CIBJOが「synthetic」単独使用を支持 米国ではラボグロウン婚約指輪が過半数、ダイヤモンド市場の分化が鮮明に

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100周年のCIBJOで浮き彫りになったダイヤモンド市場の転換

2026年9月、イタリア・ヴィチェンツァで開催された世界ジュエリー連盟(CIBJO)のコングレスで、ダイヤモンド市場を巡る重要な議論が行われた。

一つは、米国で販売される婚約指輪の半数以上が数量ベースでラボラトリーグロウンダイヤモンドを使用しているという市場の急速な変化だ。もう一つは、CIBJOがBlue Bookにおける非天然ダイヤモンドの呼称について、「laboratory-grown」および「laboratory-created」を外し、「synthetic」を唯一の推奨用語とする方向を決定したことだ。

さらに天然ダイヤモンド業界からは、De Beers元CEOのGareth Penny氏が、天然ダイヤモンド市場の回復には若年層を意識した感情的価値のマーケティング強化が不可欠だと訴えた。

市場シェア、呼称、マーケティング。その背景には同じ構造変化がある。天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドが、同一市場で単純に競争する段階から、それぞれ異なる価値と消費者層を形成する段階へ移行しつつある。

米国では婚約指輪の半数以上がラボグロウンに

CIBJOのLaboratory-Grown Diamond Committee委員長であるWesley Hunt氏は、米国で販売される婚約指輪について、数量ベースで半数以上がラボグロウンダイヤモンドを使用していると報告した。

Hunt氏は同時に、近年のラボグロウンダイヤモンドの小売価格下落が天然ダイヤモンド価格にも圧力を与えているとの認識を示した。CIBJOの同委員会も、ラボグロウンダイヤモンドは今後も消費者の選択肢として存在し続けるとの見方を示している。

「半数以上」という数字は数量ベースであり、金額ベースではない。ラボグロウンダイヤモンドは天然ダイヤモンドと比較して販売単価が大幅に低いため、金額ベースでも市場の過半数を占めていることを意味するものではない。しかし、婚約指輪というダイヤモンド業界にとって象徴的なカテゴリーで数量シェアが過半数に達したことは、市場構造の変化を示す重要な指標だ。

Hunt氏はまた、ラボグロウンダイヤモンドが天然ダイヤモンドを購入できない消費者にダイヤモンドジュエリーへの入口を提供し、将来的に経済状況が変化すれば天然ダイヤモンドへ移行する可能性もあるとの考えを示している。

この見方が実際の消費行動として定着するかは現時点では不明だ。ラボグロウンが天然への「入口」となるのか、それとも独立したカテゴリーとして定着するのかは、今後の市場を考える上で重要な論点となる。

業界から延期要請、それでもCIBJOは「synthetic」を選択

今回、最も議論を呼んだのは呼称問題だ。CIBJOは2025年からDiamond Blue Bookにおける呼称の見直しを進めており、「laboratory-grown(ラボラトリーグロウン)」と「laboratory-created(ラボラトリークリエイテッド)」を削除し、「synthetic(合成)」を非天然ダイヤモンドの基本的な呼称とすることを検討してきた。

2026年のコングレスでは、この方針に対してラボグロウンダイヤモンド業界側から異論が出ていた。Hunt氏によれば、CIBJOには9月初旬、複数の業界関係者から呼称に関する最終判断を延期するよう求める書簡が届いていた。また、Laboratory-Grown Diamond Steering Committeeは、「synthetic」だけではなく「laboratory-grown」を代替表現として残すことを要請していた。 Laboratory-Grown Diamond Council(LGDC)のTom Chatham氏を含む複数のラボグロウンダイヤモンド関係者が、決定延期を求める書簡やメールをCIBJOに送っていた。

しかしCIBJOは最終的に方針を変更しなかった。

しかし最終的に、Sector AとGeneral Assemblyの意見を踏まえ、最終的にCIBJO Boardが非天然ダイヤモンドについて「synthetic」を唯一の推奨表現とする方針を決定した。

今回の決定は、ラボグロウン業界からの異論や延期要請がない状態で成立したものではない。異なる意見がCIBJO内部から、および外部から示された上で、それでもCIBJOが「synthetic」を選択したという経緯を理解する必要がある。

