ダイヤモンド業界の著名なアナリストであるポール・ジムニスキーは、「オムニチャネル」(デジタルと実店舗のショッピング体験の統合)が、2020年と2021年のパンデミックによってジュエリーショッピングへのアプローチになったことを指摘する。
アメリカのジュエリー最大手ジュエリー小売企業であるシグネット・ジュエラーズは、「同社の売上高の80%は2,800以上の実店舗によるものだが、その顧客の65%は少なくとも一つの同社のデジタルサイトを訪問している。」と述べた。そのためシグネットは、拡張仮想顧客サービスシステムや、顧客向けの革新的でパーソナライズされたデジタルエクスペリエンスなど、「データ駆動型」オムニチャネル戦略の強化に約2.5億ドルを費やす予定だとしている。(昨年度の営業利益は9億ドルであり、約28%をデジタル戦略強化に充てることになる。)
シグネットだけでなく、世界中のジュエリー小売企業のほとんどが同様の戦略を採用してる。昨年、中国の周大福はポール・ジムニスキーに次のように語っている。「コロナの発生は、我々のオムニチャネル開発をスピードアップさせました。デジタルエンパワーメントは今後数年間で我々の重要な戦略になるでしょう。何があっても、私たちはECとO2Oの両方に投資し続けます。」
大手ハイエンド商業施設ディベロッパーであるウェストフィールドは、オムニチャネル戦略が今後数年間で小売戦略をどのように推進するかについて次のように説明した。
「次の10年の買い物方法」というタイトルの2021年のクライアントレポートで、ウェストフィールドは、「オンラインで購入し店舗で受け取り」の人気が高まるにつれて、2025年までに「小売業者は製品よりも多くのスペースを体験に割り当てる」と予測した。この概念を「upside-down retail(逆さまの小売り)」と呼び、この傾向は「体験型」と「従来の小売」を組み合わせる方法だと言う。
たとえば、LEDウォールと仮想製品テクノロジーを使用して、店舗内に魅力的な「小売シアター」を作成できる。さらに、店舗内のデジタルパーソナライズツールを使用すると、顧客はビジュアルとサウンドを通じてブランドに没頭しながら、商品を仮想的に試し、テストし、カスタマイズすることができるという。
ウェストフィールドのレポートでは、「消費者は買い物をするときに日常から逃避したいので、逃避体験のアイデアに特に惹きつけられる。」と結論付けている。小売業者はこれを受け入れる必要があるという。
一方で、もともとオンライン販売を主戦場とするEC小売大手業者はここ数年でより「実店舗化」している。2018年後半、EC大手であるジェームズアレンは、上記のような店内テクノロジーを多くを採用たコンセプトストアをワシントンD.C.にオープンした。その後、同社の親会社であるシグネットは複数のジェームズアレン/ ジャレッドのコンビネーションストアをオープンしている。ジャレッドはシグネットのハイエンドブライダルブランドだ。 店舗には、「モダンで暖かく、リラックスした」環境のコーヒーバーがあり、アップルストアのコンセプトと同様に、販売員と顧客が並んで接客するスタイルを採用している。
また同じくECジュエリー小売大手のブルー・ナイルは、2025年までに最大100の実店舗の「ウェブルーム(ショールーム)」を計画している。
米国を拠点とする、「デジタルネイティブ」をターゲットにしたオンラインダイヤモンド小売業者であるブリリアントアースは、米国の主要地域を中心に実店舗のショールームをオープンし続け、総店舗数を18に増やしたと語った。2022年5月上旬現在、経営陣は、「ショールームが当初の期待を上回っており、オンラインよりも顧客のリピート購入率が高いことに気づいた。」とアナリストに語ってる。
デジタルネイティブと呼ばれるミレニアル世代やZ世代などの今後の主要消費者層は、消費活動に関してオフラインとオンラインを明確に区別していない。実店舗とデジタルの両輪をどう有効に戦略展開できるかは、今後ジュエリー小売の重要な要素になってくるだろう。
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