中国市場のラボグロウンダイヤモンド、起業家の観点

中国のジュエリー市場にはますます多くの新興ラボグロウンダイヤモンドブランドが現れている。

設立2年と4ヶ月になる中国のダイヤモンドジュエリーブランド、”ライトマーク(LIGHTMARK – 小白光)”は全国に17の専門店をオープンしている。ライトマークが販売するダイヤモンドはラボグロウンダイヤモンドで、天然ダイヤモンドではない。ライトマークの店舗は、瀋陽恒隆広場、武漢万象城、杭州湖浜銀泰、深圳前海万象城など、全国のアッパーミドルショッピングモールで展開されている。

ライトマークの共同設立者でブランドパートナーであるリュウ・レン(劉韧)は、同ブランドが現在最も店舗数の多いラボグロウンダイヤモンドブランドだろうと述べた。同ブランドは中国のコアとなるファッション消費都市にそれぞれ店舗をオープンしている。

しかし、長三角地区(江蘇省、浙江省、上海市のほか、蘇州市、南京市、杭州市など15の都市を含む揚子江デルタ地帯)の店舗数は総店舗数の半分近くを占め、上海にはさらに3店舗をオープンしている。ファッション高級ブランドの出店傾向から見ても、この出店計画はほとんどの新消費ブランドの選択と同じだ。

ライトマークのバックは深圳中嘉恒美科技有限公司で、2020年7月に設立されている。ライトマークが設立されてから5ヶ月後にエンジェルラウンドの融資を受けており、2021年12月22日にはpre-Aラウンドの融資を受け、融資金額は1.3億人民元となった。投資家は公開されていない。

ラボグロウンダイヤモンドで伝統的なジュエリー業界を覆す

2020年頃、新しい消費ブランドが多く誕生した。リュウは当時の市場環境下で、「私たちは長い間伝統的な宝石業界に携わってきましたが、新しい消費の論理で業界を覆すことができるかどうか疑問に思っていました。」と語った。創業前、同氏はある有名な地元の結婚指輪ブランドで8年間勤務しており、マーケティングディレクターからブランド管理センター総経理に昇進した。それ以前は有名な広告会社に勤務していた。

新消費ブランドはデジタルマーケティングとデジタルチャネルという課題を避けて通ることはできない。現在、ライトマークはWeChatのミニプログラム、京東、Tmall、TikTok、小紅書を含む中国の主要オンラインチャネルをカバーしている。リュウによると同社の複数のチャネルはオフライン店舗への誘致に成功しているという。

しかし、彼らはなぜ天然ダイヤモンドではなく消費者の認知度が低いラボグロウンダイヤモンドを採用し、伝統的なジュエリー業界を覆すことを選択するのか?

中国でのラボグロウンダイヤモンドの市場浸透率はまだ低く、データによると2021年の浸透率は6.7%ほどだという。これは消費市場で消費者がまだ十分にラボグロウンダイヤモンドを認識していないことを意味している。一方で伝統的なジュエリーブランドが長年宣伝した影響により中国市場では「ダイヤモンドは永遠」というストーリーについて深く認識されている。

そのような中、ライトマークのリュウが出した答えは「より多くの人が良いものを買えるようにすること。」だという。

彼は、ラボグロウンダイヤモンドと天然ダイヤモンドは本質的に同じものだと考えている。ラボグロウンダイヤモンドはラボで成長し、ジュエリーに適した宝石品質の人工ダイヤモンドだ。キュービックジルコニア、モアサナイトなどのダイヤモンド代替品とは異なり、ラボグロウンダイヤモンドは光学的、物理的、化学的に天然ダイヤモンドと同じ性質を持ち、4Cグレード基準が一致している。

注目すべき点は、IGI、GIAなどの国際権的に権威のある宝石鑑定機関はラボグロウンダイヤモンド天然ダイヤモンドと同様のグレードを与えているということだ。

冷蔵庫の中の氷 VS 南極の氷

上海豫園ジュエリーファッショングループ(以下「豫園ジュエリー」と)の総裁のチェン・シャオエン(陳暁燕)は「全体的にラボグロウンダイヤモンドの品質は天然ダイヤモンドよりも高い」とさえ考えている。

ラボグロウンダイヤモンド業界でよく例えられるものに氷がある。つまり、ラボグロウンダイヤモンドと天然ダイヤモンドの違いは冷蔵庫の氷と南極の氷のようなもので、違うのは成長環境だけだ。