CIBJOが主張する「科学的正確性」

CIBJO Diamond Commission側が今回の変更理由として強調しているのは、マーケティングではなく消費者への正確な情報提供だ。

Diamond Commission会長のUdi Sheintal氏は、ラボグロウンダイヤモンドは現在、研究室ではなく大規模な工場でHPHTやCVDなどの工業的プロセスによって製造されており、「laboratory-grown」という表現は製品の実際の生産状況を正確に表していないとの立場を示している。CIBJOの2026年Diamond Commission Special Reportでも、この考え方が詳細に説明されている。

Sheintal氏はコングレスでも、今回の問題について「マーケティングではなく、消費者に真実を伝えること」が目的であるとの趣旨を述べている。

CIBJO側の論理では、天然ダイヤモンドと人工的な工業プロセスによって製造されたダイヤモンドは、その起源を明確に区別すべきであり、「synthetic」がその目的に最も適した科学的表現であるということだ。

CIBJOはさらに、4Cについても天然ダイヤモンドの希少性を表現するために開発された評価体系であり、工業的に生産される合成ダイヤモンドへの適用について再検討すべきだとの問題提起を行っている。

これは呼称だけにとどまらず、将来的には天然とラボグロウンの評価方法そのものを分離していこうとする議論につながる可能性がある。

「laboratory-grown」を支持する側にも異なる論理

一方、ラボグロウンダイヤモンド業界側にも独自の論理がある。

CIBJO内部のLaboratory-Grown Diamond Committee側は、「synthetic」を否定するのではなく、「laboratory-grown」を代替表現として併存させることを求めていた。

CIBJOのSpecial Reportによれば、同委員会の代表者は、過去15年間で消費者が「laboratory-grown」という言葉を認識するようになっており、「synthetic」だけに戻すことは、むしろ消費者を混乱させる可能性があると主張していた。 ここには「科学的にどの表現が適切か」という問題と、「現在の消費者がどの表現を理解しているか」という問題の違いがある。

さらに「synthetic」という英単語は科学・宝石学上の意味と、一般消費者が日常語として受け取るニュアンスが必ずしも一致するとは限らない。市場や言語によっては「人工的に製造された」という意味以上に、「偽物」や「模造品」に近い印象を与える可能性があるとの懸念も存在する。

世界で統一されていない呼称ルール

さらに重要なのは、CIBJOの決定によって世界の呼称がすぐに「synthetic」に統一されるわけではないことだ。CIBJO自身も、世界市場が呼称面で分化していることを認めている。

フランスやロシアでは「synthetic」を基本とする方向が強まる一方、米国やインドでは「lab-grown」「laboratory-grown」という表現が広く使用されている。またLondon Diamond Bourseも「synthetic diamond」の使用を進める方針を示しており、African Diamond Producers Associationも天然ダイヤモンドとの明確な区別を求めている。

一方、米国ではFederal Trade Commission(FTC 連邦取引委員会)のJewelry Guidesの下で、適切な開示を前提に「laboratory-grown」「laboratory-created」などの表現が認められている。CIBJO会長のGaetano Cavalieri氏も、各国はそれぞれの制度に従って用語を使用することになるとの認識を示している。

つまり、今回のCIBJOの決定は「世界的にlaboratory-grownという表現が禁止された」と解釈できない。

CIBJOのBlue Bookは国際ジュエリー業界に大きな影響力を持つ業界基準だが、各国の法律や行政規則そのものではない。今回の決定が各国の業界団体、鑑別機関、小売企業、行政機関にどの程度波及するかが今後の焦点となる。

日本では「synthetic=合成」の翻訳問題も

日本市場でこの問題を考える場合、合成という日本語への「翻訳」という要素が加わる。英語の「laboratory-grown diamond」は日本では一般に「ラボグロウンダイヤモンド」と表記される。一方、「synthetic diamond」は通常「合成ダイヤモンド」と訳される。

しかし、英語圏における「synthetic」と日本語の「合成」が消費者に与える印象が完全に同一であるとは限らない。日本では一般的に「合成皮革」や「合成繊維」のように、本質的に天然と異なる物質に対して「合成」という用語が使用されることが多く、これが消費者に与えるイメージは無視できない。

