米国ニュースメディアCNNは「How 2023 became the year of the lab-grown diamond (2023年がラボグロウンダイヤモンドの年になった経緯)」という記事を公開、ラボグロウンダイヤモンドマーケットの考察を掲載した。
アメリカ・ニューヨーク47番街一帯は、無数のジュエリーショップや鑑定機関などが集中するダイヤモンド・ディストリクトとして有名だ。約40ブロック南にあるPANDRA(パンドラ)は最近、ダイヤモンドの製造方法と販売方法についての競合するビジョンに命を吹き込んだ。
9月初め、ニューヨーク・ファッション・ウィークの期間中にパンドラはアスター・プレイスの繁華街の大通りを閉鎖し、「ラボグロウン・ダイヤモンド・ディストリクト」と名付けた派手なパーティーを主催。ブランドの最新のキャンペーンの顔であるモデルで女優のパメラ・アンダーソンやスター達、またファッション関係者が出席した。
パンドラはダイヤモンド(ジュエリー小売)のカテゴリーでは決して大きなプレーヤーではなかった。同社は、100ドル以下の価格帯のチャームブレスレットで、昨年の収益が約40億ドルにも上る世界最大手のジュエリーブランドの1つを構築した。しかし、天然ダイヤモンドと物質的には同じでありながら数分の一の価格で販売できるラボグロウンダイヤモンドの人気の高まりは、パンドラのような比較的低価格帯のブランドにも本格的な輝きを提供するチャンスの扉を開いた。
このカテゴリーで大きな売上を上げているのは同社だけではない。ラボグロウンダイヤモンドを扱うブランドであるBrilliant Eearth(ブリリアント・アース)では2022年の純売上高が15.7%増加し、4.4億ドルになった。また、ラボグロウンダイヤモンド専門ブランドであるDorsey(ドーシー)は昨年、100万点以上のダイヤモンドを販売している。
このようなブランドはジュエリービジネスの仕組みを変えつつある。ジュエリーブランドは通常、使用される素材の種類と販売価格帯に基づいて特定のカテゴリに分類される。ダイヤモンドは究極のラグジュアリーの象徴であり、そのカテゴリは小規模のオーダーメイド企業や、ティファニーやカルティエなどの大手ブランドによって独占されていた。
ラボグロウンダイヤモンドは、それらカテゴリの一部の区分を取り払った。ラボグロウンダイヤモンドは1980年代に初めて開発された。金属の立方体の中で純粋な炭素を高圧高温環境下に置くことによって成長し、最終的に本物のダイヤモンドが生成される。こうして出来上がったダイヤモンドは、従来の天然ダイヤモンドと事実上区別することは困難だ。これを念頭に、(天然)ダイヤモンド業界は消費者に対してこれら2つのダイヤモンドを別のものとして区別するためのマーケティングに投資してきた。
しかしこうした取り組みは、少なくとも価格に敏感な消費者にとっては効果がなかった。例えば、ティファニーのダイヤモンドテニスブレスレットの価格は20,000ドルを超えるが、ブリリアント・アースの同様のデザインだがラボグロウンダイヤモンドを使用したブレスレットは3,450ドルで購入できる。
ジュエリー業界アナリストであるポール・ジムニスキーによると、ラボグロウンダイヤモンドの売上高は、2016年の10億ドル未満から、2022年には120億ドル弱に増加したという。ダイヤモンド業界のリサーチ会社であるエダン・ゴランによると、ラボグロウンダイヤモンドはダイヤモンド市場全体の17%強を占めており、ラボグロウンダイヤモンドの売上高は2021年から2022年にかけて38%急増し成長率は加速していると述べている。
ラボグロウンダイヤモンドの急速な市場成長は市場全体に影響を及ぼしている。パンドラは今年2回売上見通しを引き上げ、株価は過去1年間で2倍以上になっている。一方で世界最大のダイヤモンド鉱山企業であり販売会社であるデビアスは、天然ダイヤモンドの需要減少を受けて天然ダイヤモンドの価格を40%引き下げている。
「ほとんどの人にとってダイヤモンドはダイヤモンドであり、望むのは、素晴らしい輝きと美しさ、そしてダイヤモンドに込められる意味です。」とパンドラの最高マーケティング責任者であるメアリー・カルメン・ガスコ・ブイッソンはファッションビジネスでのインタビューで語った。
市場の拡大
多くの消費者は、ラボグロウンダイヤモンドの購入による節約分を、より大きなジュエリー、例えばより大きな婚約指輪に利用している。ドーシーの創設者であるミーガン・ストラカンは、このテクノロジー(によるダイヤモンド)のおかげで、パートナーが購入してくれるのをただ待つだけでなく、自分でジュエリーを購入する買い物客も増えたと述べた。
そうした買い物客にリーチするために、ブランドはマーケティングアプローチを調整している。ダイヤモンドは常に贅沢品として販売されてきたが、それらの広告は多くの場合、パートナーのためにジュエリーを購入する男性に向けられていた。現在、ジュエリー商はより幅広い顧客、特にファッションアイテムを購入する女性をターゲットにマーケティングを行っている。
