
ダイヤモンドグレーディング・加工技術で世界を牽引するイスラエルのSarine Technologiesは、2025年上半期(1〜6月期)決算で、売上高が前年同期比30%減の1,530万ドル(約22億9,500万円)、最終損益が16万6,000ドル(約2,490万円)の赤字に転落したと発表した。前年同期は100万ドル(約1億5,000万円)の黒字を確保していた。
この業績不振の背景には、ダイヤモンド業界が直面する二つの大きな動きがある。一つは中国市場を中心とした世界的な天然ダイヤモンド需要の低迷、もう一つはラボグロウンダイヤモンドの急速な台頭だ。この市場の構造変化が、同社の収益の柱であるダイヤモンド原石評価装置「Galaxy」をはじめとする設備投資の延期や見送りを招き、業績を直撃した形だ。
最大市場インドで3割減、主要市場軒並み不振
地域別に見ると、同社の最大市場であるインドでの売上は前年同期比32%減の760万ドル(約11億4,000万円)と、落ち込みが際立っている。研磨ハブであるインドの製造業者が設備投資に極めて慎重になっている実態がうかがえる。また、原石の産地であるアフリカ市場も25%減の230万ドル(約3億4,500万円)、消費地である米国も19%減の200万ドル(約3億円)と、サプライチェーンの川上から川下まで、軒並み厳しい状況に直面していることが明らかになった。
インドへの拠点集約と事業多角化で再起図る
この苦境に対し、Sarineは大胆な戦略転換で活路を見出そうとしている。
まず、コスト構造を抜本的に見直すため、製造拠点をインドへ移転・集約する。同時に、インドに新たな鑑定機関「GCAL by Sarine」のラボを開設し、コスト削減と事業効率の向上を両立させる狙いだ。
事業面では、これまで天然ダイヤモンドに特化してきた原石プランニング技術をラボグロウンダイヤモンドにも応用し、成長市場への本格参入を表明。天然とラボグロウンの双方をカバーすることで、収益基盤の安定化を図る。
さらに、新たな成長軸としてM&Aを加速させている。AIを活用した品質管理ソリューションを提供するKitov.ai社の買収交渉を前進させており、まず410万ドル(約6億1,500万円)を投じて33%の株式を取得。将来的には260万ドル(約3億9,000万円)の追加融資を株式に転換し、過半数の51%を取得する計画だ。これは、ダイヤモンド業界で培った技術を他分野へ展開し、事業ポートフォリオを多角化する明確な意思表示と言える。
懸念は米国の高関税、年末商戦に暗雲
しかし、同社の先行きには不透明感も漂う。最大の懸念材料は、米国がインド産ダイヤモンド製品に課している50%という高関税だ。Sarineは「関税を巡る不確実性が、米国の主要小売業者による、年間で最も重要な年末商戦に向けた発注の遅延を引き起こしている」と指摘。この貿易摩擦が、ただでさえ冷え込んでいる市場にさらなる打撃を与えかねないと警鐘を鳴らした。
2025年後半の天然ダイヤモンド需要は現状レベルで推移すると予測するものの、米印間の関税問題が市場の不安定要因となるリスクは依然として高い。
Sarineの苦境と戦略転換は、ダイヤモンド業界のサプライチェーン上流で起きている地殻変動を象徴している。天然とラボグロウンの勢力図の変化、そして地政学リスクが複雑に絡み合う中、日本の宝飾業界もこのグローバルな市場環境の激変を注視し、変化への対応を迫られる局面にあると言えるだろう。
コメント