英国王戴冠式 – カミラ王妃はコ・イ・ヌールを着用せず

先週土曜日、英国のチャールズ王とカミラ王妃はロンドンのウェストミンスター寺院で戴冠した。

式典のクライマックスでカンタベリー大司教は、歴史的な聖エドワード王冠をチャールズ王の頭の上に置いた。これは純金製で約2キログラムの重さがあり、444の宝石がセットされている。これはチャールズ2世の戴冠式のために1661年に製作されたもので、今回以前には1953年にエリザベス女王の戴冠式のために着用されたのが最後だ。

カミラ王妃は、メアリー女王の王冠を修正した王冠で宣誓された。この王冠には元々、論争の対象となっていたコ・イ・ヌールダイヤモンドがセットされていたが、トラブルを回避するために取り外された。

この王冠は元々1911年に当時の王冠の宝石商ガラードによって作られた。8つの特徴的なハーフアーチを持っており、高さは25cm、重さは590gだ。また約2,200個のローズカットとブリリアントカットダイヤモンドがセットされており、オリジナルには105.602ctsのコ・イ・ヌールダイヤモンド、94.4ctsのカリナンIIIダイヤモンドと63.6ctsのカリナンIVダイヤモンドが飾られていた。

今回カミラ王女が戴冠式で着用するにあたり、このハーフアーチを4つに減らし、コ・イ・ヌールの代わりにハートシェイプの11.5ctsのカリナンⅤがセットされた。

当初、エリザベス女王2世は自身の死の直前に、この王冠をチャールズ3世の戴冠式でカミラ王妃が着用すべきであると示唆したという。チャールズ3世ではなくカミラ王妃が着用するように示唆したのは、このダイヤモンドの数奇な運命によるものだと思われる。このダイヤモンドが辿った運命の過程で、人々はそれが呪われていると信じるようになった。そしてそのダイヤモンドによる災難は、それを身に着けた多くの男性にもたらされたと言われ、殺されたり裏切られたりなどの恐ろしい死をもたらした。
そのため女性、特に王妃のみがコ・イ・ヌールを安全に着用できると考えられている。

しかし、それは実現しなかった。それは、このダイヤモンドが反植民地主義の怒りと論争の対象になったからだ。インドはこのダイヤモンドが自国のものだと主張し、返還を求めた。

インドだけではなく、イランやアフガニスタンを含む他のいくつかの近隣諸国も、何世紀にもわたってそれぞれの王室や支配者がこのダイヤモンドの所有権を持っていたと主張している。しかし、今のところ、英国王室はこのダイヤモンドを手放すつもりはない。

伝説によると、ペルシャ語で「光の山」を意味するコ・イ・ヌールは少なくとも800年前にインド南部の聖なるクリシュナ川の土手で発見されたという。そこから何世紀もヒンズー教の寺院の黄金の像の中に隠され、その後ムガール帝国、ペルシャ帝国、アフガニスタン帝国、シーク帝国を通過し、1849年にインド帝国を統治する女帝であったビクトリア女王に献上された。

今回、戴冠式でカミラ王妃がこのダイヤモンドのセットされた王冠を着用することは、コ・イ・ヌールの所有権を主張する国々との軋轢を生むことになる。そのため今回王冠からこのダイヤモンドを取り外し、代わりにカリナンⅤをセットすることを決定した。コ・イ・ヌールは、今もロンドン塔に保管されている。

左 コ・イ・ヌール 右 コ・イ・ヌールがセットされた修正前の王冠

一方で、戴冠式で使用される錫杖も論争の対象になっている。この錫杖には「アフリカの星」とも呼ばれる530.20ctsのカリナンⅠダイヤモンドがセットされている。

このカリナンの原石は1905年に南アフリカで発掘された。重さ3106ctsのダイヤモンド原石で、鉱山会社の会長であるトーマス・カリナンにちなんで名付けられた。この3106ctsのダイヤモンド原石は、今なおダイヤモンド原石としては世界最大の記録を持っている。(研磨済ダイヤモンドの世界最大記録は545.67ctsのザ・ゴールデン・ジュビリーだ。)

カリナンⅠがセットされた錫杖をもつチャールズ王

カリナンの鉱山があったのは南アフリカのトランスヴァール地方で、20世紀初頭はイギリスの植民地だったため、この原石はバッキンガム宮殿に送られ、エドワード7世に献上された。その後エドワード7世はオランダ・アムステルダムにあるアッシャー社にカットを依頼し、9つの大きなダイヤモンドと96個の小さなダイヤモンドにそれぞれカットされた。9つのダイヤモンドにはそれぞれカリナンIからIXの名が与えられ、すべてイギリス王室か王族個人が所有している。

今回論争の対象となったのは錫杖にセットされたカリナンⅠで、元々発掘された南アフリカで返還を求める運動が起きている。活動家によるオンライン請願には、これまでに約8000人が署名しているという。

返還の請願を呼び掛けた活動家で弁護士のモスシ・カマンガは「このダイヤモンドを南アフリカに戻し、われわれの自尊心と遺産、文化の象徴とする必要がある。」と主張している。「非植民地化とは、自由を手にするだけでなく、奪われた物を取り戻すことだとアフリカの人々は認識し始めている。」と訴えた。

歴史的なダイヤモンドを取り巻く国家間の軋轢はいまだに深い。

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