デビアス、新ブランドとビーコンを発表 -天然ダイヤモンド需要拡大に向けた取り組み

ラスベガスで開催されたJCKショーの年次朝食会で、デビアスグループは天然ダイヤモンドの需要喚起と市場再活性化に向けた野心的な一手として、新たなブランドと業界全体を対象とした「ビーコン(灯台)」となる製品構想を明らかにした。デビアスのCEOであるアル・クックは、過去10年間で最大規模となるマーケティング投資を断行し、「カテゴリーマーケティングを変革する」と力強く宣言した。この動きは、ラボグロウンダイヤモンドの台頭や市場環境の変化に直面する天然ダイヤモンド業界の盟主が、その存在意義を改めて問い直し、未来への明確なビジョンを示すものとして注目される。

金曜朝、JCKショーで開催されたデビアス恒例の朝食会は、業界の未来を左右する発表の場となった。アル・クックCEOが登壇し、天然ダイヤモンドへの関心を再び高めるための起爆剤として、新ブランドと新たな「ビーコン」の導入を高らかに宣言したのだ。

ストーリーを紡ぐ新ブランド「Origin: De Beers Group」

この秋、一部の選ばれた小売店で展開が開始される新ブランド「Origin: De Beers Group」は、その名の通り、ダイヤモンドの「起源」に焦点を当てる。デビアスの天然ダイヤモンド担当ジェネラルマネージャーであるリン・サーファティは、「あなたのダイヤモンドがどのように生まれ、世界を旅してきたかという物語を中心に構築される」と説明。「消費者は自身にとって意味のあるダイヤモンドを求めている。ダイヤモンドの出自は非常に重要であり、お客様は自身の価値観を反映する製品を探している」と強調した。この理念を広めるため、デビアスはニューヨーク・タイムズ紙と提携し、ダイヤモンドに関するポジティブな物語を発信していくという。これは、単なる物質的な価値を超え、ダイヤモンド一つひとつに宿る背景やストーリーを通じて、消費者の情緒に訴えかける戦略と言えるだろう。

業界の灯台「Ombré Desert Diamonds」

一方、「ビーコン」として発表された「Ombré Desert Diamonds」は、デビアスが支援し、業界全体が利用可能な製品となる。この構想は、天然ダイヤモンドが「標準化され、コモディティ化しつつある」という現状認識から生まれたものであり、「ダイヤモンドがその魂を取り戻すための試みだ」とサーファティは語る。様々なカラーオプションを特徴とし、まずはシグネット社で展開され、他の小売業者への拡大も目指す。 「Ombré」のマーケティングでは、ダイヤモンドを「天体」になぞらえ、「地球の奥深く、そして星々の高みにある私たちの起源へと繋げてくれる存在。私たちは地球的であると同時に宇宙的であり、ダイヤモンドもまた然り」という詩的なメッセージで、その神秘性と唯一無二の価値を訴求する。これは、画一的な美しさだけでなく、自然が生み出す多様な色合いや個性を前面に出すことで、天然ダイヤモンドならではの魅力を再定義しようとする意欲的な取り組みである。

トレーサビリティの進化と市場の現状

クックCEOはまた、デビアスが「Tracr」プラットフォームを通じてトレーサビリティ(追跡可能性)の取り組みを「倍加させる」と述べた。特筆すべきは、GIA(米国宝石学会)がTracrの「株式投資家」となったことで、同プラットフォームが名実ともに「業界ソリューション」へと昇格した点だ。これにより、ダイヤモンドの透明性と信頼性に対する消費者の要求に応える体制が強化される。

デビアスのダイヤモンドトレーディング担当エグゼクティブ・バイスプレジデントであるポール・ローリーは、ラボグロウンダイヤモンドの人気や中国市場での天然ダイヤモンド需要減退により、天然ダイヤモンドビジネスが「かつて見たことのない最悪の危機の一つ」に直面していると分析。一方で、米国市場において天然ダイヤモンドの売上が宝飾品全体の売上を上回っているという最近の統計を挙げ、市場には明るい兆しも見られると指摘した。

リテール戦略とコスト削減、そして未来技術

デビアスブランドのCEO、サンドリーヌ・コンセイエは、「De Beers London」としてリブランドされたデビアスのリテールチェーンの変革について言及。また、ホールセールブランドであった「フォーエバーマーク」がリテールブランドへと移行し、インドで100店舗の展開を計画していることを明らかにした。

財務面では、クックCEOは既に削減した1億ドルに加え、さらに3000万ドルのコスト削減計画を発表。その一方で、同社の技術子会社であるエレメント・シックスが、オレゴン州ポートランドの施設で間もなく初のダイヤモンドウェーハの製造を開始することも明らかにした。「世界で最も先進的な多結晶ダイヤモンドを製造することになる。ラボグロウンダイヤモンドの未来はテクノロジーにあると見ている」とクックは語り、天然ダイヤモンドのロマンを追求する一方で、ラボグロウンダイヤモンドの技術開発にも注力する多角的な戦略を示した。

デビアスが打ち出した一連の戦略は、天然ダイヤモンドの「物語性」と「希少性」を前面に押し出し、情緒的な価値を高めようとする試みであると同時に、トレーサビリティの確立による信頼性の担保、そしてラボグロウンダイヤモンド技術の先進分野への応用という、現実的かつ未来志向の側面も併せ持つ。変革期にあるダイヤモンド業界において、デビアスがどのように市場を牽引し、消費者の心を掴んでいくのか、その動向が注目される。

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