中国のZ世代 – ラボグロウンダイヤモンドの「カラットフリー」

LUSANT

31歳の上海人、ジエユ・ワンは最近ラボグロウンダイヤモンドでプロポーズされ、それにイエスと答えた。それは多くの彼女の友人たちにとっては驚きだったという。

ワンは、中国の経済メディアであるJing Dailyに「私の友人達の最初の反応は、『本物のダイヤモンドを買わない男と結婚するなんて心配!』という感じでした。私自身今までずっと天然ダイヤモンドにこだわっていましたが、私と彼が結婚しようと思ってダイヤモンドについて調べ始めたとき、ラボグロウンダイヤモンドの技術が非常に進化していることに気づきました。」と語った。

この新しく婚約したカップルは、最終的に2つのジュエリープランにたどり着いた。一つはこの婚約のためのラボグロウンダイヤモンドリングで、もう一つは家族の承認を得るための「三金」(中国の伝統的な婚姻ジュエリーで、純金を使用したリング、イヤリング、ブレスレット)だ。「三金の伝統は両方の家族にとって非常に重要なので、私たちは両親の希望に応えるためにそれらを買いました。一方、ダイヤモンドは私たち自身のためのものなので、できる限り賢明な決断をしようとしました。」とワンは説明した。

20,000人民元(約40万円)の予算の中で、彼らは天然ダイヤモンドよりもラボグロウンダイヤモンドを購入することを選択した。リサーチ会社である国泰君安は、ラボグロウンダイヤモンドの価格は天然ダイヤモンドの3分の1で、カップルは同じ予算でダイヤモンドのサイズを3倍にすることができると述べている。

「私たちの予算では1ctの天然ダイヤモンドを手に入れることは不可能でした。しかし、ラボグロウンダイヤモンドであれば、1ct以上のデザインの選択肢が充実しています。」とワンは説明している。彼女は当初、婚約指輪が天然ではないという考えを受け入れることに抵抗感があったというが、最終的にはラボグロウンダイヤモンドの価格の側面が彼女を引きつけた。

消費者のシフト

ワンのような、天然ダイヤモンドからラボグロウンダイヤモンドへの転換は、中国の都会的な若いカップルの中ではそれほど珍しくはない。金製品は資産価値という、中国の文化的背景の価値観による側面のために今の若い中国人からも大きな需要を得ているが、消費者が天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドの間で揺れ動くにつれて、ダイヤモンドに対する概念は流動的なものとなってきている。

EC取引データ会社であるマジックミラーズによると、中国最大のECモールであるTmallでは、天然ダイヤモンドジュエリーの2021年の売上高は40億人民元(約800億円)となっており、前年比横ばいの成長となっている。一方、ラボグロウンダイヤモンドの販売は、規模はまだはるかに小さいものの前年比で72%の増加を示し、4億1000万人民元(約82億円)に達している。2006年に公開された映画「ブラッド・ダイヤモンド」の影響が持続し、サスティナビリティへの関心が消費者の中で高まるにつれて、ますます多くの人々が天然ダイヤモンドの市場優位性に疑問を抱いているという。この消費者群への対応として、中国国内のラボグロウンダイヤモンドブランドは、価格、倫理、進歩的な理想に対する若い世代の期待に応える代替手段を提供している。

中国のラボグロウンダイヤモンドブランドの戦略

Tmallのラボグロウンダイヤモンドカテゴリーのベストセラーブランドである”LIGHT MARK”(ライトマーク)は、2020年に「カラットフリー」をキャッチコピーに「民主化」ブランドとしてスタートした。このブランドは、ラボグロウンダイヤモンドの持つ『自由』をアピールすることで、手に届かない贅沢品というダイヤモンドに対する消費者の認識に挑戦することを目指している。

「カラットフリーには3つの意味があります。まず、愛の表明のために大きな犠牲を払う必要がないということです。第二に、他人の贈り物としてのみのダイヤモンドから解放されるということです。あなたは自分でもダイヤモンドを購入することができます。第三に、ダイヤモンド業界の伝統的なルールに屈する必要がないということです。」と、LIGHT MARK創設者であるレン・リュウは語っている。

LIGHT MARK 重慶のフラッグシップ店舗

2015年に設立された別の中国のラボグロウンダイヤモンドブランドである”Carxy”は、進歩的で現代的な価値観を持つ若いカップルに対してメッセージを届けている。ブランド紹介ページでは、深海ダイビングをしながらプロポーズをしている、地球を愛するカップルが掲載されている。

「ラボグロウンダイヤモンドは、自然から採掘されたダイヤモンドよりも環境に優しいです。私たちは自然が大好きで、ラボグロウンダイヤモンドを使って海の中でプロポーズをすることには意味がありました。」と彼らは述べている。また別のクライアントストーリーでは、化学研究者のカップルがラボグロウンダイヤモンドを選択している。これは、ラボグロウンダイヤモンドが化学的に天然ダイヤモンドと同一であり、合理的な選択であることを理解しているためだという。

「中国の消費者の多くにとって、ラボグロウンダイヤモンドを婚約指輪として取り入れることの最大の障壁は、それが天然ダイヤモンドよりも安価であることです。金銭的な犠牲を払うことは、私たちの愛の文化の重要な部分だからです。」と、GIAのメンバーであり、宝飾市場コンサルタントであるインイ・チンは語った。「(中国の)人々が天然ダイヤモンドを購入するのは、その希少性が高いと信じているからではなく、それが高価であり、真剣な約束の象徴になるからです。ラボグロウンダイヤモンドが成功するためには、倫理的な生産やサスティナビリティなど、他の側面に焦点を当てる必要があるでしょう。」と彼は付け加えた。

中国のジュエリーコングロマリットである豫園ホールディングスの傘下であるLusantと、新興デザイナーブランドであるAnotaは、ダイヤモンドのロマンチックな決まり文句からブランドを積極的に切り離している。ラボグロウンダイヤモンドを純粋なファッションアクセサリーと位置付けている両ブランドは、Z世代の自己需要向けに現代的でエッジの効いたジュエリーを製造している。2022年3月には、香港の小売大手である周生生(Chow Sang Sang) も、ラボグロウンダイヤモンドとリサイクルゴールドなどを使用した「未来志向のジュエリー」に特化したECプラットフォーム”The Future Rocks”を立ち上げている。

LUSANT (左) Anota (右) 

しばしば過度にロマンチックに装飾されるダイヤモンドのストーリーを一新することによって、これらのブランドは新しい課題を提起している。なぜ「天然であるかどうか」が議論の中心になるのだろうか。中国のZ世代の消費者のほとんどは、「カラットフリー」を持つことの満足感を超えて、差別化された声明を望んでいる。ラボグロウンダイヤモンドのカテゴリーは、これらの世代と深く共鳴する多くの要素を持っている。それはディスラプティング(創造的破壊)で、デモクラタイジング(民主的)で、技術主導型で、クルエルティフリー(動物の犠牲を伴わない)だ。今後のブランドにとって、それらの要素は新たなチャンスを築く。

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