ラボグロウンダイヤモンドはラボで成長するため「生産環境はコントロールできる。」チェンは「技術が向上するにつれて、ラボグロウンダイヤモンドの品質が向上し、カラーやクラリティは全体的に天然ダイヤモンドよりも優れるようになった。」と述べている。

2021年、豫園ジュエリーは自社のダイヤモンドブランド”LUSANT”を誕生させた。そして同年末に上海に最初のオフライン店舗を開設した。これによって、豫園ジュエリーは国内で初めてラボグロウンダイヤモンド市場への進出を果たしたトップの伝統的ジュエリー企業となった。同社は数々の伝統的ジュエリーブランドを擁しており、それぞれ天然ダイヤモンドの製品ラインを持っている。

これはライトマークとは違う戦略だ。中国のジュエリー市場のトップ企業として、豫園ジュエリーは成熟した産業チェーンの優位性があり、供給者とチャネルの品質を把握し、そして傘下の新興ブランドの急速な発展を促進することができる。

ラボグロウンダイヤモンドの最大のメリットは天然ダイヤモンドに比べて価格が低いことだ。オーソドックスな6本爪の婚約指輪を例に挙げると、ライトマークではFG、VS1、1ct、プラチナの婚約指輪は小売価格で約2万元(約40万円)だ。また同ブランドはカスタマイズサービスを提供しており、顧客の好みに合わせて製品をカスタマイズすることができる。納期は20日間程度で、新規顧客の場合多くの割引を提供するという。

一方、ティファニーで同様のデザインの6本爪の天然ダイヤモンド婚約指輪の価格は約13万元(約260万円)になっている。周大福などのゴールドジュエリーブランド店舗では同じような天然ダイヤモンド指輪の価格は約10万元(約200万円)だ。

一方でこの価格特性のため、一部の伝統的ジュエリー企業、特に天然ダイヤモンドをメインに販売する会社は、ラボグロウンダイヤモンドについて「慎重に」宣伝している。

2021年10月、中華市場最大規模のジュエリーブランドである周大福ジュエリーは、Tmallでラボグロウンダイヤモンドブランド「CAMA」を発売した。しかし、このブランドは数ヶ月後に退店している。周大福は後に投資家の質問に答えて「ラボグロウンダイヤモンド」のカテゴリーをテストしていたと認めた。

しかし、2022年に入ってから、伝統的なゴールドジュエリー企業は次々とラボグロウンダイヤモンドを導入し始めた。

チャイナゴールド(中国黄金)はラボグロウンダイヤモンドを核心戦略とし、ラボグロウンダイヤモンド研究開発設計センター、展示取引センター、サプライチェーンサービスセンターを建設する計画を発表した。潮宏基傘下のサブブランドであるVENTIもラボグロウンダイヤモンド製品を発売している。潮宏基は中国ラボグロウンダイヤモンド原石サプライヤーと戦略提携を結び、ラボグロウンダイヤモンドブランドを創立して運営する予定だ。

あなたはラボグロウンダイヤモンドで「カラットの自由」を手に入れたいか?

有名な女優のキティ・チャン(張雨綺)は小紅書でダイヤモンドの買い方という動画をアップしたことがある。この動画の中で、キティ・チャンは1ct以上のダイヤモンドしか購入せず、1ct未満のダイヤモンドは彼女から見れば価値がないと述べた。

多くの消費者層にとって1ct以上のダイヤモンドを購入することは容易ではない。そしてここ数年ブランドの天然ダイヤモンドの価格は上昇し続けている。

ライトマークによると、ラボグロウンダイヤモンドによってより多くの中国消費者に「カラットの自由」を実現させることができる。

「我々も最初は皆さんと同じように、ラボグロウンダイヤモンドと天然ダイヤモンドが同じかどうか、また消費者がそれにお金を払うかどうか心配し、悩んでいました。しかし、2つの店を開いた後、消費者の考え方が我々の観念よりも進んでいることに気づきました。」とリュウは述べる。

「例えば、銀泰のようなアッパーミドルショッピングモールでは、消費者は最初ラボグロウンダイヤモンドを見ると躊躇するかもしれません。その後、他の(天然ダイヤモンド)ブランドでは同じ予算で半分以下のサイズになることに気づきます。1ctのラボグロウンダイヤモンドは0.5ctの天然ダイヤモンドよりも大きくキラキラしていて、価格は遥かに安いです。そして多くの女性消費者は、自分を説得し始めます。」と続ける。

