ラボグロウンダイヤモンドは市場シェアを拡大し、天然ダイヤモンドを凌ぐ輝きを見せている。しかし、その強みである低価格と大きなカラット数が、かえって「別物」という認識を消費者に植え付けてしまう可能性がある。ウォール・ストリート・ジャーナル紙が調査したアナリストや企業の見解から、そんな懸念が浮かび上がっている。
新型コロナウイルス感染症のパンデミック後、ダイヤモンドの需要は2021年から2022年にかけて急増したが、その後、2020年第1四半期と比較して価格が8%下落し、ラボグロウンダイヤモンドの価格は4分の3も下落したと『ウォール・ストリート・ジャーナル』は報じている。これは産業アナリストのポール・ジムニスキーの分析を引用したものだ。
ラボグロウンダイヤモンドの価格は製造コストの減少により下落し続け、天然ダイヤモンドの価格は需要の低迷により下落していると、ニューヨークを拠点とするジムニスキーは述べている。この下降トレンドをきっかけに、ダイヤモンド界の巨人であるデビアスは、12月の販売時に原石価格を10%から15%引き下げた。
デビアスは価格差の拡大がラボグロウンダイヤモンドをまったく異なるカテゴリーとして消費者に認識させるという賭けに出ている。同社の子会社であるラボグロウンダイヤモンドジュエリーブランド、ライトボックスは、市場価格を下回る価格を提供することもあり、その価格差の拡大が両者の違いを認識させていると、デビアスブランドCEOのサンドリン・コンセイラーは述べている。
世界的な不況と中国市場の動向
世界的に見ると、ダイヤモンドの売上不振により、最大の生産国であるボツワナの経済は1.7%縮小する可能性があるとロイター通信は報じている。またフィナンシャル・タイムズは、デビアスが2008年以来最大のダイヤモンド在庫を抱えていると報じている。
一方、世界最大のダイヤモンド市場である米国では、消費者は天然ダイヤモンドよりも、より大きく安価なラボグロウンダイヤモンドをますます購入するようになっている。業界アナリストのエダン・ゴランによると、天然ダイヤモンドジュエリーの売上は前年同期比で11月までで0.7%減少したのに対し、ラボグロウンダイヤモンドジュエリーの売上は12.5%増加した。
通常は世界第2位の市場である中国でも、需要は低迷している。ゴランによると、2024年のダイヤモンドジュエリーの需要は、すでに低迷していた2023年に比べて約4分の1減少したという。これは、他の高級品の消費動向と一致しており、経済的な不安からダイヤモンドよりも金の方が人気になっているようだ。
ワールド・ゴールド・カウンシルによると、2024年7月時点で、中国の宝飾小売業者の売上の約77%が金の投資商品または金の宝飾品であり、2年前の71%から増加している。ダイヤモンドの売上構成比は、同期間に16%から9%に低下した。
小売業者にとってのインセンティブ
小売業者にとっては、天然ダイヤモンドよりもラボグロウンダイヤモンドを販売する方が高いインセンティブがある。ラボグロウンダイヤモンドの生産コストがそれを使用したジュエリーの小売価格より速く下がっているためであると、シグネット・ジュエラーズが12月の決算発表で述べた。
生産コストの低下は、メーカーと小売業者の両方が、より低い価格でより高い利益率を確保することにつながる。これはひいては、これまでダイヤモンドの婚約指輪を購入したことがなかった、あるいはダイヤモンドを使用したジュエリーを新たに求める顧客を増やすことにつながる。ボストン・コンサルティング・グループとデビアスのレポートによると、昨年第1四半期の時点で、1.5カラットのラボグロウンダイヤモンドは、同等の品質の天然ダイヤモンドよりも約80%安価であった。2018年には、この差は40%だったとウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。
天然への回帰と小売業者のジレンマ
BHPによる430億ドルの買収提案が成功しなかったことに伴う再編成計画の一環として、デビアスを売却することを決定したアングロ・アメリカンは、その戦略を天然ダイヤモンドのマーケティングに方向転換する予定であると、CEOのアル・クックは6月に発表した。同氏はライトボックスを縮小し、ラボグロウンダイヤモンド生産を産業用途に重点を置く予定であると述べている。
しかし、天然ダイヤモンドに関連する主要な問題は小売業者のインセンティブだ。米国の場合ほとんどの消費者は、店舗でラボグロウンダイヤモンドを選択するため、小売業者は顧客により大きなラボグロウンダイヤモンドを使用したリングにアップグレードさせることが賢明だった。2019年、1~1.49カラットの天然ダイヤモンドから2カラットのラボグロウンダイヤモンドにお客様の商品をアップグレードした宝石商は粗利が1,500ドル多かったとボストン・コンサルティング・グループの報告は伝えている。
しかし、2023年にはラボグロウンダイヤモンドの小売価格が下落し、状況は一変した。レポートによると、小売業者は、1~1.49カラットの天然ダイヤモンドと同じ粗利益を得るためには、顧客を3カラットのラボグロウンダイヤモンドにアップグレードさせる必要が生じたという。小売業者にとってはカラットサイズをアップさせることがいずれ限界に達する可能性がある。4カラットや5カラットの婚約指輪が当たり前になることは想像しがたい。
利益率のピークと今後の展望
ジムニスキーによると、今四半期に一部のルースラボグロウンダイヤモンドの小売利益率が過去最高を記録した後、これがピークに達した可能性を示唆する兆候があるという。
卸売価格は数年間の急速な下落を経て底を打っているとアナリストは述べており、ウォルマートがラボグロウンダイヤモンドの販売を開始したという事実は、この市場の競争が激化していることを示している。
ラボグロウンダイヤモンドの小売利益率が天然ダイヤモンドレベルに落ちる場合、高品質の1カラットラボグロウンダイヤモンドは現在の小売価格よりも大幅に低下する可能性があり、これにより同等の天然んダイヤモンドとの価格差はより大きくなるとジムニスキーは指摘している。
天然ダイヤモンドの鉱山会社や小売業者は、今後、厳しい戦いを強いられることになりそうだ。
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