ラボグロウン、オスカーのレッドカーペットへ

2026年3月15日(米国時間)、ロサンゼルスのドルビー・シアターで開催された第98回アカデミー賞のレッドカーペットにおいて、ラボグロウンダイヤモンドを用いたジュエリーが着用され注目を集めた。注目を集めたのは、映画『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ(Marty Supreme)』で話題を集めたオデッサ・アザイオンが着用したパンドラのジュエリーだ。報道によれば、オデッサは計約55カラット、合計148石のラボグロウンダイヤモンドを用いた3本のネックレスを着用し、そのうち象徴的な2連ネックレスは、パメラ・アンダーソンが2024年のメットガラで着用したピースを再構成したものであった。

衣装はヴァレンティノの黒を基調とした装いで、ジュエリーはそれに対し伝統的な一粒使いではなく、複数のネックレスを重ね、身体のラインに沿って流すように構成された。本人も、典型的なレッドカーペット向けの見せ方ではなく、日常の自分らしい重ね付けの延長として、ただしそれをダイヤモンドで拡張した感覚だと語っている。

今回使われたジュエリーは、新作を一から作ったのではなく、既存のレッドカーペット用ピースを再編集して用いている。今回のネックレス群は、パメラ・アンダーソンが2024年のメットガラで着用したセットをもとに再構成された。元の2024年版は、白色とピンクのラボグロウンダイヤモンドを含む約200カラット規模の特注作品で、肩から背に流れる二連のダイヤモンドストランドとブローチで構成されていた。今回、豪華さの誇示だけではなく、「既存資産を再文脈化して使う」という編集思想そのものがジュエリー表現になっていた。

このジュエリーを製作したパンドラという企業の立ち位置も興味深い。同社は自らを「世界最大のジュエリーブランド」と位置づけ、100カ国超で販売し、約7,000の販売拠点と2,800超のコンセプトストアを展開している。今回のオスカー露出は一部の先鋭的デザイナーによる実験ではなく、グローバル量販力を持つ巨大ブランドが、ラボグロウンダイヤモンドをレッドカーペット級の記号として本格運用し始めた事例だ。業界にとっては、これはニッチの話ではなく、マス市場とカルチャー市場の接続だと言える。

同社のラボグロウン戦略も一貫している。パンドラの公式説明によれば、同社のラボグロウンダイヤモンドはCVD法で生成され、2022年8月以降は生成・研磨・カットに100%再生可能電力を使用し、2024年には全製造を100%リサイクルシルバー、リサイクルゴールドへ移行した。同社は、白色の完成済みラボグロウンダイヤモンド1カラット当たりの炭素排出量を約9.17kg CO2eとし、同サイズの採掘ダイヤモンド比で約95%低いと説明している。もちろんこれは企業自身の評価であり、そのまま業界共通指標とはならないが、少なくとも消費者向けの物語としては極めて強い。レッドカーペットにおいても、「倫理性」「再利用」「低炭素」「大胆なスタイリング」が一つのパッケージとして提示されている。

一方で、2026年オスカー全体を見れば、天然ダイヤモンドの存在感が失われたわけではない。VogueやTown & Countryなどの報道では、アン・ハサウェイが8.02カラットのイエローダイヤモンドを中心に35カラット超のブルガリのハイジュエリーネックレスを着用し、テヤナ・テイラーはティファニーの60カラット超のダイヤモンドネックレスをまとった。さらに、デビアスなど天然石を前面に出すブランドも存在感を示した。「天然の希少性・資産性」と「LGDの編集自由度・ストーリー性」が、異なる役割で共存する局面に入ったと捉えられる。

LGDはもはや価格訴求だけの商品ではない。今回のオスカーで注目されたのは、カラット数の大きさそのものよりも、重ね方、再構成、身体との関係、そして「以前のレッドカーペット作品を別の物語へ転用する」という編集性であった。消費者が関心を持つのは石の出自だけではなく、その石がどのような価値観のもとで着用されているか、という点だ。そして、天然ダイヤモンド側もまた、希少性、クラフツマンシップ、資産価値、歴史性という強みをより明確に言語化しなければ、比較軸を誤る危険がある。

今回本質的には、ジュエリーの価値基準が、希少素材の一点突破から、素材・物語・倫理・スタイリング・再利用可能性を束ねた総合演出へと移っている、という変化の可視化だと捉えられる。レッドカーペットは常に市場の最前線を先取りする。そこでLGDが主役の一つとして機能した以上、日本市場でも「安いダイヤ」か「本物ではないダイヤ」かといった古い二分法だけでは、もはや議論が追いつかない段階に入ったのではないだろうか。

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