などに集中させる戦略を進めており、デビアスの分離はその一環である。

2026年第1四半期には、デビアスの連結ベースの原石平均実現価格が1カラット当たり101ドルとなり、前年同期比19%低下した。同社の平均原石価格指数も17%低下している。販売商品の構成に低価格帯が多かったことも平均価格を押し下げた。

一方で、デビアスは需要に合わせて生産量を調整する方針を継続している。2026年の生産ガイダンスは2,100万~2,600万カラットとしており、原石市場の状況を見ながら生産を需要に合わせるとしている。

現在の天然ダイヤモンド市場では、単純な供給過剰だけではなく、川中在庫、消費需要、価格に対する小売・卸企業の慎重姿勢などが複合的に作用していると考える必要がある。

供給削減だけでは価格を支え切れない状況

天然ダイヤモンド業界では、ここ数年にわたり主要生産者による供給調整が進められてきた。

海外メディアでは、世界の天然ダイヤモンド年間生産量が過去4年間で約1億2,000万カラットから約9,800万カラットへ減少し、約20%縮小したと報じている。

デビアス自身も市場環境に対応して生産計画を引き下げてきた。こうした対応は在庫増加や急激な価格下落を抑える効果が期待されるものの、価格が以前の水準まで回復するには至っていない。

背景には、特に中国を中心とした天然ダイヤモンド需要の弱さに加え、世界的な消費行動の変化、婚約指輪市場の変化、そしてラボグロウンダイヤモンドという新たなカテゴリーの急速な普及など、需要側の構造変化がある。

アングロ・アメリカンも2025年通期決算に関連する説明で、デビアスを取り巻く環境について、天然とラボグロウンの市場差別化が想定より時間を要していること、中国市場の需要低迷、供給増加などを要因として挙げている。

ラボグロウンダイヤモンドが価格体系に与える影響

ラボグロウンダイヤモンドは主としてHPHT(高温高圧)法またはCVD(化学気相成長)法によって製造されるダイヤモンドであり、天然ダイヤモンドと同じ炭素の結晶構造を持つ。一方、形成された環境と成長過程が異なるため、専門的な鑑別によって天然かラボグロウンかを判定することが可能だ。

米国連邦取引委員会(FTC)は2018年にJewelry Guidesを改定し、ダイヤモンドの定義から「natural」という限定を削除した。一方、ラボグロウンダイヤモンドを販売する際には、採掘された天然ダイヤモンドではないことが消費者に明確に伝わる表示が求められている。

現在、ラボグロウンダイヤモンドのルース価格は天然ダイヤモンドを大幅に下回っており、特に米国を中心としたブライダル市場では、大粒のダイヤモンドをより低価格で購入できる選択肢として定着してきた。

この価格差は、天然ダイヤモンドに対しても「同じ予算でどの程度の大きさや品質を購入できるのか」という比較を消費者にもたらしている。その意味でラボグロウンの普及は、天然ダイヤモンド市場に直接的な供給を追加しているというより、消費者の価格認識と商品選択を変化させることで天然ダイヤモンド市場に影響していると見る方が適切だろう。

中国ではラボグロウン産業が急速に拡大

中国では、ラボグロウンダイヤモンド産業の拡大が特に顕著だ。

河南省を中心にHPHTによるラボグロウンダイヤモンド産業の大規模な生産基盤が形成されており、近年は宝飾用途に加えて、半導体、熱マネジメント、光学、量子技術など産業用途への展開も加速している。

2026年上半期には、上海ダイヤモンド取引所を通じた中国のラボグロウンダイヤモンド輸出額が14億1,000万元となり、前年同期比65.3%増加したと報じられている。背景には宝飾用途だけでなく、高性能半導体などに使用されるラボグロウンダイヤモンドへの需要拡大もある。

天然とラボグロウン、「二つの市場」への分化が進む

一方、天然ダイヤモンド市場全体を一括して「崩壊」と評価することはできない。

天然ダイヤモンドの中でも、サイズ、品質、希少性によって市場動向には大きな違いがある。一般的な商業品質のラウンドブリリアントは価格比較が容易であり、ラボグロウンとの競争にもさらされやすい。一方、希少性の高い大粒・高品質石やファンシーカラーダイヤモンドなどは、一般的な量産規格のダイヤモンドとは異なる市場を形成している。

今後重要になるのは、「天然ダイヤモンド対ラボグロウンダイヤモンド」という単純な勝敗ではなく、それぞれの商品価値がどのように再定義されるかである。

天然ダイヤモンドには地質学的希少性、産地、ストーリー、ブランド、資産性などを訴求する方向があり、ラボグロウンには価格競争力、大粒化の容易さ、デザイン自由度、新しい消費スタイルへの適応など異なる商品価値がある。

市場が成熟するほど、両カテゴリーを単純に同一の商品として価格だけで比較することは難しくなっていく可能性がある。

問われる「価格」から「価値」への転換

天然ダイヤモンド価格の長期的な調整で重要なのは、これまで小売現場で語られてきた「ダイヤモンドは価値が下がりにくい」「希少だから価格が維持される」といった説明を、市場データと整合する形へ見直す必要が生じていることだろう。

同時に、ラボグロウンダイヤモンドについても単に「天然より安いダイヤモンド」として販売するだけでは、継続的な市場形成は難しい。生産技術の進歩によってルース価格が低下する中、ジュエリーとしてのデザイン、ブランド、品質管理、鑑別・グレーディング、アフターサービスなど、石そのものの価格以外の価値がこれまで以上に重要になる。

天然ダイヤモンド市場の価格調整とラボグロウンダイヤモンド市場の拡大は、別々に起きている現象ではないが、天然価格の下落をラボグロウンの影響で説明することはできない。

中国需要の低迷、世界経済、川中在庫、原石生産量、消費者の価値観、ブライダル市場の変化、そしてラボグロウンという新しい選択肢の登場。複数の要因が同時に作用しながら、ダイヤモンド市場そのものが再編されている。

天然かラボグロウンかという二者択一ではなく、それぞれの商品にどのような価値を与え、消費者にどう説明するのか。価格体系が大きく変化する現在、ジュエリー業界には改めてその基本的な問いが突き付けられている。

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