これは単なる翻訳上の問題ではない。国際的な業界基準が各市場で実際に消費者保護として機能するためには、その国の言語に置き換えた際に消費者がどのように理解するのかまで検証する必要がある。

CIBJO自身が米国、インド、フランス、ロシアなどで異なる呼称が使用されていることを認識している以上、国際的な標準化と各国市場の消費者理解をどのように両立させるかは、今後も議論が必要なテーマとなる。

天然ダイヤモンド側ではマーケティング強化を求める声

呼称を巡る議論と並行して、天然ダイヤモンド業界自身の課題も指摘された。

De Beers元CEOのGareth Penny氏はCIBJOコングレスで、天然ダイヤモンド市場を回復させるためには、より強力で継続的なマーケティングが必要だとの考えを示した。

特に重要なのが若い消費者との関係だ。Penny氏は、天然ダイヤモンドを単なる宝石としてではなく、愛やコミットメント、人生の重要な瞬間と結び付いた商品として伝える必要性を訴えた。 これは天然ダイヤモンド業界にとって重要な論点だ。

ラボグロウンダイヤモンドとの価格差が拡大するなか、天然ダイヤモンドが価格や物理的スペックだけで競争することは難しい。天然由来であること、希少性、形成に要した時間、産出国との関係、文化的・感情的価値など、「なぜ天然を選ぶのか」という理由を消費者に提示する必要性が高まっている。

逆に言えば、呼称を「synthetic」に変更するだけで天然ダイヤモンドの需要が回復するわけではない。天然ダイヤモンド側にも、自らの価値を再構築し、それを次世代の消費者に伝えるマーケティングが求められている。

ラボグロウン側にも問われる「価格以外の価値」

課題を抱えているのは天然ダイヤモンドだけではない。

ラボグロウンダイヤモンドは急速な生産拡大と技術進歩によって価格が大幅に低下している。消費者にとって購入しやすくなる一方、販売事業者にとっては価格だけを価値の中心に据えるビジネスモデルが長期的に維持できるのかという問題が生じる。

またHunt氏は、インドの新興ラボグロウンダイヤモンドブランドの一部について、十分な根拠を伴わないサステナビリティや倫理性に関する主張が行われていることにも言及している。 ラボグロウンダイヤモンドは採掘を必要としないが、製造にはエネルギーを使用する。その環境負荷は製造方法、エネルギー源、工場、地域などによって異なる。

したがって、「環境に良い」「倫理的である」といった包括的な表現には、天然・ラボグロウンの双方で検証可能な根拠が求められる。

「天然対ラボグロウン」から市場の分化へ

今回のCIBJOコングレスで最も興味深い言葉の一つが、「市場はますますsegregated(分離)になっている」というCIBJO自身の認識だ。これは呼称について述べたものだが、市場そのものにも当てはまりつつある。

天然ダイヤモンドは希少性、天然由来、ストーリー、感情的価値を中心とする市場へ向かう。一方、ラボグロウンダイヤモンドは価格アクセシビリティ、大粒化、デザイン自由度、技術的価値など、異なる購買理由を形成する可能性がある。

両者が同じ「ダイヤモンド」という言葉の中で価格だけを比較する市場から、それぞれ異なる価値基準で選択される市場へ移行すれば、必ずしも一方の成長がもう一方の消滅を意味するわけではない。

その意味では、米国の婚約指輪でラボグロウンが数量ベースの過半数に達したこと、CIBJOが「synthetic」単独推奨へ踏み切ったこと、そして天然ダイヤモンド側からマーケティング強化を求める声が上がったことは、これまで一つのカテゴリーとして語られてきたダイヤモンド市場が再編され始めていることを示している。

天然ダイヤモンドには「なぜ天然なのか」を説明する力が求められる。ラボグロウンダイヤモンドには「なぜラボグロウンなのか」を価格以外でも説明する力が求められる。そしてCIBJOをはじめとする業界団体には、両者の違いを明確にしながら、消費者が誤認することなく自ら選択できる市場環境を整えることが求められる。

2026年のヴィチェンツァで行われた議論は、「天然かラボグロウンか」という二者択一の議論以上に、今後ダイヤモンドという商品をどのように定義し、評価し、消費者へ伝えていくのかという、業界全体の構造的な転換を示したと言えるだろう。

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