
GIAは2025年秋の「Lab Notes」で、通常の天然ダイヤモンドでは稀な挙動を示した2.50カラットのサンプルについて報告した。詳細はGIAの論文「Type IIa/IaB Diamond Showing Transient Type IIb Responses」に掲載されている。
このダイヤモンドは、通常はType IIa/IaBと呼ばれるタイプに分類され、カラーグレードはD、クラリティはVS1、ポリッシュとシンメトリーもExcellentを獲得した高品質な宝石だ。ところが深紫外線(UV)への曝露後に一時的にType IIbと反応する挙動が観察された。Type IIbは天然ダイヤモンド全体の0.1 %にも満たない極めて稀なタイプで、ホウ素(boron)による特異な性質を持つことが知られている。
GIAの検査チームがこの石を深紫外線にさらした後、赤外線分析(FTIR)で2800 cm⁻¹付近に反応が現れた。この波長は、通常はType IIbで観察される「未補償のホウ素吸収」に対応する。しかし、その反応は数分で消失し、元のType IIa/IaBの特徴に戻った。この一時的な反応のため「一時的なType IIb反応」と表現されている
GIAの報告では、ホウ素が一時的に“未補償状態”(uncompensated boron)となり、その後徐々に元の状態に戻った可能性が示唆されている。これは従来の知見ではあまり例のない現象であり、過去の研究ではごく稀に似た反応が報告されているものの、ここまで大きく高品質な石で観察された例は極めて珍しい。
この報告により、GIAは次の点に注意するように促している。
まず、単一の簡易検査で天然かラボグロウンかを判断するリスクだ。一般に強い青色の燐光(phosphorescence)は、HPHT方式のラボグロウンダイヤモンドで見られる特徴とされてきたが、今回の天然ダイヤモンドも長く強い燐光を示した。GIAは「単一の観察結果だけに頼ると誤識別につながる可能性がある」と指摘している。
次に、化学的に極めて稀な挙動を示す天然石の存在が、分類システムの見直しや識別手法の改善の必要性を示唆していることだ。天然ダイヤモンド内部の微量元素や結晶欠陥は非常に複雑であり、深紫外線や高度分析機器による検査が必須となるケースもある。さらに、天然ダイヤモンドの価値訴求における鑑別、鑑定の明確化がますます重要になる。天然の「例外的な挙動」が発見されることで、ラボグロウンとの鑑別技術だけでなく、品質評価基準そのものの深化と教育が求められるという現実を示している。
GIAの今回の報告は、天然ダイヤモンドの鑑別がいかに複雑なプロセスかを示している。技術の進展により、従来は見えなかった挙動や微細な化学的特徴が観察可能となり、それが鑑別精度の向上と価値評価の深化につながる可能性がある。天然ダイヤモンドは、希少性と美しさだけでなく、科学的にも複雑で豊かな情報を内包する素材であるということを、今回のGIA報告は改めて示している。


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