「ラボグロウンダイヤモンドは天然ダイヤモンドと競合するものではなく、天然ダイヤモンドを補完するものです。」と述べるのは、今年初めにラボグロウンダイヤモンドの製品ラインを開始したDiamond Nexus(ダイヤモンド・ネクサス)のMDおよび運営担当COOであるサイード ハイダーだ。同氏は「あなたは美しい婚約指輪を持っていますが、それと一緒に着けられるイヤリングやペンダントも欲しいと思っています。(ラボグロウンダイヤモンドであれば)あなたはずっと欲しかった憧れのアイテムをすべて手に入れることができるでしょう。」と述べた。
何が売れているのか
ラボグロウンダイヤモンドを使用した婚約指輪の人気は高まっているが、多くのブランドで最も成長しているカテゴリーはブライダル以外のジュエリーだ。
ドーシーは、テニスネックレスやブレスレット、ヴィンテージ風のイヤリングなどのアイテムの販売に注力している。ドーシーのストラカンは、この(方針の)決定は、日常使いのジュエリーには埋めるべき大きなギャップがあると感じたことから来ていると語った。また、「ブライダルは一度限りの購入であるのに対し、(ブライダル以外のジュエリーの)顧客はリピート購入者になる」と彼女は付け加えた。
「今までジュエリーショップに行くたびに、私にはそれを買う余裕がないと感じていました。」と彼女は述べる。「(ラボグロウンダイヤモンドは)本質的に富裕層だけのものだったものをデモクラタイズ(民主化)しています。」と続けた。
2019年に設立されたドーシーは、2021年から2022年にかけて売上が600%増加し、今年も売上を倍増させる勢いで進んでいる。特にインフルエンサーが自ら商品を見つけて拡散する口コミマーケティングによって利益を上げている。
ラボグロウンダイヤモンドを中心としたマーケティングは、商品の販売を促進することと、入手しやすさが価値を下げるという考えに対抗するという二つの役割を担うことが多い。ドーシーは、ファッション誌ヴォーグのページに掲載されていそうなエディトリアル風の見開きで自社製品の写真を撮影し、ファッションアイテムのようにジュエリーを宣伝しているとストラカンは語った。同ブランドのインスタグラムのフィードには、同ブランドのネックレスを着けたモデルのベラ・ハディッドやジャスティン、ヘイリー・ビーバーなど、着飾った女性の洗練された画像で溢れている。
「私たちは靴を選ぶのと同じようにジュエリーを選びます。それが(マーケティングにおいて)見落とされているように感じました。」とストラカンは語った。
パンドラの秋のキャンペーンでは、「ダイヤモンド・フォー・オール(ダイヤモンドをすべての人に)」というキャッチフレーズでラボグロウンダイヤモンドの入手しやすさの側面を強調していたが、ファッションウィークのイベントや、アンダーソンやモデルのプレシャス・リーなどのスターの起用は、パンドラもブランドの位置付けをどのように変えようとしているかを示している。今月初め、同ブランドは英国ファッション評議会との提携を発表し、12月にはブリティッシュ・ファッション・アワードのスポンサーとなる予定となっている。
態度の変化
伝統的なジュエリーブランドは、この新たな競争を受け入れるのが遅れている。デビアスが2018年にサブブランドのLIGHTBOX(ライトボックス)でこの分野に参入し始めたときでさえ、当時のCEOであったブルース・クリーバーは声明の中でラボグロウンダイヤモンドを「それは永遠ではないかもしれないが、今の瞬間には最適な手頃な価格のファッションジュエリー」と位置づけていた。
現在、更に多くのハイエンドブランドがラボグロウンダイヤモンド市場に参入し始めている。LVMHグループに属するジュエラーであるFRED(フレッド)は今月、富裕層顧客のためのラボグロウンダイヤモンドコレクションを発表した。同ブランド内の天然ダイヤモンドと区別するために、この新しいコレクションにはブルーのラボグロウンダイヤモンドを使用している。
この流れは、伝統的なジュエリーブランドにとっても無視できない傾向となっている。ポール・ジムニスキーによると、ラボグロウンダイヤモンドの売上は今後数年間、年間2桁の割合で成長し続ける可能性が高い。
「(ラボグロウンダイヤモンドの取り扱いは)最初は懐疑的な気持ち、またはそれが恥になるのではないかという疑問から始まったものですが、今では誇りを持っています。」とラボグロウンダイヤモンドジュエリーブランドであるJ’evarの創設者、アーミッシュ シャーは語った。「これは未来のダイヤモンドです。」と同氏は付け加えた。
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