アメリカのラボグロウンダイヤモンド市場の現状も、これら多くのラボグロウンダイヤモンドブランド起業家に自信を与えている。ベインアンドカンパニーの「2019年グローバルダイヤモンド産業報告」の統計データによると、全世界のラボグロウンダイヤモンド消費量の80%はアメリカ市場だ。アメリカのラボグロウンダイヤモンド消費市場は比較的安定した状況を作り出しており、ラボグロウンダイヤモンドはアメリカの消費者のダイヤモンド購入傾向に影響を及ぼしている。大きいサイズのダイヤモンドを購入することは、アメリカの消費者がダイヤモンドジュエリーを購入する際に非常に重視するポイントだ。

「アメリカの消費者はカラーが低くても大きいサイズのダイヤモンドを選びます。」と豫園ジュエリーのチャンは述べる。2022年6月、チャンはLUSANTとしてアメリカのラスベガスジュエリーショー(JCK)に出展した。

対照的に、中国消費者のジュエリーに対する要求はもっと複雑かもしれない。カラットとグレードだけでなく、デザインや美感も中国消費者、特に若い世代の消費者がダイヤモンドジュエリーを購入する際には重要になってくる。

これは、上記に示したラボグロウンダイヤモンドブランドがハイテク、未来感、コストパフォーマンスなど様々な角度からブランドイメージを作り上げているにも関わらず、例外なくジュエリーのファッション感とデザイン感を強調している理由となっている。

ラボグロウンダイヤモンドジュエリーブランド”ANOTA”を例に挙げると、その製品ラインはデザイナーデザイン、またはアーティストのコラボレーションデザインに力を入れている。実際、ANOTAが2021年に設立されて以来、ファッションウィークのショールームでも活躍しており、当初はオフラインチャネルもファッションデザイン業界と密接に関連しているバイヤーショップからスタートしている。

2021年10月にブランドが初めて発表した「生」と「然」シリーズ作品から、2022年公開の中国版舞台劇「フランケンシュタイン」とのコラボシリーズまで、ANOTAはあるコンセプトのもと、リング、ネックレス、イヤリング、ブローチ、その他のアイテムを含む、ラボグロウンダイヤモンドジュエリーのをデザインしている。

ANOTAブランドの創始者であるプ・イリョウ(浦奕柳)「私たちは現在、ファッション芸術家の張長江、蔡万林など20人以上のアーティストのIP(知財ライセンス)を持っています。我々は彼らとコラボし、それは芸術とファッションのそれぞれの層に焦点を当てることになります。コラボするたびに我々は新しいユーザーを獲得できます。」と述べている。

この観点から、ラボグロウンダイヤモンドの影響を最初に受けたジュエリーブランドは、ハイエンドの天然ダイヤモンドブランドではなく、例えばパンドラやスワロフスキーなどのライトラグジュアリーブランドになる。ここ数年、中国市場では海外ブランドとしての強いイメージが低くなっているこれらのファッションジュエリーブランドは、デザインがあまり革新的ではなく、使用している素材に対して価格が高いなどの理由で売上が良くなく、徐々にデザインに敏感な新興ジュエリーブランドに取って代わられていた。

しかし、消費者の観念を変えるのは簡単ではない。小紅書などの中国SNSの中で活発になるラボグロウンダイヤモンドに対する議論の中、依然として消費者には多くの疑問と困惑の声がある。特に現在、アメリカ以外のラボグロウンダイヤモンド消費市場はまだ初期段階にあり、中国市場においては他者からの目、偽物や誤魔化しなどの状況が困難な状況を作り出している。

ラボグロウンダイヤモンドブランドの起業家たちは、ますます多くのプレイヤーがこの市場に入ることを望んでいると言う。「(ラボグロウンダイヤモンドについて消費者に)教育するブランドが少ないため、消費者はラボグロウンダイヤモンドについてよく理解していません。」と豫園ジュエリーのチェンは述べる。「昨年は非常に多くのブランドが参入しました。2023年には多くの企業が大規模な店舗をオープンし始めるでしょう。これらの店舗がオープンすると、消費者はすぐに教育されるでしょう。」と付け加えた。

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